『なぜか恋愛がうまくいかない人の心理学』
[著]加藤諦三
[発行]PHP研究所
ダメ夫を見捨てられない妻の胸中
「主人は六月から全く家に帰ってこない」とある年上の奥さんが電話で訴えてきた。
二人は駆け落ちして東京に来た仲である。ご主人は二十九歳で、会社の女性と同棲を始めてしまった。相手の女性はコンピューター関係の派遣会社から派遣されてきた女性である。三十歳で一人暮らし。
ご主人はその人と二人でコンビを組んで仕事をしていた。ご主人が病気で五月に入院したときに奥さんはその女性に病院で会っている。
ご主人は四月の後半、仕事が忙しくて帰れない日が続いた。会社から、「帰りたい、帰りたい」と奥さんに電話してきた。実はそのときも家に帰れる状態であったと奥さんは言う。
彼は家を出ていったときに着の身着のままプイッと出ていったと、彼女は母親のように彼のことを心配している。一緒に暮らすようになって五年間彼女は彼の母親役をしている。
「主人は人が嫌いで友達がいない。会社もいつも変わっている。友達ができても大切にしないで、切っていってしまう」
彼は異性であろうと同性であろうと、「お母さん」役をしてくれない人とはつきあえない。「お母さん」以外の人とは人間関係を作れない。
「主人は、私の実家からお金を借りている。三〇〇万円を借りた。未婚時代の借金の穴埋めに使われた。結婚前も分不相応な高級品を身につけていた」と奥さんは言う。
彼女はこんな自己喪失して自信のない男を「自分の仕事にはすっごい自信があるんです」と言う。
彼女は彼が威張るのは劣等感の反動形成であることが理解できない。
「すっごい自信」は偽装された劣等感なのである。どこの会社に入っても、まわりとの協調性がない。
劣等感の強い人は社会生活がうまくできない。要するに彼は大人になれないのである。
奥さんはご主人が女のところに行ってしまったのにわりあい明るい声を出している。
「何か腹を立てるのが馬鹿らしくなってきた」と言って笑った。
しかしその笑いは乾いた笑いである。楽しさを感じさせる笑いではない。絶望の笑いである。おそらく笑った後で暗い顔をするのではなかろうか。
「向こうで体の具合が悪くて医者にかかったんですよ」とまた心配する。