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定年からが面白い
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生き方・教養
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16 たかが初段、されど初段

『定年からが面白い』
[著]小林淳宏 [発行]PHP研究所


読了目安時間:18分
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 精神修養の一年間


 昭和五十九年に引退したら3級から2級へ、そして1級へと昇級して明るい正月を迎えた。それから一年たったらやっと勝ち星が増え、碁会所の小母さんから、
「もうじき初段よ」

 といわれてまたもや希望に満ちた昭和六十一年の正月を迎えた。だがこの年の後半には、右肩を痛め、血尿におどろかされた。

 昭和六十二年はどうか。前年に二つの厄を追い払ったのだから明るい正月を迎えたといいたいのだが、そうとはいい切れない。追い詰められて深刻な気分になっていたからだ。

 なにに追い詰められたかといえば暦である。私が囲碁初段を志してから十年目が昭和六十二年だった。この年の末までに入段できなければ、
「十年やれば初段になれる」

 という囲碁ファンの通用語が私には当てはまらなくなる。そして、
「パパには才能が無いのよ」

 と始終私をからかっている娘のいう通りになってしまう。だから暦に追い詰められて次第に深刻になっていた。

 このため私は徐々に精神修養にのめり込まざるを得なくなった。

 碁は非常に易しいゲームでもある。それを宣伝するため、ある囲碁雑誌が一つの企画を立てた。若くてハンサムな記者が、街頭でなるべく美人の女子大生とか若いOLをつかまえ、碁を全く知らないことを確かめた上で喫茶店にさそい込む。そして囲めば相手の石を取れ、二眼持てば活きるのだというルールを教え、持ってきた九路盤(こちらの図の盤を参照。碁盤はタテヨコ19の線でできている。これを9本の線に減らした入門者用の碁盤である)で打つ。その写真と棋譜と解説を毎号載せる、という企画である。私は碁会所で何カ月かこの雑誌を楽しんで読んだ。

 要するに囲んで「アタリ」にするのは入門の第一歩であり、幼稚園の子供でも九十歳の老人でもその場ですぐ理解できる単純なことなのだ。だから世に数ある棋書は入門編で一応の解説はするけれども、それ以上のことは教えてくれない。アタリを見落とすところまでは面倒見切れない、と突き放しているのだが、実はここにこそ上達の秘密が隠されている と確信するようになった。
「自分の石がアタリになったことを見落とさない能力」

 これこそ囲碁上達を左右する鍵だと思ったのは、十年碁に凝って泣きを重ねた結果である。

 私はこの十年間に約五千局打った。相手はプロから入門者に至るまで千差万別である。打った場所は、パリの碁会所から列車が出るまでの待ち時間に飛び込んだ郡山の碁会所に至るまでいろいろだ。

 この間に身にしみて知ったことは、7級や8級でもアタリを見落とさない人もいれば、1級や初段でも見落とす人がいることだった。1級と8級では碁歴と打った局数がケタ違いだ。このことから、この能力には生まれつきの要素が大きいことを疑うことはできない。

 8級という人と何度か打ったことがある。彼はアタリの見落としをしたことがない。こういう人はその他の局面にも注意が行き渡っている。私に数子置く下級者だったが、その素質は私の数倍あると思って威圧感を覚えた。「アタリを見落とさない」初心者は、いわゆる「可愛気のない初心者」かもしれないが、生来、碁の才能に恵まれていることは否定できないだろう。

 アタリを見落として負けた時のくやしさは、たとえようがない。
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