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歴史の勉強法 確かな教養を手に入れる
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歴史
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エピローグ 何のために歴史を学ぶのか

『歴史の勉強法 確かな教養を手に入れる』
[著]山本博文 [発行]PHP研究所


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「武威」というキーワード


 歴史学の研究にとって、史料の発見・活用はたいへん重要なことで、これによって研究はずいぶん進歩していきます。私が研究を始めた頃は、大名家史料が公開され、研究に利用できる条件が揃っていました。このため、大名家史料を大量に読解することによって、それまでの研究とはまったくレベルの違った研究ができるようになったのです。


 特に、(はぎ)()()()(やく)・福間(ひこ)右衛()(もん)の職務日記である『(こう)()(しよ)(にち)(じよう)』との出会いは、私の研究にとって大きなものでした。留守居役とは、いわば藩の江戸詰め外交官で、幕府や他藩と交渉して藩の地位の向上や存続をはかる役職です。福間が、いかに細心の注意を払って幕府との交渉を行っていたか、そのために誰に会い、どういう下工作を行っていたかが、この史料には詳しく書かれていました。


 この史料によって、単なる事件の()(れつ)ではない政治史を描けることがわかり、私は『江戸お留守居役の日記』(講談社学術文庫)という本を書きました。幸い、多くの読者に恵まれた本でしたが、読者の方には、江戸時代でも現代と同じように人脈が重要であり、さまざまな根回しが行われていたことが印象深かったようです。


 逆に考えれば、現代も江戸時代とそう遠くないところにいるとも言えるわけで、やはり江戸時代を研究することは、近代や現代の人々の行動を理解するうえで重要なテーマだということを、あらためて認識しました。


 江戸時代は、二世紀半という長い期間にわたって平和な世の中が続いた時代です。戦いを職務とする武士が作った社会が、なぜ平和を維持させてきたのでしょうか。これも、江戸時代史を研究するうえで、重要な問いになると思います。この難問に対して私は、「()()」という史料用語がキーになるのではないかと考えています。


 江戸幕府は、武威によって天下を統一した政権であるがために、「天下(たい)(へい)」であれば、それは幕府の武威を証明するものになりました。逆に戦いを行って負けると、武威で建てられた政権の正当性を揺るがすことになります。


 幕府は、武威の建前を維持するため、アメリカ使節ペリーが来航した時、戦争を回避しようとして、和親条約、修好通商条約の締結と譲歩を重ねるのですが、この弱腰が幕府の武威を傷つけることになります。征夷大将軍の職に()いて政権を運営しているのに、夷(外国)を征伐するどころか、その軍事的圧力に屈しているのです。この政策のダメージは大きく、結局、政権は倒れることになったわけです。


天皇の歴史の研究


 最近では、光文社新書で『天皇125代と日本の歴史』という本を書きました。これは、これまで刊行された多くの研究書、概説書、論文などを読んで、歴代天皇の即位事情や人物像などを概観したものです。


 この歴代天皇の研究によって、私は日本と日本という国の特質が理解できた気がしました。たとえば、ほとんどの日本人は、無意識的に国家の永続性を信じています。しかし、国家というものは、新たに生まれたり、滅亡したりするものです。日本人はそうした日本の特質に自覚的ではありません。その理由を突き詰めると、実は戦国時代に朝廷が統治権を完全に喪失するという大きな変化があったにもかかわらず、天皇と朝廷が京都の一部に存続したことだったと思います。


 記録も残っていない古い時代に誕生した(おお)(きみ)家が、天皇と名を変えて現在まで存続していることこそ、日本という国家が永続するという観念を生んだ理由なのです。


 戦前には、「(ばん)(せい)一系」とされる皇統の連続性そのものに価値を見出し、日本が(すぐ)れていることの証明としてきました。これが「皇国史観」と呼ばれるものです。天皇が統治する国家の形を「(こく)(たい)」と言います。この言葉は、幕末の()()学に生まれ、近代、特に昭和時代前期には絶対的な価値が置かれました。


 終戦前夜にクーデターを起こそうとした畑中少佐らは、さらなる国民の犠牲や国家滅亡の危険を(おか)してさえ、「国体」を守ろうとしたわけです。


 皇統はスムーズに(つな)がってきたわけではないですし、すべての天皇が優れていた(教育勅語にはそう書かれています)わけでもありません。天皇が統治する国家というのは、主に古代にのみ存在し、中世では次第に名目のみとなり、近世ではそれも失われました。皇国史観と「国体」思想の誤りは明らかです。


 しかし、天皇という存在が続いてきたことだけは確かです。私は、こうした史実をもとに、日本と日本という国家の特殊性、さまざまな外国との差異を考えていくことが必要だと痛感しました。


普遍的な知見を探り出すために


 このように私は、現代にも繫がるさまざまな問いを設定して解答を得ようとするのが研究者の(いとな)みだと考えています。単に過去の事実を掘り起こすだけではなく、より普遍的な知見を探り出そうとしているわけです。


 その成果は一般向けの歴史書にも反映されています。日本においては、単行本や新書で、最先端の歴史学の知見がわかりやすい文章で紹介されており、一般の方が歴史を学ぶのによい環境が整っています。


 よく文系の学問は役に立たない、と言われます。専門を聞かれて歴史を研究していると答えたところ、(うき)()離れしている学問ですね、と言われたこともあります。


 しかし、これまで歴史を研究してきて、歴史を学ぶことは、政治にも外交にも実業にも不可欠だということを痛感しています。日本と日本人が、どのような歴史的な経緯を経て形成されてきたかを知ることによって、外国との違いがわかり、現代人の行動のパターンも予測できるようになるからです。


 また、人生を送るうえでも、歴史はたいへん重要な教訓を与えてくれるものだと思います。歴史というのは、これまで生きてきた(ぼう)(だい)な数の人間が作ってきたものです。成功した人もいますし、失敗した人もいます。


 こうした数多くの経験に学ぶことによって、自分の行動の指針を得ることができますし、しなくてもよい失敗を回避することにも繫がります。ぜひ、歴史の勉強を仕事や人生に役立て、真の教養を身につけた大人になっていただきたいと思います。

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