◆誰もが羨むような境遇の人でも……
人は精神的生き物です。
ただ本能だけで生きているのではなく、私たちには心があります。
食べたり、飲んだり、性欲を発散させたりという本能的な欲求が満ちていれば、それで幸せ……と単純にはいかない難しさを持っています。
先日も、若い女性タレントが自殺したというニュースが飛び込んできました。
有名になることに憧れている人からしてみれば、テレビに出てタレントという仕事をしている人が自殺するなんて信じられないと思うでしょう。
しかし、私たちは有名な俳優や女優であっても、お金持ちであっても、大きな家に住み高級車を乗り回している人であっても、自ら命を絶ってしまうことがあるということを知っています。
ある女性は「自分は鼻が低い」と悩み、別の女性は「自分の鼻は高すぎる」と悩みます。ない人から見れば、持っている人はうらやましく、持っている人から見ると、それがコンプレックスだったりします。
ある日、お世話になっていた目上の男性とばったり会い、街中でちょっと立ち話をしたときのことです。
彼はそこそこ年齢もいっているのに、いっこうに太る気配もなく、とても引き締まって見えます。私は何かの拍子に、親しみをこめて「痩せてますね~」と笑いかけました。
すると、後日、その私の発言についてお叱りを受けたのです。
「自分は太れないことがコンプレックスなのだ。それなのに、自分の容姿を笑い物にするとは何事だ!」と……。
びっくりしましたね。私にはそんな気はまったくなく、むしろ「いいですね、太らなくて」という意味をこめて言ったのですから。
彼は教師で、多くの人を教えている立場の立派な人でしたから、まさかこのような反応が返ってくるとは夢にも思いませんでした。
◆ありのままの自分を受け入れているかどうか
人の心とは本当にわからないものです。
冒頭で言ったように、私たちは心を持った生き物なので、心の状態が健全でないと、何を持っていても、何をやっていても幸せだと感じられないし、充実した日々を送ることができません。
人からどう見えるか、どのくらい美しく見えるか、どのくらい羨ましがられるか、あるいは、どのくらい成功しているように見えるかなどは、その人の心の状態を反映していません。
私の知人の例でもわかるように、私から見る彼の姿と、彼自身が見る自分の姿との間には大きな隔たりがありました。
私が「良いこと」と思ったことは、彼にとっては「悪いこと」であり、触れてほしくないことだったのです。
彼の問題は何かというと、それは「自分自身の姿をありのまま受け入れることができない」ということです。
太っていようが痩せていようが、それが自分自身なのだから、その自分の姿をありのまま受容しなければ、自分自身を他ならぬ自分が否定することになるという矛盾を生んでしまいます。
このような状態を、私は「自己矛盾の状態」と呼んでいます。
本人が自分自身を見たとき、自分についてどう感じているかは、私たちから見えるその人の姿と一致していないことが多いものです。
とても重要なことを言います。
これはこの本を貫いている、大切なメッセージのひとつです。
人は、自分自身のありのままの姿を、積極的に受け入れることができなければ、心に充足を得ることができません。
今の自分がどうであれ、自分をありのまま受け入れられることは、精神的な生き物である人間にとって、満ち足りた人生を歩むために欠くことのできない条件なのです。
◆自己矛盾を抱えたままでは幸せになれない
あなたは自分が好きですか?
今置かれている環境や、今の自分の状態に満足していますか?
もしそうでないとしたら、何が変われば、あなたは今よりも良くなれると思いますか?
こんなことを聞くと、多くの人が、決して変えられないことについて口に出したりします。
たとえば、「もっとかわいかったら違う人生だったのに」なんて言う女性もいるし、「あと10歳若ければ」などと嘆く人もいます。
「こんな時代じゃなかったら」とか、「アメリカ人だったらよかったのに」などと言う人もいたりして、それはいろいろです。
ユーミンの歌ではないですが、「あの日にかえりたい」なんて言う人もいます。
ありし日に思いを馳せ、センチメンタルに一人浜辺にたたずみ夕日を眺めるなんていうのも、ロマンチックで素敵なことかもしれません。過去に目をやるとき、それが美しい思い出となっていれば、それは実に素晴らしいことです。
ところが、過ぎ去った過去を変えたいという願望は、必ずしも健全なことではありません。
受け入れられない過去があるとき、肯定的に自分を受け取ることができないという自己矛盾状態を生み出してしまいます。
前述した私の知人と同じ状態ですね。
そういう人にとって、過去を思い出すことは、美しい思い出にひたることではなく、イヤな事実を閉め出そうとする抵抗です。これは大きなストレスを生みます。
このような状態の心は決して休まることがありません。