読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-1
kiji
0
1
1240162
0
「瑞穂の国」の資本主義
2
0
0
0
0
0
0
政治・社会
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
まえがき

『「瑞穂の国」の資本主義』
[著]渡邉哲也 [発行]PHP研究所


読了目安時間:7分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


 世界はいま、大きな構造変化を起こそうとしている。

 ウクライナの首都キエフなどで起きた反政府デモに端を発する政変を機に、ロシア系住民および自国軍人の保護を名目とした軍事介入の方針を決め、クリミア半島の編入条約に署名したロシアの一挙一動が、世界に大きな衝撃をもって受けとめられている。

 旧ソビエト連邦の崩壊、中国の改革開放路線などによって失われたと思われていた西側、東側という二つの対立軸が、再び浮上してきたのだ。これは歴史的に非常に大きな意味を持つ。

 ウクライナ問題の発生により、世界は再び冷戦構造に入ったと言えるだろう。西側と東側という概念が復活し、それが大きく世界を変えようとしているのだ。

 かつての冷戦構造は「共産主義」対「自由主義・資本主義」という対立構造にあった。今回は、「西側」「東側」という国の構成はほとんど変わっていないのだが、まったく異なる形の対立構造となっている。

 ロシアはかつて共産主義に失敗し、民主主義にも失敗し、いわゆる帝政時代に戻っている。中国は「中国共産党独裁自由主義経済」の国であり、けっして共産主義国ではない。このように人権を無視した「一種の独裁型国家」対「いわゆる民主主義国家、資本主義国家」という枠組みの戦いが、今回の東西対立の構図なのである。これにより、世界は大きく、さらに二分化されていくことになるだろう。

 たとえば、アメリカは二〇一一年から、軍事・外交においてアジア太平洋地域を重視する「リバランス(再均衡)政策」を(うた)ってきたが、中国とのビジネスを優先する国務省などの反対もあり、これが停滞していた。しかし、今回のウクライナ問題により冷戦構造が復活したことで、政権内でも中国の脅威を唱える勢力が力をつけ、米国の政策が大きく転換した。

 その象徴が、二〇一四年四月二十五日に発表された日米共同声明「アジア太平洋及びこれを越えた地域の未来を形作る日本と米国」である。この共同声明では、尖閣諸島を日本の領土と認め安全保障条約の適用対象とし、中国の一方的な防空識別圏設定や周辺国への領土拡大を強く批判している。同時にフィリピンなど中国との領土問題を抱える地域への米軍の駐留拡大などの政策もパッケージ化されており、非常に実効性の高い政策になっている。中国はアメリカの仮想敵国であるとあらためて明示したものと言っていいだろう。

 一方、二〇〇七年に起きたサブプライム問題をきっかけに、いわゆるグローバル金融資本主義は崩壊しようとしており、虚業ビジネスを中心とした金融主導型社会から、実業をベースにした実体経済主導型社会に再び回帰しようとしている。グローバル化を前提とした金融自由主義は、冷戦構造の復活とともに衰退せざるを得なくなる。

 つまり世界は、「グローバル」から「インターナショナル」へと動いており、国家と国家の対立構造がより明確化する、とも言えるのである。

 振り返ってみると、ベルリンの壁の崩壊とともに米ソ冷戦構造が終焉し、共産主義が崩壊したことによって自由主義、資本主義勢力が勝利した。その後、自由主義勢力がより強い自由を求めて、いわゆるグローバル資本主義や新自由主義を拡大し、世界を支配してきたのである。

 その結果、形づくられたのが金融主導型社会であり、その「行き過ぎた自由」による弊害が表面化したのが、サブプライム問題から始まった世界金融危機だった。

 こうした教訓をもとに、世界各国の政府および金融当局は一斉に規制を開始し、実体経済を重視する社会の構築に動き出した。世界の四大投資銀行の一角を占めていたゴールドマン・サックスなどがFRB(米連邦準備制度理事会)の配下に落ちたのをはじめ、世界の金融機関すべてが金融当局の軍門に下ったと言ってもよいだろう。このことで、新自由主義は崩壊に向けて歩み出した。

