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政治・社会
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国際恐怖症に憑かれる日本メディア

『歪曲報道』
[著]高山正之 [発行]PHP研究所


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  ベタ記事が教えてくれる真実


 新聞はベタ記事が面白い、といわれる。

 ベタとは最小1段見出し記事、ボツ一歩手前の記事を指すが、時に重要記事だけれど、でも目立ってほしくないという思いを込めたベタ記事もある。それがその新聞社の姿勢を、結構、鮮明にする場合もあるから、だから「面白い」といわれる。

 たとえば、以前、北朝鮮の首領様の息子が不法入国しようとして捕まった。日本には横田めぐみさんのご両親のように北朝鮮にわが子、身内を拉致され、消息を尋ねることもできずに身を揉んでいる家族がいる。そこへ彼が勝手に飛び込んできた。誰だって「めぐみさんらと身柄交換」というアイデアは思い浮かぶだろう。

 で、『産経新聞』は5段見出しでそうした家族の声を載せた。『朝日新聞』も横田めぐみさんの家族らが政府に働きかけたという記事を載せたが、これがベタだった。

 この新聞はめぐみさん拉致の証言が飛び出したときも、2カ月近くそれを報じなかった前科がある。今回も載せたくない、でもそう露骨にもできないから、という心情がそのベタ扱いに(にじ)んでいたように思う。

 まさにベタの面白さだが、さてその『朝日』の2001年5月27日付、「フォード社販売禁止を申し立て/ベネズエラ」というベタ記事は別の意味で考えさせられた。例のフォード社のSUV、エクスプローラとブリヂストンの子会社ファイアストンが対立する「欠陥タイヤ」騒動の1つである。

 発端は2000年夏。エクスプローラが走行中、タイヤが剥離(はくり)パンクして横転、全米で88人が、南米ベネズエラでも35人が死亡していることが判明した。フォード社はいち早く「原因はファイアストン社のタイヤの欠陥だ」と指摘した。

 ファイアストン社はフォード社の非難に納得はしなかったが、事は人命に関わる。原因究明よりまず疑惑を持たれたタイヤを自主的にリコールすることで対応した。総額5億ドル。いかにも日系企業らしい誠意の示し方だった。

 ファイアストン社は米議会の公聴会でもこの日本的対応をする。フォード社のナッサー会長が一方的に「タイヤ欠陥が事故原因」と主張したのに対して、ファイアストンの小野会長はまず、事故で死傷した人たちへの謝罪の言葉を述べた。そのうえでタイヤの欠陥を否定し、フォード社がエクスプローラ装着のタイヤに限って15%も低い空気圧を指示していたことを指摘した。

 もちろん同じタイヤを装着した別車種ではまったく剥離が起きていないことも、低い空気圧だとタイヤが(ひず)み、熱を持ちやすい、剥離もするだろう、とも主張した。

 しかし「ごめんなさい」で始まった小野会長の発言は自ら非を認めたと取られた。公聴会ではフォード社にはいわない侮蔑に満ちた言葉が小野会長に降り注いだ。翌日の米主要紙は「ごめんで済むか」という日本企業への非難一色でうずめられた。

 米紙はほぼ一方的にフォード社の肩を持つ。しかしファイアストン社の言い分も筋が通っている。何が何でもタイヤが悪いというナッサー会長の主張には根拠らしいものもない。

 では、日本の新聞はどう報じたか。すべて米紙の翻訳、つまり、ファイアストン社に味方する記事は皆無だった。なかには大きな訴訟になって親会社ブリヂストンも負担を強いられるだろうと、もうファイアストン社の負けを確信する記事を載せた新聞もあった。

 そういう流れの中で、このベタ記事が登場した。しかし内容はベタものではない。

 エクスプローラがらみで35人が死んだベネズエラの政府機関が同国での関連事故50件を調査した結果、「ファイアストン社製のタイヤをはいていたのは1件だけ」で、むしろ「車体自体に欠陥がある」と信じられるから「エクスプローラの輸入を禁止するよう」検察庁に要請したというのだ。

 さらに別の業界紙は「フォード社のベネズエラ法人はタイヤのリコールのさい、黙ってサスペンションも交換していた」疑惑を指摘している。要するにエクスプローラは車体重心が高い、いわゆるトップヘビーで、フォード社はこの欠陥を隠すためにタイヤの空気圧を減らすことで重心を下げさせていた。しかしこの彌縫(びほう)策がタイヤ剥離の原因になって多くの事故を生んだと推測される。

