『ライムスター宇多丸も唸った人生を変える最強の「自己低発」 低み』
[編]TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」&「アフター6ジャンクション」
[発行]イースト・プレス
まえがき
古川 耕
「低み」とはなにか
まず、「意識高い系」とはいったいどういう人たちのことを言うのでしょうか。
自分磨きの勉学や研鑽に余念がない人、健康や自然環境を気にかけてヘルシーな生活を送る人、好奇心旺盛で人脈づくりに積極的な人……という理想像に憧れ、その上澄みだけを模倣するような人々が、揶揄のニュアンスを込めてそう呼ばれているようです。要するに、自意識過剰のかっこつけたがりで鼻持ちならないヤツ、といったところでしょうか。
それに対して、本書が提案する「低み」な人たちはどうでしょう?
節約のために納豆のネバネバでひげ剃りをする者。「もったいないから」の一点でカップラーメンの残り汁をシェアする先輩と後輩。世間体などどこ吹く風と、日高屋で婚姻届を書くカップル。グルグルのガムテープで補修した靴を足に「巻き」続ける大学時代の友人……。
衛生観念や常識をいとも簡単に飛び越え、当人だけの最適解に真っすぐ突き進む姿には自意識のかけらも感じられず、ある種の痛快ささえあります。彼や彼女はただの低きに流れた水ではなく、低きに向かって淀みなく辿り着いた純度の高い精製水なのです。
また、意識高い系のロールモデルが案外紋切り型の人物像に収斂していくのに対し、意識低い系の完成形はオリジナリティに富んでいます。「この世にこんな種類の低さがあったのか!」と想像の埒外を突きつけられ、感嘆と戦慄が同時に押し寄せるでしょう。「人間、下には下がいるものだ」などと安心させてくれさえしません。単にちょっとだらしないぐらいでは「低み」という「高み」には到達できないのです。
なにかが突き抜けている、なにかが冴え渡っている。ダメなのは大前提として、しかしたしかにそこには否定できないチャームがある。それが低みであり、その最良の見本市が本書なのです。
この本はTBSラジオで放送されていた「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」で2017年1月からおよそ1年間にわたって放送されていた投稿コーナー「低み」で紹介した文書と、その投稿についてライムスター宇多丸・構成作家古川が話したコメントを書籍用に編集・再構成したものです。
特集としても放送し、そこに出席していたエッセイストでイラストレーターのしまおまほさん、アーティストの三浦大知さんのコメントも併せて収録してあります。編集を担当した秋山直斗氏の手腕により、ビジネス系自己啓発書を思わせる、まさに低みを体現する本に仕上がりましたが、こんなリスキーなブツに帯コメントまで寄せてくれた大知さんには感謝の言葉もありません。彼は低みも解する最高に高い人間です。本当にありがとうございました。
生放送中、メールの読み手である宇多丸さんが途中で噴き出して、メールの続きを読めないことがしばしばありました。声が出せないくらい笑ってしまう。それってなんと得がたい貴重な時間なんでしょう。本書があなたにそのようなひと時を提供できれば、と願っています。
それではようこそ、低みの世界へ!