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ある通商国家の興亡
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奇跡の経済復興

『ある通商国家の興亡』
[著]森本哲郎 [発行]PHP研究所


読了目安時間:22分
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   「そして、これからが……」


 無条件降伏。それは敗者が勝者の課する一切の要求を、無条件で受諾する降伏のことである。

 第二次世界大戦末期の一九四五年七月二十六日、米・英・ソ、三国の首脳は、日本に無条件降伏を要求する「ポツダム宣言」を発表した。それから十四日後の八月十日、日本は「宣言」の受諾を連合国側につたえ、五日後の八月十五日、その旨の詔書(玉音放送)がラジオを通じて日本全国に流れ、戦争は終わった。私は十九歳だった。

 戦争がどれほど悲惨なものであるかは身をもって体験してきたが、「戦後」がどんなに辛いものであるか、虚脱した心には想像もつかなかった。その苦しみが、翌日から始まったのである。

 私はいまでもはっきり覚えている。敗戦のどん底のなかへ、続々と外地から引き揚げてくる日本人、復員してくる日本兵士の惨めな姿を撮った一枚の写真につけられていたあるグラフ雑誌の見出しを。そこには大きな活字で、こう書かれていた。
「そして、これからが……」

 戦争より、ある意味では、敗れた戦後のほうが苦しいのだ。社会の崩壊、混乱、飢餓、あす知れぬ運命、むきだしのエゴイズム、生き抜くためにオオカミのようになった人びとの群れ、肉体の(かて)はもとより、精神の拠りどころも失った日本人の空洞のような心を、「虚脱」という当時の言葉が何よりもよく語っていよう。

 私たち日本人は、そうした「戦後」の呪縛(じゆばく)のなかに、つい最近まで生きていた。いや、いまも、というべきかもしれない。少なくとも私の人生は、「戦前」、「戦中」、そして「戦後」という三期でつづられてきたのである。
* 和平交渉の使節団が、何度もカルタゴとローマのあいだを往復した。そして、最終的に講和が成立した。ローマの代表はスキピオであり、カルタゴの全権はハンニバルにゆだねられた。紀元前二〇一年、講和条約は調印される。しかし、それはまさしく、カルタゴの無条件降伏だった。ローマの要求は苛酷だったが、それをのむ以外にカルタゴのえらぶ道はなかったのだ。

 スキピオがハンニバルにつきつけた条項は、たしかに苛酷ではあったが、考えようによれば、意外に寛大だったともいえる。ザマの会戦で大勝したローマ軍総司令官スキピオは、そのまま軍を進めてカルタゴを攻撃し、この都市を徹底的に破壊しつくすこともできたのである。しかし、彼はそこまでカルタゴを追いつめはしなかった。カルタゴの町は無傷のまま残されたうえ、独立さえ認められたのであるから。

 海外領土の放棄、全面的な武装解除、莫大な賠償金……といった条件の内容は、きびしいにはちがいないが、ここには戦争責任者の処罰はふくまれておらず、この戦争でローマが受けた人的、物的損害を考えあわせると、ローマがこの程度の要求で、よくも自制したとみるほうが当たっていよう。

 完膚なきまでに叩きのめしてしまったら賠償金も取れなくなる、という計算が、戦勝国ローマの元老院にあったのかもしれない。あるいは、ハンニバルの政治的手腕がローマ側の譲歩を引き出し、また、スキピオのハンニバルに対する「敵ながら天晴(あつぱれ)」という敬意と信頼が、カルタゴを潰滅から救ったのかもしれぬ。が、こうして、十七年にわたった第二次ポエニ戦争、いわゆるハンニバル戦争は終結したのだった。
「そして、これからが……」敗戦国カルタゴの苦難の歳月となる。その“戦後”は、二千二百年も前の遠い過去とは、とうてい思えないほど、なまなましく私たちの胸に迫ってくる。

 敗戦によって、カルタゴは混乱におちいり、しばし茫然自失の(てい)であった。おそらく「虚脱」といってもいいような状況が、しばらくつづいたにちがいない。しかし、反乱や革命といった事態に追い込まれることもなく、ただちに復興に乗りだすことができたのは、カルタゴの軍隊の大半が傭兵から成っていたためであろう。

 カルタゴの元老院は依然として権力を握っており、軍隊を擁する将軍の独立を監視し、統制する「百人会」も、また「民会」も、ローマから干渉されることはなかった。
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