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日本占領と「敗戦革命」の危機
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歴史
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第八章 昭和天皇の反撃

『日本占領と「敗戦革命」の危機』
[著]江崎道朗 [発行]PHP研究所


読了目安時間:46分
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昭和天皇が「新日本建設に関する詔書」に込められた真意


 日本解体政策を推進するGHQと日本共産党の攻勢に、ある者は迎合し、ある者はうろたえ、迷走を続けるなか、昭和天皇は敢然と反撃を開始する。


 終戦の翌年元旦、昭和二十一年(一九四六)一月一日、昭和天皇は「新日本建設に関する詔書」を渙発された。詔書渙発には、GHQ民政局のハロルド・G・ヘンダーソンやケネス・ダイク民間情報教育局長、ウィリアム・バンス民間情報教育局宗教課長らと、学習院大学英文学教授で皇室と民間情報教育局との間の連絡役を務めたR・H・ブライス博士とが関わっていた。(1)


 GHQ民政局の狙いは、詔書によって天皇の神格化を否定することだった。「臣民の目に映る天皇の地位を引き下げることによって」、神道という“危険なカルト宗教”を解体しようとしたわけである。(2)


 前述したように一九二〇年代から三〇年代にかけての日本では、右翼全体主義が(ちよう)(りよう)(ばつ)()し、学問の自由や信教の自由が損なわれた。そして、ノーマンやビッソンらは、この右翼全体主義が明治維新以来の日本の本質だと宣伝し、GHQの多くのスタッフも「右翼全体主義が日本だ」と誤解してしまった。だから彼らにとって、詔書の要点が天皇の神格化の否定にあるというのが当然の理解だった。


 しかし、昭和天皇の真意は全く違っていた。昭和天皇が「新日本建設に関する詔書」を発された真意は、「五箇条の御誓文」を改めて日本国民に示し、変わらぬ君民の絆を訴えることにあったのである。


 そもそも、この冒頭の五箇条の御誓文の部分は詔書の原案にはなかった。それを加えられたのは昭和天皇の強いご意向であった。その理由を昭和五十二年八月二十三日、記者会見でこう述べておられる。

《「それが実はあの時の詔勅の一番の目的なんです。神格とかそういうことは二の問題であった。


 それを述べるということは、あの当時においては、どうしても米国その他諸外国の勢力が強いので、それに日本の国民が圧倒されるという心配が強かったから。


 民主主義を採用したのは、明治大帝の(おぼし)()しである。しかも神に誓われた。そうして『五箇条御誓文』を発して、それがもととなって明治憲法ができたんで、民主主義というものは決して輸入のものではないということを示す必要があったと思います」》(3)


 それでは、「新日本建設に関する詔書」とはどういうものか、重要な内容なので全文を紹介しよう(原文表記の漢字片仮名を、漢字平仮名に変え、適宜ルビを補った)


(ここ)に新年を迎ふ。顧みれば明治天皇明治の初国是として五箇条の御誓文を下し給へり。曰く、


 一、広く会議を興し万機公論に決すべし


 一、上下心を一にして盛に経綸を行ふべし


 一、官武一途庶民に至る(まで)(おのおの)(その)志を遂げ人心をして()まざらしめんことを要す


 一、旧来の(ろう)(しゆう)を破り天地の公道に(もとづ)くべし


 一、智識を世界に求め(おおい)(こう)()(しん)()すべし


 (えい)()公明正大、(また)何をか加へん》



 冒頭、真っ先に明治天皇が国是として下された五箇条の御誓文を挙げている。「何一つ付け加える必要のない、公明正大な明治天皇のお言葉である」と詔書はいう。


(ちん)(ここ)(ちかい)を新にして国運を開かんと欲す。(すべか)らく()の御趣旨に則り、旧来の(ろう)(しゆう)を去り、民意を(ちょう)(たつ)し、官民挙げて平和主義に徹し、教養豊かに文化を築き、以て民生の向上を図り、新日本を建設すべし》



