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説教ストロガノフ かくも根深い「政治の劣化」を叱る!
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政治・社会
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第四章 軍国主義こそが中東を救う?──単純に割り切れぬ政治学

『説教ストロガノフ かくも根深い「政治の劣化」を叱る!』
[著]上念司 [著] 倉山満 [発行]PHP研究所


読了目安時間:46分
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「ダーイシュ(IS)」はそんなに強くない


 上念 卿らの討議も長いわりに、なかなか結論が出ないようだな。

 倉山 何ですか、いきなり。

 上念 オーベルシュタイン(『銀河英雄伝説』の登場人物)のセリフだよ。クールなキャラクター、最高だね。

 倉山 上念さんから最も遠いキャラですね(笑)。ちなみに本伝第二六話、キルヒアイス提督が殺されたあとの銀河帝国会議で、参謀長時代のオーベルシュタインが発したセリフです。で、何の話ですか。

 上念 もちろん、中東政策のことだよ。先日イスラエルへ行ってきましたが、周辺地域はアフリカも含めてまったく収拾がつかない。モサド(イスラエル諜報特務庁)の元エージェントから聞いた話では、「ダーイシュ」(イスラム教スンニ派の過激派組織、IS、いわゆる「イスラム国」)は実際にはそんなに強くないというのが、イスラエルの見方です。ただ情報収集能力に長けていて、守備の弱いところに集中的に攻撃を加える。シリアのアサド政権が守りを固めるような場所には、けっして近づかない。武器の出所は、イラク軍にアメリカが供与したものを奪っているという。

 倉山 「ダーイシュ(IS)」については、サウジアラビアが中心になって「対策」を行なっていると聞きます。

 上念 これはイスラエルの歴史学者、シロニー・ヘブライ大学名誉教授に聞いたのですが、基本的に「ダーイシュ(IS)」に対してパレスチナ、サウジ、シリア、イラン、イラクのいずれも敵と考えていると。

 倉山 あれと仲良くする国は一つもないですよ。周囲に味方が誰もいないから、自力で油田を押さえ、テロを起こすことで自ら株価をつり上げ、利益を得ていた。金融操作で活動資金を稼ぐのが「ダーイシュ(IS)」のビジネスモデルでした。

 上念 「ダーイシュ(IS)」は原油を市場の半値ぐらいで売っていたらしい。元外交官で、野口健さん(登山家)の父親・野口雅昭さんのブログ「中東の窓」(二〇一四年九月十六日)によれば、「ダーイシュ(IS)」の石油密輸の出口になっていたのはトルコだとか。『ニューヨーク・タイムズ』の報道で、アメリカがトルコ経由での密輸情報をつかみ、石油の流れを止めるようにトルコ政府への説得を試みたものの失敗したと。トルコのシリア国境付近にアラビア語に堪能なトルコ人ドライバーがいて、「ダーイシュ(IS)」から原油を半値ほどで仕入れ、ボロ儲けしていたといいます。

 倉山 しかし、有志連合の空爆や、原油価格の暴落で、どうやら一時のようにはいっていないようですね。

 上念 ISが押さえていたのは、イラクの北部やシリアの東部といった中規模の油田です。ISぐらいの規模だと、それぐらいのほうがコントロールしやすかった。しかし、空爆されてしまったらどうしようもない。制裁は効いているようですね。

中東は、ファシズムか軍国主義かのどちらか


 倉山 それにしても皆さん、大前提として中東問題をまさか「解決しよう」などと思っていないでしょうか。中東は、解決しないから中東なんです。

 一九四八年のイスラエル独立戦争以来、十年に一度は戦争が起きるこの地で、何かの殺しあいが起きないほうが不自然です。とくに二〇〇三年のイラク戦争以来、バグダッドからシリアまで中東全土の猛者たちが集まり、「誰が一番華々しくアメリカ人を殺すか」という天下一武道会(『ドラゴンボール』)を競いあっている状態です。オスマン帝国(現トルコ。十五世紀に東ローマ帝国を滅亡させて首都コンスタンティノープルを征服)が復活するならともかく、中東を武力統治するような絶対的存在が現れない以上、この地域の問題はまだまだ続くと見たほうがよいでしょう。

 上念 いまのトルコに頑張ってもらうしかない、と。

 倉山 でも、トルコ帝国の再建など、絶対に不可能ですから。

 上念 そんなことをしたら、イランとエジプトがただじゃおかない。中東の勢力図としては、だいたいトルコとペルシャ、アラブ、エジプト、それにイスラエルを加えた五極と見ればOK?

