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(2021/11/26 追記)

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定年からが面白い
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生き方・教養
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7 美人との出会いと別れ

『定年からが面白い』
[著]小林淳宏 [発行]PHP研究所


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 碁会所に現れた“令嬢”


 ある日、日本棋院での講義が終わり、生徒同士の対局の始まる前のことだった。がやがや雑談が続く中から、
「おれ、実戦を増やして強くなりたいと思って近所の碁会所に行ったんだが、弱い人はだめですと断られましたよ」

 という声がした。
「そうなんですよ。碁会所が相手にしてくれないから実戦のチャンスがなくて困りますね」

 と相槌を打つ声が続いた。

 私も同じ経験をしていた。日本棋院囲碁学校に入る前、箱根の春秋の職場大会で一年に二度しか碁を打っていなかった頃だ。毎回全敗していたので、大会前日、碁会所でもんで貰えば全敗の憂き目を見ないですむかもしれないと思い、鶴見の碁会所に寄ってみた。生まれて初めて碁会所という所に足を踏み入れたのである。年寄りの席亭に、
「段級は?」

 と聞かれ、
「8級です」

 と答えた。席亭は無愛想な顔で、
「そんな弱い人と、入場料を払ってまで打ってくれる人は、ウチにはきませんよ」

 といってぷいと横を向いてしまった。とりつく島がないとはこういうことだろう。すごすごと引き下がる他はなかった。

 碁会所はどこにもある。中には「初心者歓迎」とか「婦人子供教室」といった看板を出しているところもある。だがたいてい、ぶっきら棒に「碁」という看板しか出していない。この一字だけで碁好きが群がってくるのだ。PRの必要はないのだろう。初心者なんか門前払いして経営が成り立つのなら、こんな気楽な商売はない。口惜しまぎれにオレも年を取ったら碁会所を開こうかな、などと考えた。

 碁会所に入れて貰えないので棋院で水曜に一局、日曜に二局しか打てなかったが、平均して一カ月に1級ずつ昇って昭和五十三年七月三十日、2級の認定状を貰ったことは書いた。そして2級昇級を機会に、

 ――もう入れてくれるだろう。

 こう考えた私は九月二十八日、あの同じ鶴見の碁会所に出かけていった。席亭は相も変わらず無愛想だったが、
「2級です」

 といったら突然丁重になり、
「どうぞ、どうぞ、こちらへ」

 ともみ手せんばかりにソファに案内してくれた。手の平を返すように私を大切なお客として取り扱ってくれたのだ。この翌日の日記は、
「朝、目が覚めると、ああ今日も碁が勉強できる、しかも今日から鶴見碁会所へ行って碁が打てる、なんと幸せだろう、と実感をかみしめながら起きた」
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