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柳田国男の故郷七十年
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ルポ・エッセイ
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辻川の話

『柳田国男の故郷七十年』
[著]柳田国男 [編]石井正己 [発行]PHP研究所


読了目安時間:23分
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 川という地名が示すように、そこは東西・南北の文化が出会う先進地であった。さまざまな物売りも来れば、花嫁道具の行列も通った。播州は神隠しの多い場所であり、そうした幻想に刺激されたのか、柳田国男自身も神隠しを体験している。多感な幼少期を過ごした川は、柳田が日本の未来を考える際の定点観測の場所になった。



田の字型の家


 故郷の川の私の家は、今大門に近い「カケアガリ」に移されて、家の型といい、構えといい、昔の面影はすっかりなくなって、まったく変ってしまっているが、子供のころの家をおもい出してみると、何もかも、すべてが一種の縮小型であった。庭木の植え方までが、そうであった。間取りは田の字型の四間で、小さいながらそれに泉水のある内庭がついていた。

 玄関を入った所が三畳、その奥に四畳半が二間並んでいて、一通りの形を整えていたことから、私は後年、日本家屋の構造を比較研究する場合に、何時もこのこぢんまりした川の家を出発点とするようになった。

 日向(ひゅうが)を旅して椎葉(しいば)に行った時、そこの民家の構造が、非常に私の生家などと違っていたので、どういう訳だろうと思って、新渡戸(にとべ)博士と議論をしたことがある。四間通りの家が原則だというのが新渡戸説だったが、私はそのころは、二間造りの部屋にうしろのないのが本当で、あとになってだんだん奥の方へ建て増していったものではないかと思い込んでいた。

 ところがそれは思い違いであった。日向の椎葉とか、あるいは大和の十津川(とつがわ)とかいうような山の崖の下にある家では、そう奥行がとれないから、一間通りにする他なく、やっと前へ出すとか、縁側をつける程度ですましているのであることが判った。つまり山村の建築には、田の字型というのでない間取りが少なくない。どっちが(ふる)いかというと、やはり四間通りの田の字型ではないかと、今では思っている。

 近年になって、農家の建築が非常に発達し、田の字型がごく普通になったが、その前はやはり縦にいくつかの部屋が並んでいて、その間はただ便宜上衝立(ついたて)などでしきってあったのではないか。そして用のない時は、しきりをぐっと奥によせて、手前の方を広くしてあって、ただお産があったり、病人が寝たりすると、しきりをこちらまで持ち出すというふうに、動きのとれる家が普通だったのではないかと、いつでも旧い家を見るたびにそう考える。

 東北の鈴木家で、真澄(ますみ)などが泊ったのは真中の部屋であったという話である。表の客間は、もっと格式のある偉い人のために用い、真澄のような旅の歌詠みが来ても中の間に泊めたわけである。川の三木家などでも、郡長とか県の役人が来て泊るのは表の客間で、普段は空けてあった。そして私などはいつも中の間に泊めて貰っていた。

 私の生家に本が少なかったことが、かえって私を本好きにし、そして家が小ぢんまりしていたことが、私に日本家屋の構造に興味をもたせるようになったのは、面白い経過であったと思っている。

生家にあった子供の本


 祖母小鶴は私の生れる二年前、すなわち明治六年に世を去った。昔あった道端に近い、多分二階家であったらしい家で、寺子屋を開いて大勢の子供を教えていた。もうこの旧い家のことは誰一人知った者もない。明治八年に私が生れた時分の家は他所から移して来た前記の小さな家に変っていた。

 両親としてはこの家を建てるのに入り用が多かったに違いないから、いろいろのものを処分したことが想像せられる。代々学問をした家で、父も大変本好きだったのに、私の物心がついたころには、あまり蔵書がなかった理由も、そんなところにあったのかも知れない。

 幼いころ、私の家には三つか四つだけ、子供がいつでも手をつける本があった。

 一つは「三世相(さんぜそう)」といういわば昔の百科全書で、どこの家にも一冊はあった。六十の凶とか、これこれの日生まれると運が悪いとか欲が浅いとかいうことまで書いてあった。

 次は「武家百人一首」で、普通の百人一首をまねて、幕末に姫路藩の人が作ったという大変興味のある本で、美濃判半截(はんせつ)の各頁に武者絵を描き、その上に和歌が書き入れてあった。
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