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中村天風人間学
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生き方・教養
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第六章 天命を知る

『中村天風人間学』
[著]神渡良平 [発行]PHP研究所


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持続可能な社会を共創する
──環境保全運動にいのちを燃やす岸和幸さん



「我、いずこよりきたり、いずこに行かんとす。何のためにこの現象世界に人間として、生まれ来しや」

 考えて、考えて、考えつくまで半年かかった。しかし考えていくうちにだんだん魂の夜明けがきた。そしてようやく、宇宙の根本主体の持っている働きの方から人間を考えてみようという考え方が出てきたのである。

 人間それ自身の存在だけを考えると、いかにも哀れな、不幸なものに感ずることもあるが、宇宙の根本主体の持つ幽玄微妙な働きと、人間の生命との関係を考えると、これは大変な見当違いから生み出された間違いだと気付いたのである。
(『運命を拓く 天風瞑想録』)


久遠(くおん)彼方(かなた)にあこがれて
「人はどこから来て、どこに行くのか?」

 日本のSF小説の中でもっとも壮大なスケールを持つといわれ、今でも人々の心を魅了してやまない『百億の昼と千億の夜』(光瀬龍(みつせりゆう)著 角川文庫)の主人公プラトンが懊悩(おうのう)のため息を吐く。その本に、わずか十二歳の岸和幸(かずゆき)少年が、食い入るように読みふけっていた。

 物語にはアトランティス王国の文書を手に入れようとするプラトンや、梵天王(ぼんてんおう)から宇宙の破滅の相を聞かされる釈や四億年の長きにわたって帝釈天(たいしやくてん)の軍と戦いを続ける阿修羅(あしゆら)や、イエスや大天使ミカエルなどが登場し、無常と久遠(くおん)の壮大な世界が展開していく。著者、光瀬龍の「寄せては返し、寄せては返し、返しては寄せる波」という静謐(せいひつ)な文体が、少年の心をますます(とりこ)にした。岸少年は本を閉じ、主人公たちが投げかけた、
彼岸(ひがん)(あの世)とは何だろう? 此岸(しがん)(この世)とは何だろう?」

 と反芻(はんすう)した。そして神秘な星がまたたいている夜空を見上げて、
(宇宙を一つの球体に例えれば、その外側には何があるんだろう)

 と考えた。無窮(むきゆう)の宇宙には限りなく()かれるものがあり、広大無辺な宇宙に比べればかすかな存在でしかない自分が今ここにいる意味は何であろうかと、頭の中でいつも答えのない問いを繰り返していた──。

 私は持続可能な社会を背負って立つ人間を育てようとしている「ネクスファ」のクリエィティブ・アドバイザー岸さんの話に耳を傾けた。
「私は大学卒業後、システム・エンジニアとして十一年間、主に金融保険関係のシステムを構築していました。プログラム設計は“0”か“1”、または“Yes”か“No”という2進法によるアルゴリズム(プログラムの論理体系)でなされます。ファジー(あいまいさ)が許されない、融通がきかない世界でずっと仕事をしていると、息苦しくなりました。それで休みが取れると山登りをし、山頂から見はるかす眺望をながめて、自分を解放していました」

安岡正篤の『知命と立命』に出合う

 二十六歳のある日、岸さんは書店の書棚から『知命と立命』(安岡正篤(まさひろ)著 プレジデント社)を取り出して、立ち読みした。まだ安岡という名前は知らなかった頃で、書名に惹かれて手にしたのだが、長年考え続けてきたことが書かれていた。早速、購入して読んだ。目から(うろこ)が落ちた。いちいち納得がいった。

 この本の中に、(みん)袁了凡(えんりょうぼん)が南京の雲谷(うんこく)禅師と運命と宿命について論争する下りがある。安岡先生は『陰隲録(いんしつろく)』に出てくる雲谷禅師の運命論に託して、自説を述べている。
「人間の運命がちゃんと初めから定まっておるものなら、なんで釈や孔子が苦労したか。偉大な人が学問修養したのは、学問修養することによって人間を(つく)ることができるからだ。人間が出来れば環境も創られる。確かに“(めい)”というものは存在するが、人間はその命を知り、命を立てることができる。人間以外の他の動物にはできないことを人間はやることができる。

 即ち、〈命を知り〉〈命を立てる〉ことができる。〈人間とはどういうものであり、いかにすればどうなるか〉ということを研究して、その研究に従って人間自らを創造することができるところに万物の霊長たる意味がある。命は我より()すものである」

