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情けは宇宙のためならず(毎日新聞出版) 物理学者の見る世界
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人文・科学
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第3章 地球を取り巻く宇宙

『情けは宇宙のためならず(毎日新聞出版) 物理学者の見る世界』
[著]須藤靖 [発行]PHP研究所


読了目安時間:26分
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138億年前の光


 天文学の目標の1つは可能な限り遠くの宇宙を見ることである。しかし、光の速さを超えて伝わる信号は存在しないため、我々は宇宙が誕生して以来現在までの経過時間(宇宙年齢=138億年)に光速をかけた距離までしか観測できない。これこそが、遠くの宇宙は過去の宇宙でもある理由にほかならない。現在知られている最も遠方の銀河は今から約130億年前のものである。それより遠く(=過去)になると、天体から発せられる光が暗くなる上に、そもそも天体自身がほとんど誕生していない。このため、個々の天体からの光を用いて過去の宇宙を探ることは困難となる。


 宇宙誕生直後の姿


 幸いなことに、天体が誕生する以前の宇宙は高温・高密度の状態にあったため、それ自身がいたるところで光輝いていた。現在の我々に向かって、宇宙のあらゆる方向からほぼ等方的に到来するそのような光は、主としてマイクロ波と呼ばれる0・1ミリメートルから10センチメートル程度の波長域であるために宇宙マイクロ波背景輻射(CMB:Cosmic Microwave Background Radiation)と名付けられている。その存在は、ビッグバン理論の生みの親であるジョージ・ガモフと彼の学生らの研究によって1940年代末に予言されていた。そのCMBの信号は、アルノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが、ベル研究所で衛星通信の受信システムを開発中の65年に偶然発見された。両名は、78年のノーベル物理学賞に輝いた。


 このCMBは我々を中心とした半径138億年の天球面宇宙の(地平線球面)から発せられたものでしかない。それより遠くの宇宙は完全に電離しているために、光に対して不透明であり我々はその先、すなわち、さらに過去の宇宙の姿を観測することは原理的に不可能なのである。詳しい計算によれば、CMBは宇宙が誕生してから約38万年後に発せられた光に対応していることがわかる。38万年と聞くと途方もなく長いようであるが、現在の宇宙年齢のわずか0・003%でしかない。その意味では、宇宙の誕生直後の姿をそのまま伝えてくれていると考えて差し支えない。


 このようにCMBは我々が観測できる最も初期の宇宙の貴重な情報源であり、宇宙論研究の中心テーマとなっている。地上からの観測の限界のため、専用観測衛星を打ち上げることで多くのブレークスルーが生み出されてきた。89年にNASA(米国航空宇宙局)はCOBE(Cosmic Background Explorer:コービ)、2001年にWMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe:ダブリューマップ)を打ち上げた。これに対してESA(欧州宇宙機関)は09年にPlanck(プランク)を打ち上げた。次の図1は13年3月に発表されたプランクのCMB温度ゆらぎ全天地図である。この地図の見方を少し説明しておこう。


 地球の2次元表面を、平面になるように適宜展開したものがよく見る世界地図で、いわば地球儀を外から眺めて切り開いたようなものである。図1のCMB地図は、これとは逆に、いわば我々を中心とした天球儀を内側から眺めて切り開いたものである。地図の赤道にあたる部分は銀河面(我々が所属する天の川銀河は薄い円盤状に星が分布しており、その平面を銀河面と呼ぶ)を真横から眺めたものに対応する。


 図の濃淡はその方向から来るCMBの光の温度の違いを表す。現在のCMBの平均温度は約2・7ケルビン(摂氏マイナス270度!)であるが、この地図上での濃淡の差は、典型的にはそのわずか10万分の1程度の温度差に対応しているにすぎない。このように、観測されたCMB地図は、宇宙が全体としては驚くべき等方性を保つ一方で、ごくわずかの空間的デコボコ(密度ゆらぎ)をともなっていることを示す。前者は宇宙にはどこにも特別な点はないという宇宙原理に、後者はその宇宙において現在の多様な天体諸階層を生み出す種に対応する。


 COBEは初めての全天CMB地図を完成させ、誕生38万年後の宇宙に現在の構造の種となるゆらぎが実在していることを証明した(この業績で、研究代表者のジョン・マザーとジョージ・スムートが2005年のノーベル物理学賞を受賞)。それ以来、観測されたCMB地図の角度分解能(2点を見分ける最小の角度)は、COBEが7度、WMAPが20分、プランクが5分と飛躍的に向上してきた。


 その結果、WMAPは我々の宇宙を特徴付ける多くのパラメータを正確に決定し、標準宇宙モデルを確定させた。その代表的な成果としてよく取り上げられるのは図2に示す宇宙の組成である。

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