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暗号に敗れた日本
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歴史
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第四章 D暗号の傍受と解読技法

『暗号に敗れた日本』
[著]原勝洋 [著] 北村新三 [発行]PHP研究所


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 海軍の主暗号の流れについてはすでに図2‐10に示したが、この暗号書Dの流れでの大きな変更は次の三点である。

 ・開戦前から使用された暗号書Dは、一九四二年五月二七日に暗号書D壱に更新された。

 ・開戦前から一九四二年八月一四日までは、暗号書は単一であったが、同月一五日以後、「呂一」「呂二」「呂三」「波一」など複数となった。これは戦局の拡大により、それだけ通信量が増えたからであるが、その分、利用も準備も複雑になり、混用なども生じた。

 ・当初、乱数は印刷物の乱数表として利用されたが、一九四四年一一月より、ストリップ乱数盤も導入された(第六章参照)。


四・一 傍受電と解読の例 ミッドウェー海戦前の状況



かなり解読されていた日本海軍の暗号

 時間の進行としては日米開戦前からとなるのだが、まずミッドウェー海戦前を取り上げる。それは通信諜報というものが、如何(いか)に戦局を転回させたかという典型だからである。周知のように、この海戦は真珠湾攻撃から六ヶ月後に起こった。それまで、南太平洋、インド洋まで遠征し、暴れまわっていた日本海軍機動部隊は、六月五日(日本時間)のミッドウェー海戦において「赤城」「加賀」「飛龍」「蒼龍」の四空母と歴戦の航空隊を一挙に失って、戦況は逆転した。当時、日本海軍は正規空母としては、このほかに「鶴」と「瑞鶴」を持っていた。米国は太平洋での正規空母としては、「サラトガ」「レキシントン」「ヨークタウン」「エンタープライズ」「ホーネット」しか持っていなかった。しかし、「レキシントン」はミッドウェー海戦に先立つ珊瑚海海戦(一九四二年五月八日)で撃沈、「ヨークタウン」も大破された。この海戦では日本海軍も小型空母「祥鳳」が沈没、「鶴」も大破した。また「サラトガ」は潜水艦から雷撃を受けて修理中で、ミッドウェー海戦時に、米海軍の使える空母は、ドゥリットル東京爆撃(一九四二年四月一八日)から帰還した「エンタープライズ」「ホーネット」と傷ついた「ヨークタウン」のわずか三隻しかなかったのである。それに対し、日本海軍は「鶴」は修理に回ったが、正規空母だけでも五隻を持ち、しかも航空隊の戦歴は抜群、しかし、それでも惨敗したということは、米国に言わせれば、Incredible Victory(信じられない勝利、文献L‐1)でありMiracle(奇跡、文献P‐1)となったのである。

 ミッドウェー海戦については彼我の多くの著書があり(文献B‐1、M‐1、P‐2など)、ここでその詳細を述べることはないが、共通しているのは、日本海軍の暗号通信は傍受・解読され、それに基づいて米海軍は前もって十分な作戦を立てることができたということである。

 劣勢な空母陣しか持たない米海軍は、当然のことであろうが通信諜報を非常に重視したはずである。とくに日本海軍機動部隊が次にどこに現れるかを知りたい、それが予測できれば有利な戦術を展開できたはずである。ここでの通信諜報とは、通信傍受による暗号解読もあるが、これも無線通信技術になるのだが、通信解析や方位測定も有力な手段であった。

 図2‐10(その1)を見れば、一九四二(昭和一七)年初めに使用されていたのは暗号書D改版と乱数表八(JN25B‐8)である。乱数表は真珠湾攻撃直前の一九四一年一二月四日からの使用となっていた。ただし、その使用停止日時(すなわち、次のJN25C‐9への更新日時)については、日本側の記録では、五月一日に新しい暗号書D壱、乱数表第九に更新したとされていた。しかし、長田は更新は遅れ、一九四二年六月から八月の間で、暗号書DとD壱が混用された記録を指摘している(文献N‐1)。OP‐20‐Gの記録ではB‐8は明確に五月二七日まで使用されたとしている(文献H‐1ほか)。その後、これを裏付ける日本側の資料(五月二一日発の第一航空艦隊参謀長の電報)も見つかっている。この暗号書あるいは乱数表の更新の遅れが、作戦にとって致命的であったといえる。

