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小澤治三郎 果断・寡黙・有情の提督
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ルポ・エッセイ
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第七章 暗号指令「西の風晴れ」

『小澤治三郎 果断・寡黙・有情の提督』
[著]宮野澄 [発行]PHP研究所


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──ついに、アメリカとの戦争に突入



(こころざし)」と相反する陸軍の方針



 小澤には、果てしなく続く海と波浪とを見ていても、広がる大空と流れる雲を(なが)めていても、胸中に消えない一つの文字があった。


 その文字とは「(こころざし)」である。


 彼が艦の司令官室にも、航空戦隊の司令官室にも、当局から(にら)まれていた総合雑誌『中央公論』を机上に置き、外出のときにも携行したのは、この雑誌に流れる編集者の()(ぜん)とした「志」に()かれたからである。


 日本がどう歩いたらよいか……。時の流れを見失わないためには、一方に偏した考え方だけに囚われてしまうのは、すこぶる危険なことだという信念が小澤にはあった。彼自身、軍人の道を選んでしまった以上、有事のときには、戦わなければならず、戦う以上、(やぶ)れてはならないことも承知していた。


 だからといって、戦うことだけを考えることは、彼の「志」が許さなかった。戦いによって国民が(こうむ)る惨禍は、第一次世界大戦で()のあたりにしていたからだ。


 ただ残念なことに、個人の意思などは、国と国との論理の前には打ちひしがれてきたことを、これまでの歴史の中で、しばしば小澤は見てきてしまった。大きな流れの前には、少数の意思などは飲み込まれてしまうのだ。


 現に、(この)()(ふみ)麿(まろ)首相が掲げた「新体制の確立」という声明以来、政党、言論界、軍部らは、「新体制に乗り遅れるな」と(あわ)てふためいた。そこには、「新体制とは何か」という問いはなかった。それぞれの(おも)(わく)で勝手に「新体制」を思い描いていたのである。


 とくに陸軍が、ドイツのナチスのような一国一党を実現し、日中戦争の中止どころか、対米英戦を実行できる政府の樹立と、戦争遂行体制の確立を目指し、ドイツと歩調を合わせて世界秩序の変革をもくろんでいた。海軍では、良識派と言われる()(ない)(みつ)(まさ)、山本五十六、それに小澤と親しい井上成美のトリオが、激しく陸軍の方針に反対していた。小澤も、もちろんこのトリオの考え方に共鳴していた。「志」といっても、国や国民を(あや)うくする信念というのは、とても「志」とは認められず、たんなる「()(ぼう)」に過ぎないと見ていたのだ。


 小澤にとっての悩みは、自分の「志」と違い、もしかすると国の歴史に、経験したことのない結果をもたらすことになるかもしれない戦争が起こること。そして、その戦争を勝利に(みちび)くために戦わざるを得ない立場になることであった。海軍の一員としては仕方がない、と言えばそれまでだが、このままでは自分の「志」とは、まったく異なる生き方を()いられるようになるのは必至で、もはや自分の中で決着をつける他はないと思っていた。


 事態は、あきらかに好ましくない方向に流れつつあった。


海軍大臣に提出した画期的な意見具申書



 昭和十五年六月、太平洋戦争勃発の約一年六カ月前であるが、小澤は「航空艦隊編成に関する意見」を軍令部長にではなく、編隊編成に関する権限を持つ(よし)()(ぜん)()海軍大臣に提出した。

一航戦機密七号ノ二三」が、文書のナンバーである。その内容は次のとおりであった。


航空艦隊編成に関する意見


 現平時編成中の連合艦隊航空部隊は、一指揮官をして、(これ)を統一指揮せしめ常時指揮官指導の下に訓練し得る(ごと)く、(すみ)やかに連合艦隊内に航空艦隊を編成するを要す。

理由


 海に()ける航空威力の最大発揮は、適時適処に全航空攻撃力を集中するに在り。


 (しこう)して右攻撃力の集中は平時より全航空部隊を統一指揮し、建制部隊として演練し置かざれば、航空戦の特質上戦時即応すること困難なり。


 之を詳述すること左の如し。

一、全航空部隊の統一指揮実施に際し、一時的軍隊区分に()る時は、()の指揮も(また)一時的にして、上下の心的結合疎略となり(やす)きのみならず、各飛行機隊間の心的結合にも欠くる所極めて多し。

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