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小澤治三郎 果断・寡黙・有情の提督
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ルポ・エッセイ
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第八章 名将は名将の心を知る

『小澤治三郎 果断・寡黙・有情の提督』
[著]宮野澄 [発行]PHP研究所


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──陸海両軍の心を結びつけた小澤治三郎の英断



紛糾したマレー上陸地点論争──「小澤の決定に従ってくれ」



 小澤が指揮を執った作戦については、大本営戦争指導班の『機密作戦日誌』に、次のように記載されている。



 (やま)(した)(とも)(ゆき)中将指揮の第二十五軍は、小澤提督()()の南遣艦隊と協力の(もと)に、南部タイに奇襲上陸、南雲中将の第一航空隊は、真珠湾を奇襲、(いず)れも成功、ここに世紀の戦いが起こった。



 この作戦は、(しよ)(せん)における最重要作戦であったので、開戦に先だつ昭和十六年十一月十日、東京の陸軍大学校において、陸海軍最高指揮官協定が行なわれた。参集者は連合艦隊の各司令長官及びその幕僚と、陸軍側の南方総軍司令官及びその幕僚であった。


 小澤は、すでに猛暑とスコールの中を、サイゴン飛行場に到着、そのまま旗艦「()(しい)」に乗艦していたので、この会議には出席できなかった。


 会議の席上、陸軍側からマレー上陸作戦の上陸地点に、コタバルを加えてほしい、という強い要求が提出された。


 コタバルは敵方に接近している。海軍側では大きな危険が(ともな)う。海軍側は真っ向から反対し、それに代えてシンゴラが適当との意見を提出した。


 陸海共同の上陸作戦では、昔から上陸地点が争点になる。当然、白熱した議論が()く。双方(ゆず)らず結論が出ない。じっと議論を聞いていた山本は、やがて重い口を開いた。

上陸地点は、現地にいる小澤がよいように決めると思うから、それに従ってほしい」と、ややきつい口調で言って議論を打ち切った。


艦を動かすのも人、戦うのも人



 小澤は、南遣艦隊司令長官に赴任する直前、佐伯(さいき)湾の「()()」にいた山本を訪ねて来たが、山本は、小澤に言葉らしい言葉をかけてやれなかっただけに、大きな悔いが残っていた。


 小澤が訪ねて来たとき、山本には、反対し続けたアメリカとの戦争になってしまったことへの忿(ふん)(まん)と、早期終戦にどうしたら一日も早く到達できるか、そのことだけが頭の中を駆けめぐっていたのだった。


 小澤に対する信頼は、きわめて厚かった。実戦派の彼なら、図上派の参謀たちとちがい、説得力のある言葉で、上陸地点を陸軍側に納得させるにちがいないとの信頼があった。小澤は図上作戦も戦術の教本も、ほとんど信用しない男である。実戦は教条的なものではない。艦を動かすのも人、戦うのも人、戦闘に(のぞ)んで(りん)()(おう)(へん)、柔軟冷静に対応しなければならないとの信念を持っていた。山本が小澤を信頼したのは、この点である。


 しかし、その小澤には、地形も敵情も分からぬ点に不安があった。


 だからこそ、小澤は連日の猛暑の中を、サイゴン、ツドウム、ソクトランなどの航空基地の拡張工事や、カムラン湾サンジャックなどの前線基地を精力的に見てまわり、状況や士気をつぶさに理解し、マレー、シンガポール、ボルネオ、スマトラ、ジャワ、印度洋方面の敵情、地形、天候などについても熱心に研究した。


 また、第二十五軍参謀(つじ)(まさ)(のぶ)の、タイ国、マレー要地の上空偵察報告には深い関心を寄せた。ただ、当初の南遣艦隊の兵力は、旗艦香椎のほかには、海防艦(しゆむ)(しゆ)、水上偵察機六機、設営大隊(主として航空基地整備)、第十一根拠地隊程度のごく小規模なものに過ぎなかった。