 暗号論でいえば、一つの暗号形式を長期間使用すること(今の場合は半年以上)、さらには同様な通信文を異なった暗号で送信すること(混用)は、禁止されるべきことである。それが現実に行われていたということは、当時の暗号作成者と使用者の原則違反であった。もちろん、このことは解読者にとっては非常に喜ばしい話ではあったのだが。


 囲み記事【その5】 連合国の解読組織とNARA、RIP


 海軍通信部OP‐20‐G内に無線傍受と方位測定・追跡を担当するGX班、JN25の暗号解析・解読を担当するGY班、翻訳と暗号探知および復元するGZ班、通信解析のGT班、IBM処理機を担当するGS班などがあった。

 1941年当時は、海軍省にある大部屋1ヶ所で解読作業を行っていた。その後1942年2月14日の組織変更でGYはGY‐1班に変更され、専門暗号構成ごとに部屋も小区分化された。3月からは傍受電の運用記録、分類、解読と区分され、6月のミッドウェー海戦後の7月3日、再度編成された。

 GY=管理、GY‐1=JN25暗号の解析・解読、GY‐2=外交暗号、JN11、GY‐3=JN4、GY‐4=JN20、JN60、GY‐5=ドイツ海軍暗号方式、GY‐6=イタリア海軍暗号方式、GY‐7=フランス海軍暗号方式、GY‐8=JN4、GY‐9=JN151(潜水艦作戦)、GY‐10=JN39、GY‐11=JN36(気象暗号)を担当した。7月31日、GY‐12=海軍武官JNA‐6、2126AとBが追加された。

 そのほかにもホノルルのStation HYPO(FRUPAC)、コレヒドールのStation CAST、ワシントンのNEGAT、さらに英国の組織FECB(シンガポール、後にコロンボからさらにケニアへ脱出)とブレチェリー・パークのThe Government Code and Cypher School、オランダの組織(ジャカルタ)、さらにCASTがメルボルンへ脱出して、オーストラリア軍と共同で組織したFRUMELなどがあった。

 米国メリーランド州カレッジ・パークにあるNational Archives and Record AdministrationII(NARA)には太平洋戦争時の記録資料が集積されているが、その中に、米軍の情報・諜報関係の資料が存在する。

 OP‐20‐Gの編集になるR.I.P.(Radio Intelligence Publications、通信諜報図書)という資料は、日本(海)軍の通信傍受やその暗号解読を行った結果をほかの情報・諜報関係者に配布した資料で、戦後さらに整理し、まとめたと思われるものもある。これらを読むと当時の米国の情報・諜報関係の組織力とその記録保存への意欲を感じざるを得ない。


JN25B‐8の例:一九四二年二月六日の傍受電

 ミッドウェー海戦前の米海軍による傍受電の例を見てみよう。なお、傍受や解読を行っていたのは、囲み記事〈その5〉で紹介したようにOP‐20‐G関係 だけでなく、英国やオランダの傍受・解読の組織があったが、その歴史や組織を論議するのではないので、以下、これら通信諜報を行っていた部門をOP‐20‐Gの名前で代表させた。

 図4‐1はRIP74‐Eに収録されている傍受文の一例である。通信はカナ文字と数字で送信されたが、米軍の傍受記録はローマ字と数字で表現されている。以下、この図の見方を説明する。


 最初にこの電報は「サイパン(現在、アメリカ合衆国自治領)に何かが到着したことを、サイパンから、トラック(現在、ミクロネシア連邦)およびパラオ(現在、パラオ共和国)へ通報したもの」であろうことを予告しておく。これらの南洋諸島が日本海軍の重要拠点であったことは言うまでもない。