 倉山 エジプトは、アラブのうちに入りますね。そしてアラブの中で、しょっちゅう内ゲバをしている。

 上念 エジプトは、アラブの中では盟主っぽくない?

 倉山 エジプトはアラブ穏健派の盟主で、世俗主義の国なんです。ところが二〇一一年のエジプト革命でムバラク政権が崩壊したので、盟主の座がサウジアラビアに移っています。サウジは穏健派ですが、エジプトと違って原理主義なんです。また、エジプトはムバラク大統領までは穏健派・軍国主義でしたが、軍事クーデタによって宗教原理主義が台頭し、過激派・ファシズムの国に反転してしまいました。

 ちなみに両者の区分を示すと、

 過激派=「ファシズムを続けないと安定が保てない人びと」

 穏健派=「軍国主義を続けるうちは正気を保てる人びと」

 右の定義に照らせば、イラクやシリアのバアス党はいずれも過激派・ファシズムです。宗教原理主義に染まると、過激でファシズムになるんです。

 上念 イラク・バアス党は軍国主義じゃなかったんだ。

 倉山 バアス党はサダム・フセイン親衛隊を完全に私兵化して、軍を凌ぐほどの力を有していました。

 上念 そうか、党のほうが強いもんね。

「国際法を押しつけるほうが悪い!」という中東の論理


 倉山 しかし、ファシズムの軍隊というのは弱体化するんです。中国人民解放軍を見てもわかるように、軍が自国民を抑えつけるための組織になりますから、他国と覇権をめぐって戦う場合は強さをまったく発揮しません。

 上念 だからエジプトはイスラエルとも、けっこういい勝負ができるんですね。

 倉山 いい勝負かどうかは微妙ですが。

 上念 第四次中東戦争は、最初だけですが勝ちましたよ。

 倉山 イスラエルが一番苦しんだのは、第三次中東戦争の後の消耗戦争とレバノン内戦です。正規戦ではイスラエルはだいたい鎧袖一触(がいしゆういつしよく)なんです。アラブの連中のへまに乗じて勝利する。ただしアラブの過激派の連中は、テロリストを使ったウェストファリア体制なんです。ウェストファリア体制はヨーロッパで三十年戦争後に生まれた勢力均衡体制ですが、イスラム教もユダヤ教も、いわば商人の宗教なので、自分たちの損になる中東地域の崩壊は避けたい。国家同士が仲良くするウェストファリア体制ができやすいんです。

 ところが、それでは食えない国がテロリストを使って火遊びをしたら、大火事になってしまった。これが中東の現状です。とくに「ダーイシュ(IS)」は食い扶持から外れたテロリストの集まりだから、ルールを無視して「テロ集団のまま国家を名乗らせろ」という。国際法は守らないが、自分たちは国家だと強弁するのです。

 上念 虫のいい主張だ。

 倉山 中東には、国際法を西欧キリスト教文明の産物と見なして、いっさい認めないという主張があります。これを前面に押し出したのが、イラン革命の指導者ホメイニです。一九七九年、アメリカの傀儡(かいらい)だったパーレビ元国王を米カーター政権が(かくま)ったことから、イスラム法学生がアメリカ大使館を占拠し、人質を取りました。当然、外交関係に関するウィーン条約(外交使節団の派遣・接受・席次等)違反ですが、イラン側としては、キリスト教という一宗教の理念にすぎないものを国際法として人類全体に押しつけることこそ悪である、と突っぱねた。

 上念 「コーランに、人質取って大使館を襲ってはいけないと書いてあるか?」みたいな。

 倉山 彼らとしては「キリスト教の教えにすぎないものを国際法として勝手に人類全体に押しつけるほうが悪い」というわけで、正真正銘、文明の衝突です。

民主主義を導入すると「宗教原理主義」になってしまう


 上念 私がイスラエルに行ったとき、イスラエルの人たちは最も警戒している国はイランだといっていました。イランは何でも隠すし、手口は巧妙。まるでチャイナ共産党のようだとのことです。

 倉山 比較でいえば、イスラエルとトルコは日本に近く、アラブは基本的にコリアのような人たちです。ただ、トルコという国は民主化が進んでいるゆえに、ときおり軍部がクーデタを起こさないと、イスラム過激派・原理主義一色に染まってしまうという問題を抱えている。

 上念 トルコのエルドアン大統領は、原理主義ではないけれど、イスラム主義を前面に出していますね。

 倉山 トルコはなぜ、軍国主義でない限り正気を保てないのか。
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