 新自由主義の理論の根底にあるのは「トリクル・ダウン」という思想である。トリクル・ダウンとは、「上」が豊かになれば、水がしたたり落ちるように「下」まで豊かになる、という考え方だ。ところが、それがうまくいっていないのは明らかである。たとえばアメリカの「一%問題」、すなわち格差問題がその典型であり、現実には「上」ばかりが豊かになり、貧しい人が増えているのだ。

 こうしたなか、いま欧米先進国の多くが若年層の失業率悪化の問題に悩まされている。失業率が高くなると、国民の不満は政権に向かう。民主主義国家では「一人一票」が原則であるがゆえに、経済環境が悪化し雇用不安が生まれることで社会が不安定化し、政権が打ち倒されかねない状況に陥る。それゆえ政権を維持するためには雇用を改善し、実体経済を良くしていかなければならないのだ。

 富裕層も、格差が広がることを恐れている。フランス革命を例に挙げるまでもなく、貧困層の不満は富裕層に向かうからだ。二〇一四年一月に開催されたダボス会議においても、最大のテーマは格差の解消だった。

 二〇一三年十一月二十七日付『ウォールストリート・ジャーナル』日本語版ホームページに掲載された「教会は弱者救済を――ローマ法王、経済的不平等を批判」という記事は、フランシスコ・ローマ法王が、トリクル・ダウンの思想および新自由主義を完全に否定したことを、こう伝えている。


 同法王は「『(なんじ)殺すなかれ』という戒律が人間生活の価値を守るための明確な制限を設定しているのとまさに同じように、われわれは今日、排除と不平等の経済に『汝向かうなかれ』と言わなければならない」と述べた。

 そして「このような経済は殺すことになる」とし、現在の経済システムは「その根本において不公正」であると糾弾し、「市場と金融上の投機の絶対的な自立を守る」ものだとした。同法王は、この種のシステムは新しい「専制」を生む可能性があり、それは「自らの法と規則を一方的に容赦なく押しつける」と警告している。


 そんな状況の下で再び、かつての「西側」に対する「東側」という概念が浮上したわけである。

 こうした市場主義経済、もしくはグローバル資本主義に対する批判の流れが止まる様子は見られない。世界中で格差が拡大し、貧しい者が増えていくならば、一人一票の自由選挙が行われるかぎり、貧しい者に照準を合わせた政策が採られるようになるからだ。

 そうなれば、経済的には分配を主にした社会主義もしくは共産主義的な思想が、世界の政治を主導するようになる。これは当然の理屈であるのかもしれない。

 お隣の中華人民共和国においても、現在「マオイスト」(毛沢東主義者)たちが大量に生まれている。三億人とも四億人ともいわれ、習近平主席の思想の前提にあるのも「マオイズム」だと見られている。

 中国を一言で表現するなら、「中国共産党独裁自由主義経済」という言い方が適当だろう。事実上、中国共産党員八〇〇〇万人が牛耳る自由主義経済であって、彼らが標榜する共産主義とはまったくかけ離れたものだ。

 それゆえ、このまま格差が広がれば、中国に「共産主義革命」がいつ起きてもおかしくないと、私はある意味の皮肉を込めて、つねづね主張してきた。中国における農民の暴動は年間約三万件起こっているというが、これは突き詰めて言えば格差の拡大が原因である。

 共産主義を標榜している中国は、まるで富の公平配分を望む民の国のように思われがちだが、実際は徹底した個人主義者の国である。だから公害もなくならず、公共の福祉も軽視されているわけだ。

 ここで私たちが再び考え直さなければならないのは、日本にも通じる「公共の福祉」という概念である。日本においても戦後、行き過ぎた自由主義や個人主義が蔓延し、ここ数十年来、その傾向はさらに強まっている。その結果、社会のさまざまな部分で軋轢(あつれき)や確執を呼び、それが社会の不安定化要因になりつつある。

 公共の福祉をもう一度見直そうというのがローマ法王の主張であり、これが今後、世界の主流になり得ることを考えなくてはいけないだろう。

 その意味でいま「瑞穂の国の資本主義」、すなわち日本型資本主義というものを、あらためて見直すことは、きわめて正しいことだと思われる。

 そのうえで考えてみよう。この先どのように、日本、世界が動いていくのかということを。それについて徹底的に論証したのが本書である。
この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:0文字/本文:3397文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次