 おまけにフォード社は、すべて承知で日系企業に責任をなすりつけ、リコールをやらせてその際にこっそりサスペンションを交換、つまり証拠隠滅を図っていた――。

 しかし日本の新聞はそんな展開にまったく関心を示さなかった。日系企業が米国で欠陥タイヤを売った、という日本の名誉にも関わる濡れ衣を晴らそうともしない。せっかくの情報もベタで逃げてしまったのだ。


  『ニューヨーク・タイムズ』でさえ「日本では女はお茶くみだけ」


 実はこういう例は日本の新聞にはいくらでもある。1996年の米国・三菱自動車の集団セクハラ事件もそうだ。

 これは米国政府機関EEOC(雇用機会均等委員会)が提訴したもので、三菱イリノイ工場では700人の女性従業員全員が「男性従業員に長期、広範にセクハラをされている。会社に抗議すると逆に解雇をちらつかせて口を封じられていた」という。

 発表したEEOCのポール・イガサキ副委員長は血筋も顔つきも純粋日系人で、時に日本では女性の地位は低くセクハラはざら、といった「ステレオタイプ化された日本」を(ほの)めかす。

 どう見ても日本人にしか見えない男の発言は米メディアを喜ばせた。「日本人」がそういうのだから、これで人種偏見と非難されることはない。進出日系企業が米国内でセックス地獄をつくっているというセンセーショナルな発表は好きに誇張されて米紙を飾った。
『ニューヨーク・タイムズ』は「日本では女はお茶くみだけ。出世もなくセクハラが訴訟にもならない」。『ワシントン・ポスト』は、「これほど広範なセクハラは企業の同意がなければあり得ない」とEEOCの主張を鵜呑みにして三菱セックス地獄を事実として扱った。

 三菱は反論する。企業幹部はこの地での訴訟のコワさを十分知っている。対処もしてきた。しかし誰が考えたってセクハラを奨励する企業がどこにあるというのだ。

 会社だけでなく従業員も怒った。EEOCが「全員がセクハラ被害者」といった当の女性従業員の約半分も参加してEEOCに対して抗議デモを展開した。

 米メディアにとってこれはショックだったろう。大体、従業員が会社の名誉のために立ち上がる、なんて話は米国には絶えてなかった。地元紙はここで初めてEEOCの主張に小さな疑問を投げかけた。

 しかし、有力紙は違った。日本叩きをこんなことで挫折させたくない。そんなとき、デモ参加者に三菱が賃金を払ったという「事実」をつかむ。感激した三菱が親切にも当日を出勤扱いにしたのだ。米紙はそれを根拠に逆に「デモに参加しないと解雇すると脅した強制デモ」と攻撃を継続した。

 ただ、この騒ぎで米紙も恥ずべき集団セクハラをしたのが日本人でなく同じ米国人だったことに釈明の必要を感じた。『ワシントン・ポスト』はすぐに「米国人従業員は日本に研修に行った折、セックスショーに連れて行かれ、女には何をしてもいいという刷り込みを受け、日系企業という(日本をそのまま移植した)環境に置かれた」と書く。セクハラした米国人男性に罪はない、彼らは日本人に洗脳されたんだというわけだ。

 この三菱セクハラ事件はもともと「小さな政府」を目指すクリントン政権のもとで、お取り潰し第1号と目されたEEOCが延命のためにでっち上げたものだった。というのも、実は過去に取り潰されそうになったとき、ホンダを訴えてカネを巻き上げ、延命に成功している前科があるからだ。

 もう1つ、きわめて重要な事実を1年後、つまり三菱が白旗を挙げ、3400万ドルの和解金を支払った直後にAP電が伝えた。EEOCが実は提訴前に三菱の女性従業員に「言う通りに訴訟に参加すれば30万ドルがもらえる」と説得していた、というのだ。

 EEOCの根回しはそれだけではない。
「女性蔑視・日本」を舞台回しに使えば、さすがの日本人も人種偏見だと抵抗するかもしれない。それで、日系市民団体でくすぶっていたイガサキを引っ張ってきた。彼はそれまで日系人に対する偏見と戦ってきたが、ここでころり転向するのだ。


