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辞書には載らなかった 不採用語辞典
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雑学
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第4章 いつかは全国区に?──方言あるいは方言ふうのことば

『辞書には載らなかった 不採用語辞典』
[著]飯間浩明 [発行]PHP研究所


読了目安時間:34分
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あとぜき



〔引き戸に手書きで〕あとぜきお願いします
(熊本県・阿蘇山で 2004年1114日採集)



 旅行で訪れた先では、その土地ならではのことばを採集することを心がけています。

 阿蘇山(あそさん)に登った時にも収穫がありました。山の上にだって、いろいろなことばがあるのです。ロープウェーの火口西駅の出入り口に、上のような貼り紙がしてありました。
「あとぜき」は初めて見たことばです。「開けたら閉めてください」というようなことだろうと、何となく推測はできましたが。

 家に帰って『日本方言大辞典』を開いても、この意味はありませんでした。そこで、中川義一編『こらおもしろか肥後弁辞典』を見ると、次のように出ていました。
あとぜき【後塞】出入後、戸・障子などを閉めること〉

 やはり方言だったのです。おそらく「後で()く」(間をさえぎる)ということだと考えられます。

 貼り紙をした人は、「あとぜき」は観光客に通じると思ったのでしょう。このような、地元の人が方言だと思っていない(ヽヽヽ)方言を、専門的には「気づかない方言」と言います。そのままの用語ですね。

あんけらそ



どないしても飲まさん、ちゅうねんな。ほなしゃあないわ。寝たるさかい、布団敷きさらせ、あんけらそ
(町田康『くっすん大黒』〔1996年発表〕文春文庫 10ページ)



 妻に逃げられた主人公の独白です。町田(こう)さんの小説には、正体不明のことばがしばしば出てきますが、この「あんけらそ」も分かりません。いささか日本語離れした語感もあります。

 牧村史陽(しよう)編『大阪ことば事典』を開いてみると、〈アンケラソ 阿呆(あほう)。アンケツ。東京でいうアッケラカン〉とあります。ちゃんと実在する日本語で、大阪方言でした。「どあほ」と同じく、罵倒語です。

 説明文中に「あっけらかん」が出てくるのは、現在の感覚からは違和感がありますが、これも確かに関係のあることばです。

 もともと、「口を開ける」の「あけ」が変化して「あっけ」になりました。「あっけに取られる」の「あっけ」です。「あっけらかん」も同じ意味で、口を開けてぼんやりする様子が原義です。

 一方、「あけ」は「あんけ(ら)」にも変化しました。そこから「馬鹿」の意味で「あんけらんぽ」(秋田)、「あんけらかん」(名古屋)などの方言が生まれました。「あんけらそ」もこの仲間です。

 最後の「そ」は何でしょうか。「相」かとも言われますが、「あんけら草」と草の名前のように言ったという説がよく分かります。

いける



徳島では、「大丈夫?」というのを「いける?」と聞きます。/私も東京に来てから、「いける?」というのをけっこう口にしましたがみんな理解してくれないので寂しいです。
(短大生 レポート 1999年10月提出)


「イケてる」が流行し始めた頃のレポートです。

 筆者は、徳島では普通に使う「いける」が東京では通じず、かえって「イケてる」「イケてない」など、耳慣れないことばが使われていることに違和感を示しています。

 徳島方言の「いける」は、私も、実例をテレビで聞いたことがあります。看板を家の中に運ぶ時、「ここ、ちょっといけるで?」(当たらない? 大丈夫?)、「いけよぅ」(うまく行ってる)と言っていました。「いけよぅ」は、直訳すれば「いけてる」となり、形の上では、共通語の俗語の「イケてる」と同じになります。

 徳島の「いける」も、俗語の「イケてる」も源流は同じで、どらちも「行ける」から来ています。前者は「うまく行ける」から「大丈夫」の意味になり、後者は「この酒は行ける」などという用法から「なかなかいい」「かっこいい」の意味になったものです。

 このレポートが書かれた当時は、誰もが「イケてる」を口にしていましたが、最近はそれほど聞かれなくなりました。普通のことばとして定着したのか、それとも古くなりつつあるのでしょうか。


いちご()



藤川優里(ゆり)八戸市議(29)が、自身のブログのタイトルである『いちご煮日記』の名前がついた駅弁を自身監修のもと発売されることを報告した。
(ウェブ「アメーバニュース」2009年9月17日)



 藤川市議は、洗練された容姿が議員にはめずらしいと、前年から注目を集めていました。その人気を八戸(はちのへ)観光につなごうと、本人の監修を受けて売り出されたのが、駅弁「いちご煮日記」です。
「いちご煮」と言えば、普通はジャム作りを連想します。「アンネの日記」の最後のほうに、住人が大量に届いたいちごを洗って煮て、ジャムを作る描写があります。「いちご煮日記」と言えばこれではないか。

 八戸のいちご煮は、まったく別物です。ウニとアワビの吸い物で、ウニの見た目が野イチゴをイメージさせるから言うのだそうです。

 弁当のほうは、またさらに違います。弁当には吸い物をつけられないので、代わりに、ウニ・アワビなどの入ったくずあんや、めかぶをご飯にかけて食べるようにしてあります。

 一方、隣県・岩手の宮古駅にも「いちご弁当」があります。こちらはご飯に、アワビと、そぼろのようになったウニが載っています。

 この「いちご」の意味は誤解されやすいので、『三省堂国語辞典』に説明を加えてもいいかもしれません。実際に加筆するかどうかはともかく、いつかは現地で「いちご煮」を味わってみたいと思います。

一寸(いっすん)ずり



幹線道路は車で埋まっていた。5分以上待ってわずか2〜3メートルしか動かない。一寸ずりだ。
(ウェブ「田中龍作ジャーナル」2011年3月12日)



 東日本大震災発生の日、首都機能のマヒした東京の様子をレポートした、フリージャーナリストの文章です。

 記事では、半蔵門付近で渋滞がひどかった様子を記しています。車がほとんど動いていないことを「一寸ずり」と表現しています。

 1寸は約3センチメートル。車が1寸、2寸と、地面を()るようにしか動かないということでしょう。現場の様子が具体的に分かります。ただ、あまり聞かないことばです。
『日本語学研究事典』の「大分県の方言」にはこうあります。
〈新語にも興味深いものがある。車の大渋滞を表すイッスンズリ(一寸ずり)はその様子をありありと思い起こさせ、非常に描写力のある語である〉(日高貢一郎)
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