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“異色”創業者の発想
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ルポ・エッセイ
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流通ゲリラ革命を推進せよ

『“異色”創業者の発想』
[著]田原総一郎 [発行]PHP研究所


読了目安時間:34分
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ルームランナーや美顔器などのヒット商品を作る、その奇抜なアイデアとゲリラ的広告戦略のすべて


 斎藤 駿 日本ヘルスメーカー社長



 “ナンチャッテおじさん”騒ぎ

 日本ヘルスメーカー。

 ルームランナーで、数々の話題を提供し、一躍有名になった会社である。

 だが、こんな書き方をすると、日本ヘルスメーカーのスタッフは不満かもしれない。

 ルームランナーは、現在までに、販売台数三十万台、売上額百九億円なのに、昭和五十三年に、カムバックした歌手・天地真理をコマーシャルに引っぱり出して発売を開始した超音波美顔器「エレンスパック」は、十五カ月間に、実に四十万台売れ、売上額は百五十二億円にのぼっているのである。

 だが、正直いって、わたしは、この会社にあまり好感を持っていなかった。

 たとえば、一九七八年二月六日の朝日新聞に、次のような広告が載ったことがある。
「たずね人  お知らせ下さい

 山手線、小田急線、井の頭線に出没する謎の“ナンチャッテおじさん”へ

 いま、都内の国電・私鉄の乗客をわかせている幻の“ナンチャッテおじさん”の元祖を探しています。

 ご本人、あるいはお心当りのある方はお手数でもお電話でご一報下さいませんか。

 当社は室内ランニング器『ルームランナー』を製作している会社ですが、当社のテレビCMのことでぜひ早急にご相談したいのです。
(CM制作の関係上、2月10日までにご連絡のない場合は断念します)

   日本ヘルスメーカー

     電話 03(374)4856

     渋谷区代々木2―1115

              広告室 」

 たいへんな話題になった広告である。当の朝日新聞はもちろん、各紙が、そして各週刊誌が取り上げ、当時、ブームをまき起していた“ナンチャッテおじさん”騒ぎは、その、まさに絶頂に達した。

 わたしは、日本ヘルスメーカーの広告と、スタッフの狙い通りであろう、と思われる大仰な反響を眺めながら、苦々しい思いでいたものである。
“ナンチャッテおじさん”とは、その後、やはり日本列島を席捲する“口裂け女”と同種のフィクショナルな人物だとは、当時、すでに見当がついていた。

 そのフィクショナルな人物を探すとは、これは遊びでしかない。もちろん、日本ヘルスメーカーのような、したたかな企業が、ただの遊びに、大金(百万円ぐらいか?)を出すわけはないから、これは、話題をつくって企業名を売ろうとしているのにちがいないと、その魂胆は、容易に推察できた。

 人騒がせな広告を打つ。しかも、広告文の中に、さりげなく、いくつも、安全弁のような仕掛がほどこされているのが、なおのこと嫌だった。

 たとえば、「CM制作の関係上、2月10日までにご連絡のない場合は断念します」とことわっているが、この広告文が掲載されたのが、二月六日。“ナンチャッテおじさん”を探す期間は四日間しかないわけだ。

 四日間、とは、あまりにも短すぎる。
「CM制作の関係上」、とあるが、なぜそれほど緊急を要するのか。

 四日以上経って、“ナンチャッテおじさん”ブームが去ってしまうというものでもあるまい。

 もちろん、たずね人広告には、四日間以上の期間を設けてはならない、などというきまりがあるわけでもないだろう。

 こんな、もってまわったいい方をするまでもない。日本ヘルスメーカーの魂胆はみえみえだ。

 彼らは、“ナンチャッテおじさん”探しの期間を、できるだけ短くしたかったのにちがいない。

 なぜか。

 万が一、“ナンチャッテおじさん”が現われたりすると困るからである。

 まだある。実は、この広告文は、はじめは、末尾が、「当社のテレビCMに登場していただきたいのです」となっていたそうだ。それが「当社のテレビCMのことでぜひ早急にご相談したいのです」と変った。

 なぜなのか。

 万が一、“ナンチャッテおじさん”が現われても、「相談したい」という文面ならば、CMに出さなくってもよいわけだ。巧妙に逃げの口実をつくっているのである。

 つまり、“ナンチャッテおじさん探し”、と謳っていながら、日本ヘルスメーカーは、あきらかに、“ナンチャッテおじさん”が現われないで、広告が話題になることだけを狙っており、万が一“ナンチャッテおじさん”が現われた場合の逃げ方まで周到に用意している……こうした、何というか、志のありようが嫌だったのである。
「一日一回ルームランナー、人類みなルームランナー、ルームランナーの収益金はスポンサーならびに、この野坂昭如がいただきます」

 やはり話題になった野坂昭如のテレビコマーシャルの台詞(せりふ)である。この台詞が、日本船舶振興会会長の笹川良一が登場する、いかにも“偽善的”なCMのパロディであることは誰にも、容易に読み取れた。だからこそ、ウケたのだろう。

 しかも、このCMには、野坂昭如が、新聞で、ルームランナーの悪口を書いているのを、日本ヘルスメーカーのスタッフが読み、「これだ」と膝をたたいて、ただちに野坂昭如を登場させたのだ、という裏話まで、周到にまき散らされていた。

 たしかに、面白い、時代に対する批評眼まであって、刺戟的なCMである。日本ヘルスメーカーのスタッフの発想の、しなやかさ、したたかさが充分に感じ取れ、わたしは、彼ら、ゲリラ的仕掛人たちに、正直いって、少なからず興味を抱いた。

 彼らは、野坂昭如のパロディCMに続いて、さらに、美女のおならCMを登場させて話題をまいているのである。
「妙齢の美女がタイツ姿で室内ランニング器『ルームランナー』の上で走りはじめる。汗ばむ頬、揺れるバスト、見事なヒップ。しなやかな肢体が画面に躍る……うっとりみとれていると、突如『ブウーッ!』と一発。

 美女は口に手をあてて笑い出す。が、笑いをこらえながらつづけてランニング。そこにすかさず『いつでも、どこでも、自由にできる』のテロップにつづいて、『日本ヘスルメーカー』と社名。やがて、“ス”と“ル”が入れかわって正式の社名『日本ヘルスメーカー』とキマる」(日本ヘルスメーカーのニューズ・リリースより)

 実際には、放送時には、おならの音は消されたが、仕掛人たちの狙い通り、話題にはなった。
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