  事実はどうでもいい「インフォテインメント」


 それにしてもなぜ標的が日系企業なのか。1つにはこんなインチキ話でも日本の政府もマスコミも反論しない。抵抗なくふんだくれるからだ。そして2つ目が米メディアは日本叩きが好き、という伝統がある。米メディアの支持は予約済みなのだ。

 元『ロサンゼルス・タイムズ』紙のサム・ジェイムスンはいう。
「民族、宗教も違う国々、とりわけ目立つ日本については、インフォテインメントが主流になる」

 インフォメーション+エンタテインメントの複合語で、真実はどうかなどはどうでもいい、その異様さ、異質さを強調した話が期待される、というのである。

 この三菱事件でも『ニューヨーク・タイムズ』東京特派員、A・ポラックは日本社会を現実に見ていながら、「日本では女性は昇進も終身雇用の保証もない。女は補助的な仕事だけで男女がいっしょに働くこともない」(1996年4月25日付)と架空の「日本」を報ずる。「これが三菱のセクハラ容認の背景だ」と。

 なんともふざけた話だが、これに対して日本政府、新聞は予想どおり何もしなかった。地元のシカゴには日本人の生命財産を保護する総領事館がある。日系企業とてその対象だが、100人もの館員はこの騒動を傍観していた。この騒ぎでは三菱だけでなく日本に対する誹誘中傷もあったが、それを正しもしなかった。

 真珠湾の朝、日本大使館の館員は前夜の送別会で酔いしれ、宣戦布告の伝達が遅れた。日本はそれでスニーク・アタック(騙し討ち)の不名誉を負うが、当の館員は戦後すべて次官まで出世した。彼らは米国との友好が第一で、たとえ日本が傷つこうと米国を傷つけることはしない伝統を持つ。

 日本の新聞は、たとえば『朝日』は50人近い記者が東海岸にいるが、誰ひとり現場には行かなかった。事件の報道は米紙が伝えるのを縦書きに直して、そのまま伝えるだけだった。心情は外交官と同じなのだろうか。

 一方の米メディアはEEOCの発表が少々うさん臭くても面白くて国益にかなう(日系企業からカネを巻き上げる)なら、懸命に味方し、従業員デモのようにボロが出そうになれば懸命に取り繕ってもやる。

 旭光学もやられている。訴えたのは米司法省だ。旭光学は製品の組み立てラインを香港に持つ。1990年代初め、それを中国・深に移すが、その間、一部を深でやり、仕上げを香港でという時期があった。

 司法省はそこに目をつけ、ペンタックスの裏底にある「Assembled in Hongkong」の表示にウソがあると言い出した。だって一部を深でやっているじゃないか。

 じゃあ「Made in Hongkong」と書けばいいのかと旭光学が問うと「それもウソ」だという。要はやくざの因縁だからどうしても不当表示を事件にして、同社が米国で稼いだ6000万ドルを出せという。

 3年の裁判の間、日本大使館も日本人特派員もノータッチ。1行も記事は書かれず、旭光学は結局、米国の正義の殿堂、司法省に2000万ドルを脅し取られた。

 テキサスで同じ時期に東芝ノートパソコンの欠陥をつく訴訟が起きた。これも阿漕(あこぎ)さでは同じだろう。因縁づけでは、屈指の弁護士が登場して、彼に頼まれた2人のユーザーが「ディスクドライブが故障する懸念」を裁判所に申し立てた。その時点で東芝パソコンは全世界で1500万台が使われ、米国での市場占有率も年間トップを走っていた。しかし、その種のクレームは1件もなかった。

 東芝の主張に対して弁護士は「絶対に故障はないと言い切れるか」という。「神様じゃないから、そりゃあ壊す目的で一度に多くの負荷をかければ保障はできない」と東芝。それみろ、PL法(製造物責任法)にいう「商品」はそれが安全で故障しないという暗黙の保証(implicit warranty)がある。それに東芝は違反している、と。

 裁判地は「外国企業が勝ったことのない」、そして超高額賠償評決を平気で出すことで知られるテキサスだ。裁判制度に不信を抱く東芝は負ければ1兆円(100億ドル)といわれる裁判を11億ドルで和解にした。

 神様でも無理な暗黙の保証が求められるなら、なぜこの弁護士は「墜ちない」といいながらぼたぼた墜ちているボーイング社やアエロスパシアル社を訴えないのか。ボーイング社を訴えれば米紙はこの弁護士を自国の基幹産業になんで因縁をつけるのかと非難するだろう。