 そこで、南方作戦が、緒戦での重要さと、以後の戦況に大きな影響を及ぼすだろうと判断した大本営と連合艦隊司令部は、兵力を大幅に増強することを決めたのだった。


兵力増強で大艦隊を編成



 兵力の増強は決定したものの、あまりに早く現地に集結させると、敵に作戦の企図を知られる危険が高かったので、海上兵力は十一月末までに(かい)(なん)(とう)(さん)()港に、航空兵力は十二月二日までに、仏印南部飛行場に、逐次進出させることにした。


 増強した兵力の全容は、次のとおりである。


第七戦隊(旗艦(くま)()=一万トン級巡洋艦、熊野、(すず)()()(がみ)()(くま)

司令官(くり)()(たけ)()少将

第三水雷戦隊(旗艦(せん)(だい)

第十一駆逐隊吹雪(ふぶき)(しら)(ゆき)(はつ)(ゆき)

第十二駆逐隊(むら)(くも)東雲(しののめ)(しら)(くも)

第十九駆逐隊(いそ)(なみ)(うら)(なみ)(しき)(なみ)(あや)(なみ)

司令官(はし)(もと)(しん)()(ろう)少将

第四潜水戦隊

第十八潜水隊(伊五三、伊五四、伊五五)

第十九潜水隊(伊五六、伊五七、伊五八)

司令官(よし)(とみ)(せつ)(ぞう)少将

第五潜水戦隊

第二十八潜水隊(伊五九、伊六〇)

第二十九潜水隊(伊六二、伊六四)

第三十潜水隊(伊六五、伊六六)

司令官(だい)()(ただ)(しげ)少将

第六潜水戦隊所属第九潜水隊

(機雷敷設潜水艦、伊一二三、伊一二四)

第十二航空戦隊

特設水上機母船(かみ)(かわ)丸、(さん)(よう)

司令官(いま)(むら)(おさむ)少将

機雷敷設艦

(たつ)(みや)丸、(ちよう)()

第二十二航空戦隊

(げん)(ざん)航空隊

()(ほろ)航空隊

司令官(まつ)(なが)(さだ)(いち)少将

第九特別根拠地隊(旗艦(はつ)(よう)

相良(さがら)

第一掃海隊(一、二、三、四、五、六号掃海艇)

第十一駆潜隊(七、八、九号駆潜隊)

司令官(ひら)(おか)(くめ)(いち)少将

第十特別根拠地隊

通信隊、陸戦隊一個中隊等

司令官(おく)(しん)(いち)少将

工作艦・(あさ)()

病院船・朝日丸

給炭艦・(むろ)()



 この増強した編成は、いわば寄せ集めの感がある。それに大艦隊であるだけに、意のままに動かすのは容易ではない。


 指揮統一を図るには、指揮官が先頭に立たなければなるまい、と小澤は思った。


前線を知り、人を熟知すれば不安感はなくなる



 指揮官が先頭に立って陣頭指揮を執るためには、小澤は旗艦用として、大型巡洋艦がもう一隻必要になると思ったので、山本に要請した。


 なぜなら、有力な敵主力艦隊が印度洋に出没していたし、イギリス東洋艦隊も近くシンガポール方面に増派される、という情報も入手していたからであった。


 小澤は、これらを捕捉撃滅して、作戦の成果を決定的にするために、さらに中攻一隊の増派も山本に要請した。山本は、小澤の判断に全幅の信頼をおいていたので、山本の判断で小澤の提案を受け入れた。


 海軍が真珠湾の奇襲に力を入れていたように、陸軍では開戦(へき)(とう)のマレー作戦をもっとも重視していたのである。


 そのために、山下(とも)(ゆき)中将率いる最精鋭の第二十五軍(第五、第十八師団、近衛師団)と、第三飛行集団を振り当てていた。兵器、航空機、装備はもちろん、輸送船、上陸用舟艇なども当時の陸軍では第一級のものを配したのである。


 小澤が大型巡洋艦一隻を配属してほしいと山本に要請したのは、()(しい)では、速力が一八ノットしか出ず、攻防両面でも貧弱で、指揮官陣頭指揮を決意していた小澤としては、旗艦とするには心もとなかったからだった。

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