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辞書には載らなかった 不採用語辞典
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雑学
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第5章 行けると思ったのに──最後に落選したことば

『辞書には載らなかった 不採用語辞典』
[著]飯間浩明 [発行]PHP研究所


読了目安時間:35分
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あいうえお作文(さくぶん)



この日のプログラムは「あいうえお作文」。大喜利でもよくやられるネタで、「あ、い、う、え、お」を頭文字に文章を作って、最後の「お」でオチを付ける。
(『毎日新聞』2010年2月21 5面)



 京都文教大学で、吉本興業の講師を招いて面接対策セミナーを開いたという記事です。「あいうえお作文」は、たとえば「()なたと ()緒に ()野の ()近くで ()買い物」などというのがそうです。

 この呼び名を初めて知ったのは、1995年の大晦日(みそか)に「紅白歌合戦」を見ていた時でした。SMAPのメンバーが、後輩バンドのTOKIOを「あいうえお作文」で紹介していました。

 これに類することば遊びは古くからあります。古典の時間に習うのは「伊勢物語」の「(あずま)下り」。主人公が「()らごろも ()つつなれにし ()しあれば ()るばる来ぬる ()をしぞ思ふ」と、「かきつばた」を折り込んで歌を詠みます。こういうものは折句(おりく)と言われます。

 戦後にも、ラジオの「とんち教室」では、「()くないのに ()京豆は ()ーでつまめば ()くなる」(たなばた)などといった「折り込みどどいつ」が人気を呼びました。

 言語感覚を養うのにいい遊びなので、『三省堂国語辞典』の新規項目として提案しました。もっとも、すべてひっくるめて「折句」と言えばすむとも言えます。最終的に、編集会議では不採用になりました。


悪事身(あくじみ)(かえ)



しかし、〔構造改革派は〕それ〔=平均所得の切り下げ〕をやり過ぎてしまったため、車が買えなくなるくらい庶民の懐が寂しくなってしまったのだ。構造改革派にとっては、まさに「悪事身に返る」になってしまったのだ。
(『週刊実話』2008年1月31日号 84ページ)



 経済アナリストの森永卓郎さんの文章。政府が自動車産業などの活性化を目指し、庶民に負担をかけたところ、かえって自動車が売れなくなってしまった。これを「悪事身に返る」と表現しています。

 これ以前には目にしたことのない表現でしたが、意味は分かります。「悪事を働けば報いを受ける」「自業自得」ということでしょう。

 森永さんが「まさに」と前置きして使っているということは、出典がありそうです。ことわざ辞典を見ると、江戸時代の俳書「毛吹草(けふきぐさ)」にあるとのこと。なるほど、「悪事身にとまる(ヽヽヽ)」というのが載っています。これと同じことのようです。

 日常生活で「それは『悪事身に返る(止まる)』だね」と使ったら、なかなか便利そうです。そこで編集会議に提案してみました。結果はやはり没でした。

 いかんせん、使用例が少ないというのが難点です。それから、もうひとつ、辞書を引かなくても分かるということもあります。読んで字のごとくの意味なので、項目として取り上げる優先順位は、どうしても下がってしまうのでした。

朝涼(あさすず)



碌さんは、朝涼(あさすず)の間に、ちっとばかり仕事をして置こうと思って、机に向っていたところへ、小型の人魚が現れたのである。
(獅子文六『悦ちゃん』〔1937年単行本〕角川文庫 25ページ)



 獅子文六(ぶんろく)は戦前から戦後にかけて活躍したユーモア作家です。明るい作風は私の好みです。「(ろく)さん」は作詞家で、悦ちゃんのパパ。

 ここに出てくる「朝涼」は、いいことばです。夏の日中は、暑くてとても仕事が手につきませんが、午前中はまだ涼しさも感じられます。これが「朝涼」です。

 私が小学校の頃、夏休みの学習用の小冊子には、「朝のすずしいうちにべんきょう」と注意が書いてありました。私は今でも、夏はなるべく冷房を切り、朝のうちの涼しさを味わっています。

 エネルギーの逼迫(ひっぱく)が言われる今、「朝涼」のよさを再認識するべきではないか。このことばを辞書に載せてはどうでしょう。

 とはいえ、使用例はどれも古いのです。志賀直哉(なおや)・北原白秋など、戦前の書き手が多く使っていて、現代の例があまり出てきません。となると、現代語の辞書にふさわしいか、という疑問が出てきます。やむなく、採用は断念しました。

 エアコンの普及によって、せっかくいいことばが、ひとつ忘れ去られてしまった。そんな感傷に浸りたくもなります。

アブラギッシュ



党首にしても、まだ小沢〔一郎〕さんのほうが、田中角栄さんみたいな、昔の「強い政治家」が持っていたアブラギッシュさがあって、人を引き付ける魅力があるように思うんですよね。
(『週刊現代』2008年5月24日号 24ページ)



 タレントが政治家を品定めしているコメントの一部です。

 ここに出てくる「アブラギッシュ」は、もちろん、「脂ぎっていて、エネルギッシュ」という意味の俗語です。顔や腕を脂でテカらせながら、あちこち飛び回る中年男性のイメージが鮮明に浮かびます。

 使われだしたのは1990年代と見られます。もはや一時の流行語ではないので、辞書に載せることは考えられます。
『三省堂国語辞典』は、現代語として定着していれば、俗語であっても積極的に項目に採用します(〔俗〕と表示した上で)。「飲む」と「コミュニケーション」を合体させた「飲みニケーション」(酒を飲みながらコミュニケーションを深めること)も載せています。

 となると、「アブラギッシュ」を採用してもいいはずですが、実際には不採用になりました。

 これは、必ずしも相手を褒めていないという点が大きいですね。引用例は肯定的な評価で使われていますが、一般に、「アブラギッシュ」と言われてうれしい人は少ない。俗語で新語、しかも悪口であることばは、採用のハードルが少し高くなる感じがあります。


アンゼリカ



八宝飯(パァパオファン)/材料(4人分)/小豆1カップ、〔略〕杏シロップ煮4個、アンゼリカ、チェリー、レーズン、クランベリー各少々、〔下略〕
(『週刊朝日』1998年4月24日号 14ページ)


「八宝飯」という、中国で祝いの席に出す、一種のおはぎの作り方を書いたページです。その飾りつけに「アンゼリカ」が使われています。

 アンゼリカをご存じでしょうか。私はよく知っています。「アンジェリカ」とも言います。

 百科事典にはセリ科の草と書いてありますが、私たちがふつう目にするのは、ケーキに載せる、長楕円(ちょうだえん)形などをした緑色の飾りです。
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