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(2021/11/26 追記)

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現代語訳 風姿花伝
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生き方・教養
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第三 問答條々

『現代語訳 風姿花伝』
[著]世阿弥 [訳]水野聡 [発行]PHP研究所


読了目安時間:16分
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 問い そもそも申楽を始めるにあたり、当日に臨んで開演前の観客席を見る。するとその日の吉凶が占えると聞いたが、いかにしてわかるのであろうか。



 答え このことは一大事である。その道を体得した者でなければわかるものではない。


 まずその日の会場を見ると、今日の能は上出来か、良くないかの()(ちよう)があるもの。これは申し難いが、おおよその(りょう)(けん)をもって見ると、神事、貴人の()(ぜん)などの申楽で、大勢の客が詰めかけ、会場がいまだざわついていたとする。こうした時シテは客席が静まるのをじっと待つ。観客は申楽の開始を待ちわびて、数万人の心がひとつとなり、今や遅しと楽屋に意識が集中する。この時を見計らって登場し(いつ)(せい)(注一)を謡いだすのだ。すぐに客席も時の調子に移って、万人の心がシテの振る舞いに()(ごう)し、しみじみとなる。こうなれば、何をしようともその日の申楽はもはや成功だ。


 とはいうものの、申楽というものは貴人のお出でを(もと)とするもの。もし早くお見えになった場合は、すぐにも始めなければならぬ。しかし観客はいまだ落ち着かず、遅れてかけつけ、立ったり座ったり、と万人の心はまだ能を見る準備ができていない。したがって、たやすくはしみじみとなることもない。こうした時の脇の能(注二)には、どんな役で出たとしても、日ごろよりは色々と振りをも繕い、声も(こわ)(ごわ)と使い、足の運びもやや大きめに、立ち振る舞う風情も観客の目をひきつけるように、いきいきとすべきだ。これは客席を静めるためである。このような状況でも、なおのことその貴人の心に(かな)う芸をすべきである。


 さてこういう時の初番の能が、十分に成功することは、返す返すもありえないことだ。しかし貴人の(ぎよ)()に適うことが本意なので、これは大事なことといえる。いずれにしろ客席が早々に静まり自然にしみじみとしてくれば、悪いことなど何もない。結局、客席の気負いや後れを読むということは、その道に()けた人でなければそうそう知りえるものではない。


 さらにいう。夜の申楽では様子が一変する。夜遅く始まれば、定めて湿るもの。されば昼であれば、二番目に演じる曲を、夜は初番に演じるべし。もしも初番で湿ってしまえば、その日は最後まで立ち直ることはない。いかにもいかにもよい能を利かすべきである。夜は少々客席がざわついていても、一声の謡い出しですぐさま静まるものだ。つまり昼の申楽は後半がよく、夜は最初がよい。もし最初に湿ってしまえば、立ち直る時期はなかなか巡ってこないものである。


 ()()にいう。そもそも一切のものは、陰、陽和するところの境に成就することを知るべきである。昼の気は、陽の気である。

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