 図4‐1の上部には、資料の名称(R.I.P.74‐E)、資料作成時期(一九四二年一二月一日)があり、これがJN25B‐8(すなわち海軍暗号書D改版)に関するものとある。IN EFFECTは使用期間で使用停止は一九四二年五月二七日と書かれており、TYPEは五桁数字の乱数加算方式であること、USEは一般常務用であることを示す。次のSAMPLE MESSAGEは、ここには記述がないがこれは一九四二年二月六日に傍受したもので、最初のローマ字と数字の三行は額表部を示し、その次の一五個の五桁数字が暗号化された本文である。

 まず、額表部を見よう。これは今日の電子メールの宛先やcc(カーボン・コピー)に相当するものである。以下では現代風にわかりやすい用語を使って順番に整理する。ただし、額表部や呼出し符号(コールサイン)についてはRIP74‐E資料には一切の記述はなく、またそれは頻繁(ひんぱん)に変更されたようで、不確定部分が多い。しかし、幸いにこの時期の日本海軍の呼出し符号表(文献C‐1)を入手でき、それも参考にした。

 呼出し先  TOHE 3はトラック通信隊

        IMU 3はパラオ通信隊

 送信局DE(デ) OSI 0はサイパン通信隊

 数字符‐SUU、W15は本文15語、NRは通信番号429番を示す

     NENENEは不明(秘匿度か?)

 着信者TI(チ)TUKO 1はパラオの第三根拠地隊で49は参謀

 通報者TUHO(ツホ)KEKO 4は、横浜航空隊(飛行艇部隊)で、4は不明

    MORU 2はトラック在の一部門と推定され、49は参謀

 発信者HA(ハ)NO(ンオ)8はサイパンの第五根拠地隊で49は参謀

 補足するとチは電報を受け取る艦所または者、ツホはカーボン・コピーをもらう部署または者、ハはこの通信文の作成者に相当する。


 通信文とその乱数はがしの手順

 次に、数字一五語の本文を説明する。から語までを冒頭部、語を結尾部と呼ぶ。

 語 42200 422は電報番号。00は部数符(分割符)で、これはこの通信文が何部からなるかを示す。

 語 42255 422は電報番号の繰り返し。55は部数符で、この場合は右の0055の二つで、この通信文はこの一部のみであることを示す。

 語 48282 これは暗号化した乱数開始符(本文用の乱数表のページ、行、列)を示す。これについては次に説明する。

 語 71340 これも暗号化した乱数開始符。

 語から語までが通信本文。

 語02658は暗号化した乱数終了符。

 語06145は送信した日付(06日)と時刻(1450分台)。ただし、二月の記入は電文にはない。


 冒頭部の乱数開始符が暗号解読のポイントであり、それだけに複雑である。

 第語と語は平文の乱数開始符に、別の乱数を加算して暗号化されているので、最初にこの乱数をはがさなければならない。この方法は資料に書かれている。このために別に「乱数加算符」と呼ばれた表が用意されていた(乱数加算符は英語ではKey Additiveと表現されている。本文用乱数 Text Additiveとは別のものである)。復元されたその表は、同じRIP74‐Eに付けられており、番号000から999までの番号順に応じて二つの五桁の乱数が記入されている。

 この三桁番号は、第語と第語の電報番号に対応し、今の通信文ではそれは422であるので、この乱数加算符表の422番の行を見ると二つの乱数20681と53749が得られる。そこで、この二つをそれぞれ第語と第語から非算術減算する。すなわち、

 48282  20681 = 28601

 71340  53749 = 28601

 となる。ここでは非算術減算を示す記号とした(囲み記事〈その4〉参照)。これで同じ数字28601が得られ、間違いないことが確認できた。第二章で述べたように、上三桁の286は本文用乱数表の286ページ、次の0はその表の第0行、そして次の1は第1列を示すことになり、これが本文の乱数をはがす時の開始点になる。また、乱数開始点が28601であり、本文の第語から語までは九語あるから、乱数の終了点は28609になるはずである。これを確認するために第語の02658から引くべき五桁数字が、乱数加算符表に載っていないといけないのだが、資料RIP74‐Eには収録されていない。
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