『ビジネスエリートのための!リベラルアーツ 哲学』
[著]小川仁志
[発行]すばる舎
◆本章の活用方法について
哲学を学ぶには、歴史上の主要な哲学者とその中心となる概念を押さえておく必要がある。できれば時系列で、哲学史にのっとって、順番に理解していくのがいい。なぜなら、哲学の歴史は概念を発展させていくプロセスそのものだからだ。
ソクラテスに始まり、その弟子、そのまた弟子へと、現代に至るまで脈々と知の伝統が受け継がれているのである。もちろん国をまたいで受け継がれたり、時代を超えて受け継がれているものもある。
その中で時には批判的に継承されたり、ひょんなことから派生的にまったく新しいものが生まれたりもしている。しかし、いずれにしてもすべては哲学史のマップの中で展開しているものであることは間違いない。
ここでは、その中でも必須と思われる30人の哲学者を厳選し、時系列で紹介している。また、彼らの主要概念をこれも一つだけ厳選し、それについて詳しく論じる形になっている。
これによって、これまで二千数百年にわたる哲学の歴史の中で、いったい誰が、何を論じてきたのかがざっとわかるようにしたつもりである。
さらに、ビジネスの世界をはじめ現代社会の様々な場面において、私たちがそれらの概念をツールとしていかに活用することができるか、またそれを身につけることでどんな効果が得られるかについても言及している。
ぜひ単なる知の歴史というのではなく、使える知のツールのカタログとして、読んでいただきたい。
古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、二千数百年前、最初に哲学を始めた人物だとされる。だから哲学の父だといっていいだろう。もちろん、それより以前にも哲学者はいたが、彼らは自然哲学者といって、自然現象を解明しようとしていたにすぎない。世界はいったい何からできているのだろうか、水だろうか、それとも原子だろうかと。
これに対してソクラテスは、今私たちが哲学と呼んでいる物事の本質の探究方法そのものを確立したのだ。そしてそれを、知(ソフィア)を愛する(フィレイン)という意味の言葉で表現した。これがフィロソフィー、つまり哲学の語源になったのだ。
さて、そんなソクラテスが確立した哲学の方法とはどんなものなのだろうか。一言でいうと、それは質問をすることだ。とはいえ、これは単に問いを投げかけるというのとは違う。彼の質問法は「問答法」あるいは「産婆術」といって、相手に考えさせる点に特徴がある。そのためには、いい質問をしなければならない。
いい質問とは、相手が考え、答えを生み出す手助けになるようなタイプのものだ。だからまるで赤ちゃんが生まれるのを手助けする産婆さんみたいだという意味で、産婆術と呼ばれるわけである。これこそまさに哲学の基本だといっていい。人に質問してもらったり、あるいは自分で自分自身に問いを投げかけることで、考える契機を持つのだ。哲学はこうして始まる。
ソクラテスは、常日頃、物事を知ったかぶりしたらもうそれ以上賢くなれないといっていた。これを無知の知という。無知の知に陥ってしまうと、人はもうそれ以上自分に問いを投げかけることはなくなってしまう。それではもはや成長することも望めない。
私とは誰か? 世界とは何か? 愛とは? 自由とは? 一見当たり前に思っていることに、あえて問いを投げかける。すると、いかに自分がわかったつもりになっていたかに気づくだろう。そうしてはじめて、本当の私、世界の真の姿、愛の意味、自由の本質を知ることができるのだ。
そう、自分はわかっていない、だから質問する。こうした態度が、人を成長させるのである。自分に対して質問し、考えることで、能力が伸びる。人に対して質問すれば、人の能力を伸ばすこともできる。いい質問は、人を深く考えさせ、いい答えを生み出すのだ。