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イギリスの情報外交 インテリジェンスとは何か
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歴史
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まえがき

『イギリスの情報外交 インテリジェンスとは何か』
[著]小谷賢 [発行]PHP研究所


読了目安時間:7分
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 近年、「情報は大事だ」、という趣旨の論調をよく耳にする。ただしここで言う「情報」とはIT関連のことなどではなく、昔から「諜報」と呼ばれてきたスパイや国家組織による情報収集活動のことである。最近では「インテリジェンス」という単語でも通じるようになってきたが、とにかく、「今の日本には情報が不足している」、「日本にも情報機関を」という意見が目立つようになってきた。


 このような意見はどこまで事実を反映したものかはわからないが、確かに戦後の日本は対外情報収集活動を疎かにしてきたようにも見える。そもそも冷戦の「長い平和」にあって、日本は情報活動の重要性を認識しながらも具体的な対処を怠ってきたのではないだろうか。


 そして現在、そのツケは確実に朝鮮半島問題やイラク問題で表面化している。日本は独自で海外の情報を集め、分析判断する能力が欠落している、というわけではないのだろうが、一般的な風潮として、情報に関してはアメリカを始めとする外国の組織に頼るしかなく、自らの情勢判断で政治的決断を下すことができないでいるので、日本にも情報部が必要である、という主張が目立つようになってきた。


 ところが現実問題として、どのように日本の情報機能を拡充するのか、ということになるとかなり曖昧である。どこかの省庁が中心になって情報活動を行うのか、または内閣府か、それとも新たな情報組織なのか、それも判然としない。現状では警察や公安組織が情報問題に敏感であるが、公安組織は基本的に国内での情報収集、防諜活動が主務である。一方、外務、防衛の組織になると、対外情報収集活動を行ってはいるものの、大規模な情報活動となるとまだ暗中模索の状態であると言えよう。


 しかしそれよりも問題なのは、そもそもどのように情報組織を設置し、運営していくのか、という具体的な議論である。ここは日本としても欧米の情報先進国に教えを請いたいところであるが、情報活動とは本来、極秘に行われるものであるから、なかなかそのノウハウに接することはできない。国家にとってインテリジェンスとはブラックボックスなのである。


 例えば明治時代、日本は近代郵便制度が国家の情報収集の手段として発展してきたことを理解しないままに、その制度だけを表面的に受け継いでしまったし、またイギリスからは、「君臨すれども統治せず」の原則の裏側では、王室も時には情報活動に関与することもある、という事実を伝えられなかった。このように情報活動のノウハウというものは常に秘匿される運命にあると言えよう。また百歩譲って日本が法律を整備し、組織を作り、人員を集めたとしても、今度はどのようにして情報を収集し、それらを処理し、実際の政策運営に利用していくのか、という厄介な問題が存在するのである。問題は山積していると言えよう。


 それでは他の国はどのようにしてインテリジェンス活動を発展させてきたのか、ということになる。


 イギリスは一六世紀のエリザベス朝時代から延々と秘密情報活動を続けてきた結果、現在「007」で有名なMI6を築き上げた。アメリカはイギリスと協力しながらも第二次大戦の激闘を通じてCIAを作り上げ、旧ソ連は血なまぐさい内部抗争に明け暮れた結果、KGBを生み出した。要するに強力な情報組織を持つ国々は、国家の命運をかけた闘争を通じ、闘争を生き残る手段としてインテリジェンス機能を発展させてきたのである。


 日本にもそのような組織がなかったわけではない。鎌倉時代から江戸時代まで各幕府は一般に隠密と呼ばれるエージェントを利用して情報収集を行っていた。明治以降も日露戦争時における明石(もと)()(ろう)のようなスパイ・マスターの活躍や帝国陸海軍の特務機関など、近代日本の情報活動については枚挙に暇がない。しかし幸いと言うべきか、戦後の日本は死活的な闘争に巻き込まれることがなかったため、太平洋戦争以降、日本は自ら本格的な情報活動を行うというよりも、同盟国であるアメリカからの情報に頼ることが多くなってしまった。


 ところが冷戦後の世界情勢は急速に安定感を失っており、特にそれは東アジアにおいて顕著である。世界的な潮流としても、アメリカ同時多発テロとイラク戦争を機に、アメリカ、イギリスはインテリジェンス機能の大幅な変革を行い、冷戦後の世界戦略に合致した組織運営に乗り出している。冷戦期でさえ強力なインテリジェンスを有したこれらの国々が更なる進歩を遂げようとする中、日本の置かれている状況とインテリジェンスの現状は深刻である。


 現在、東アジア国際情勢の現状は刻々と変化しており、日本は冷戦後の混沌とした荒波に飲み込まれようとしている。従って最初の議論に立ち返るが、やはり日本にとってインテリジェンスを整備することが急務であり、そのための検討を進めていかなければならないだろう。


 恐らくインテリジェンスを研究する上で一番参考になるのは、イギリスの情報組織であると考えられる。イギリスが世界に誇るMI6は既に二〇世紀初頭には活動を開始し、情報収集を行っていたのである。従ってその活動の蓄積も膨大なものとなっている。


 他方、イギリスはその外交においても世界からの高い評判を得ている。東南アジア研究家の永積昭が、「原則があって外交上手な国は世界を見渡しても決して多くない。わずかにイギリスぐらいではないだろうか」と評するほど、イギリスの外交は上手く運営されてきたのである。


 我々はこのイギリスの得意分野──インテリジェンスと外交──を切り離して考えがちであるが、そもそも両者は一体となって運営されてこそ効果があり、老練なイギリス外交の背後には、常にインテリジェンス活動があると考えて差し支えないのである。


 従って我々がインテリジェンスを学ぶ方法としては、イギリス外交やその世界戦略の中で、イギリスのインテリジェンスがどのように機能してきたのかを調べることが比較的近道と言える。欧米の学会においてこのような研究のアプローチは既に「情報史(インテリジェンス・ヒストリー)」として知られており、研究が進んでいる。


 さらにイギリスにおいては、ここ数年でようやく二〇世紀前半の情報関連史料が公開され始めている。これらの史料は当時のイギリス情報部の働きを記録したものであり、我々がイギリスの情報活動を学ぶ上で貴重な資料であると言えよう。本書はこの史料を元に、一九四〇年代のイギリスがどのような手段で情報を集め、それを外交戦略に利用していたのかを記していくものである。公開された史料は膨大で、イギリスの世界的な情報戦略を俯瞰することが可能であるが、本書では我々にとって比較的馴染み易い、イギリスの対日政策の裏側を追っていくことになる。


 具体的には、一九四〇年から四一年にかけての日英米の国際関係を、イギリスのインテリジェンスを通して見ていくことになる。一九四〇年は欧州戦線の激化に伴って、イギリスの対日政策が著しく困難になっていく時期であった。この時期、アジアにおいて日本はイギリスに挑戦し、他方、イギリスは時間を稼ぎつつも外交面でアメリカに援護を求め続けていたのである。そしてこのようなイギリスの外交政策を支えていたのがインテリジェンス活動であった。


 よって本書の狙いは、イギリスの情報活動を知ることによって、これまで曖昧にされてきたイギリスのインテリジェンスと外交戦略の関わりを明らかにしていくことなのである。

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