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時の潮騒
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ルポ・エッセイ
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3 芸能と時代

『時の潮騒』
[著]石原慎太郎 [発行]PHP研究所


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 美空ひばりが亡くなった日の夜、舞台俳優をしている次男とこんな会話をしました。

「ああいうスーパースターが死ぬと、やっぱり人間というのは限りのある存在なんだなとしみじみ思うなあ。彼女の歌の文句じゃないが、“やがては沈む太陽だから”、という事なんだな」
「えらい思いこみだね」
「だって僕らの世代は、自我らしきものが出来だした頃からずうっと、好き嫌いは別にして周りのどこかでいつもひばりの歌が聞こえていたからね。歌は世につれという文句の実感は他の誰よりもひばりについてあったよ」
「親父はなんだかんだいいながら、実は結構ああいう歌が好きなんじゃないの」
「それは誰しもという事じゃないかな。そこがひばりの偉大さという事だろう」
「改めてますます驚くね。日頃他人について偉大だなんて形容を滅多に使わない親父さんが」
「偉大なものは偉大だよ、上品とか下品とかに関わりはなしにな」
「ま、ひばりは上品では無いわね」
「そりゃそうさ。しかしそれ故にこそあれだけの普遍性があったという事だろう。僕はよくクラシックのレコードやカセットを買いに行って、好きなマーラーとかワーグナーなんぞと一緒にひばりの新しいカセットを買ったものだが、その度レジの女の子に、ずいぶん広いご趣味ですねって、笑われたものだったよ。しかし人間の感受性はもともと幅広いものだからね。自由な人間ほどそうだ。

 で、君らの世代にとってひばりはどんな存在だったのかね。彼女が死んでどんな気がした」
「いや、それは親父たちとはかなり違うんじゃない。少なくとも僕は、ああ、あのおばはん歌手も死んだのかというくらいのものだったな。そんなに入れこんだ感情なんぞ無い。それはそうだろう、だって彼女が歌っていた頃の記憶なんぞ、僕らにはあまりありはしないんだから。親父のいう歌は世につれという方程式でいっても、僕らはその埒外にしかいないよ」
「それはまあそうだろうな。この前彼女の事で取材に来たある記者は、一緒に来ていた助手の若い記者から、彼にとってはビルの上から投身自殺した岡田なんとかいう若いアイドル歌手の死の方がショックだったと聞かされて怒っていたが、それはせんない事だよな」
「僕だって、同じスーパースターという事なら裕次郎叔父さんの死んだ事の方がはるかにショックだったよ」
「それは肉親だもの」
「いやそれだけじゃ無いよ、叔父貴の方が僕らには歌にせよ映画やテレビドラマにせよ、あるアイデンティティがあったもの。
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