 岸さんは安岡先生の「命は我より()すものであり、宿命論に堕してはならない」という毅然(きぜん)たる態度にハッとさせられた。安岡先生は運命、宿命について、こうも論じておられた。
「人間には《宿命》がある。これは《とどまる》ということである。しかし、学問修養することで、人間を創ることができる。命を知り《知名》、命を立てる《立命》ことになる。自分の命を生み、運んでいくことで運命に変えていく。動いて止まらないから運命という。運命にするか、宿命に堕させしむるか、学問修養次第である」

 学問修養に励んで、自分の人生に対して主体性を持てというのだ。以来、安岡先生の本を読みふけった。先生の本は夜道を照らす提灯(ちようちん)のような役割を演じてくれた。

危うく遭難しかかって

 昭和六十一年(一九八六)十二月、岸さんは三十一歳のとき、屋久島のモッチョム岳に登った。屋久島の三大岩壁の一つモッチョム岳は、わずか九百四十メートルしかないが、南部海岸から直接そそり立っているので、山頂からの眺めは雄大だ。目の前に太平洋が開け、左手には種子島、千メートル真下には白い波に洗われている海岸線が眺められ、普通には見ることができない光景が広がっている。

 島の南部の登山口から、千尋滝(せんぴろのたき)、万代杉、神山展望台を経て頂上に至るのだが、途中、浮き立った根や苔むした岩を越え、大きな段差を乗り越えていかなければならない。想像以上に険路で、往復十時間はかかる。

 岸さんは、モッチョム岳が標高千メートル未満なので、ついつい油断した。登山届けを出すのを忘れ、しかも水筒を忘れたが、まあ何とかなるだろうと登り始めた。

 しかし浮き立った根が行く手を阻み、段差が多い険路に、これは普通の山とは違うぞと思ったものの、何とか頂上まで登った。しかし下からガスが昇ってきて、どんどん視界が悪くなっていく。屋久島はひと月三十五日雨が降るといわれるほど雨が多い。これはまずい、早めに下山しようと道を急いだが、まもなくバケツをひっくり返したような雨になった。悪いことに道を間違え、深い森に迷い込んでしまった。

 まったくのホワイト・アウトの中で視界がきかない。道は崖で行き止まりになっていた。自分の中で「これ以上下りたら迷って遭難するぞ」という声と「この崖さえ下りたら、何とか行けるんじゃないか」という二つの声が錯綜(さくそう)した。

 でも引き返そうと決断して、ようやく頂上に帰りついた。慎重に下山道を探していると、視界が晴れてきた。道を示している赤いテープも確認でき、何とか千尋滝まで下りてきた。喉がからからに乾いていたので、水をがぶ飲みして、「ああ、助かった!」と、人心地ついた。するとぽろぽろ涙がこぼれ、胸の奥から、「生かされている!」という思いがこみ上げてきた。

 見渡すと、樹齢千年もあろうかと思われる屋久杉から、小さな下生(したば)えまで、いのちが溢れている。どれもこれもありがたい存在で、大小はない。命があるのは、当たり前のことではない。そう思ったとき、壮大な地球の歴史の中で連綿と織り成されてきた幾多(いくた)の生命と循環のかけがえのなさに気づかされた。
「生命はつながっている! それなのに我々人間はそのつながりを断ち切るようなことばかりしている。自然破壊を食い止め、生態系を回復させることは、私たち大人の責務だ。

 安岡先生は自分の使命に生きなかったら後悔するぞとおっしゃっている。自然環境保全こそが私がやるべきことではないか」

 岸さんはそう決意すると、それまでの仕事を辞め、自然環境保全の専門学校で学び直すことにした。岸さんが愛読書としていた『運命を拓く 天風瞑想録』で、天風先生は、理解と自覚の違いについて次のように述べていた。
「理解と自覚とはまったく違う。理解というのは、ただわかったというだけであり、自覚というのは、本当に自分の魂に受け入れたことなのである」

 天風先生はこの文言(もんごん)で岸さんの背中を押してくれたのだ。

環境保全活動に邁進

 自然環境保全の専門学校は、作家でナチュラリストのC・W・ニコルさんが副校長を務めており、フィールド・ワークはニコルさんの自宅がある長野県黒姫山で行っていたことから、自然と師事するようになった。

 専門学校に通うかたわら、環境省のサブレンジャーとして、富士山や白山といった国立公園で環境保護に携わった。また北海道で野生動物の保護に努め、東北や長野で野生動物調査を行い、自然環境の現場に身を置いた。春・夏の休みには、北米に出かけて先住民を訪ねて交流し、自然を崇拝し調和を重視する彼らの精神性にふれ、自然の一部としての人間の生き方を学んだ。
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