 明治天皇が示された「五箇条の御誓文」の御趣旨に則って、新しい日本を建設しようではないか──。


《大小都市の蒙りたる戦禍、罹災者の(かん)()、産業の停頓、食糧の不足、失業者の増加の(すう)(せい)等は真に心を痛ましむるものあり。(しか)りと(いえど)も、我国民が現在の()(れん)に直面し、(かつ)徹頭徹尾文明を平和に求むるの決意固く、()()の結束を全うせば、独り我国のみならず全人類の為に、輝かしき前途の展開せらるることを疑はず。()れ家を愛する心と国を愛する心とは我国に於て特に熱烈なるを見る。今や実に()の心を拡充し、人類愛の完成に向ひ、献身的努力を(いた)すべきの(とき)なり》



 空襲の被害、罹災者の苦しみ、産業の停頓、食糧の不足、失業者の増加などはまことに痛ましいことだ。しかしそれでも、我が国民がこの試練に直面し、徹底して文明を平和に求める決意を固くして、全員が結束すれば、我が国だけでなく全人類のために輝かしい未来を作ることができることを私は疑わない。日本では、家族を愛する心、国を愛する心が特に熱烈だ。これからはそれをもっと広げ、人類愛の完成に向けて献身的努力をするべき時だ──。


 昭和天皇は、敗戦という、どん底の状況にあってもなお、日本国民に日本の精神的伝統の素晴らしさを訴え、日本人の大いなる使命を高らかに説いたのであった。


皇室と国民の絆は変わらず


 さらに「新日本建設に関する詔書」は次のように続く。


(おも)ふに長きに(わた)れる戦争の敗北に終りたる結果、我国民は(やや)もすれば焦燥に流れ、失意の淵に(ちん)(りん)せんとするの傾きあり。()(げき)の風(ようや)く長じて道義の念(すこぶ)る衰へ、(ため)に思想混乱の兆しあるは(まこと)に深憂に堪へず》



 長く続いた戦争が敗北に終わった結果、我が国民はややもすれば焦燥にかられ、失意の淵に沈もうとする傾向がある。異常に過激な言論の流行が続き、道義心が非常に衰え、そのために思想に混乱の兆しがあることを私は深く憂いている──。


(しか)れども(ちん)(なんじ)()国民と共に在り、常に利害を同じうし(きゅう)(せき)を分たんと欲す。(ちん)(なんじ)()国民との間の(ちゆう)(たい)は、終始相互の信頼と敬愛とに依りて結ばれ、単なる神話と伝説とに依りて生ぜるものに非ず。天皇を以て(あきつ)()(かみ)とし、(かつ)日本国民を以て他の民族に優越せる民族にして、(ひい)て世界を支配すべき運命を有すとの架空なる観念に(もとづ)くものにも非ず》



 しかし、私は国民と共に在って、常に利害を同じくし、喜びも悲しみも分かち合うことを望んでいる。私と国民との絆は、初めからずっとお互いの信頼と敬愛によって結ばれてきたものであり、単なる神話と伝説によって生じたものではない。天皇を現人神とし、日本国民をほかの民族に優越した民族と見なして、だから日本は世界を支配すべき運命を持っているなどとする、架空の観念に基づいているのでもない──。

「新日本建設に関する詔書」は、日本の歴史教科書やマスコミなどでは「人間宣言」と称されることが多い。それは、詔書のこの部分を指してのことである。GHQがこの詔書を認めた狙いも、このことを昭和天皇から国民に示すことにあった。


 しかしながら、天皇が「天照大御神」に連なる家系でいらっしゃるとは思っていたものの、天皇がキリスト教的な「全知全能の神」のような存在だと盲信するような日本人はほとんどいなかった。


 誤解のないように附言しておくが、だからといって詔書の「単なる神話と伝説とに依りて生ぜるものに非ず」という表現に問題がなかったわけではない。


 GHQの政治的意向を踏まえなければならなったことを前提に東京大学名誉教授の小堀桂一郎氏は、詔書の問題点について次のように指摘している。

《天皇はゴッドなどではあり得ない。天皇を宇宙主宰の絶対神とする架空の観念に基づいて国民は天皇を崇拝してゐるわけではない──。こんなことは実は子供でも知つてゐる当り前の話でした。それをわざわざ文章に表現することによつて、逆に、天皇はかつては神と見做されてをり、それがここで初めて否定されたのだ、といふ印象を作り出したことになる。これは実に愚かな策を弄したものであります。占領軍の方はこの文面を見て、これで天皇の従来の権威は決定的打撃を受けた、とひそかにほくそ笑んだことでせう。そして何ほどかの安心をし、天皇に対して自らが何らかの圧力を加へなくてもすむ、と思つたことでせう。

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