 アエロを訴えれば仏大統領が米国の弁護士の阿漕さを罵り、『ル・モンド』はその後進性を笑うだろう。少なくとも東芝から勝訴の4億ドルを巻き上げることができた弁護士でも絶対に勝訴はできないと断言できる。

 しかし、東芝の事件では地元のヒューストンの日本総領事館は動かなかった。『日経』など日本の特派員の誰も動かず、ここでもただ米紙の報道をなぞるだけに終始した。まるで日本の外交官もメディアも米国とは等身大で口が利けないかのようにさえ見える。

 それは日本のメディアの生い立ちも関係しているかもしれない。

 大体、欧米の新聞は17世紀ぐらいから通用しはじめるが、共通していえるのは国王など為政者の(かなえ)の軽重を問うような国内ニュースはずっとタブーで、むしろ隣国の悪口や干渉、批判が主だった。米大陸では17世紀末に最初の新聞が出るが、そのトップ記事は「ルイ14世が義理の娘を強姦」だったことがその辺の事情をよく示している。

 新聞とは要するに国境を接したよその国の動向を伝える、国益を考える手段として存在が認められていた。

 たとえばセオドア・ルーズベルト大統領だ。彼は太平洋の覇権を握るために、ハワイに加えスペイン領フィリピン、グアムの領有に執着する。これに協力したのが新聞王ウィリアム・ハーストだった。ハーストは傘下の新聞を通してスペイン領キューバの植民地支配を非難、支配されるキューバ人の自立のために手を差し伸べるべく対スペイン開戦を世論に訴える。そして開戦するや、海軍次官だったルーズベルトは遠くフィリピンに艦隊を派遣し、マニラを攻略する。キューバ人とフィリピン人が同じ救うべき立場だという見せかけだろうが、実際は独立を叫ぶフィリピン人の抵抗が強く、米国は約20万人を殺戮してやっと新たな太平洋の拠点を獲得する。

 メディアと政府は、それが国益にかなうものなら、協力体制をとり、臭いものにはフタをするいい例だ。


  しょせんは国際恐怖症


 さて、わが日本だが、実はかわら版の誕生以来、逆に国際ニュースがタブーにされた。たしかに18世紀初めには新井白石がイタリア人宣教師から聞き書きした『西洋事情』が出たことになっているが、これが世間に発表されたのは明治時代に入ってからだ。

 林子平がロシア艦の侵略を案じて『海国兵談』を世に問うたのがそれから80年後だが、すぐに発禁されたし、その後に高野長英らが国際問題を問うてあの蛮社の獄が起きる。

 四面海に囲まれ国境を持たない国、という環境論もあるが、それにしてもなんとも異常な内向き思考だ。

 それでも日本は明治維新で国を開く。

 米国との最初の試練は明治14年にあった。ハワイの国王が訪日し日本の皇室と姻戚関係を結びたいと申し込む。米国がハワイ王国を武力で取ろうとする、それを日本と協力して防ぎたいというのだ。しかし日本は尊敬する米国とことを構えたくない。丁重に断り、ハワイ王国は10年後に米国人グループの武力クーデターの前に滅ぼされる。

 日本はやがて日清、日露戦争に勝つが、それにハーストとその後ろにいるルーズベルトが反応する。ハーストは自分の新聞で「日本の脅威」を宣伝し、開戦間近のデマも流す。市民は目の前にいる日系移民に暴行を働き、商店を焼き打ちする。サンフランシスコのような都会でもわずか90人余の日本児童を学校から追い出した。

 日本政府も新聞もこうした露骨な偏見と差別に抗議の声は上げなかった。とどのつまりは日本人移民の禁止を(うた)った排日条約を飲まされた。日本政府はこの恥ずかしい協定を極秘扱いしてしばらくは公表もしなかった。

 要するに明治、大正時代になっても、日本の外交官もメディアも等身大で国際社会に日本を主張するところまでは成長しなかったのである。

 三菱の事件でも、ファイアストン、東芝の騒ぎでも彼らは何のためらいもなく、米国政府、新聞の報道に従う。日系企業を見捨てて(てん)として恥じない。

 江戸時代以来の国際恐怖症という呪縛が未だに残ったままなのだ。
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