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「瑞穂の国」の資本主義
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政治・社会
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第四章 二〇二〇年までに克服すべき日本の課題

『「瑞穂の国」の資本主義』
[著]渡邉哲也 [発行]PHP研究所


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防災・減災対策とインフラ再構築が急務


 二〇二〇年に向けての日本の差し迫った課題は、第一に防災・減災である。

 三十年以内に七〇%の確率でマグニチュード7クラスの巨大地震が発生するといわれる首都直下地震は、最悪の場合、建物倒壊と火災を合わせて死者二万三〇〇〇人、約九五兆円にのぼる経済的被害をもたらすと予想されている。

 また駿河湾沖合から九州東方沖まで続く水深四〇〇〇メートル級の南海トラフ(海溝)でも最大規模マグニチュード9・1の巨大地震が発生することが予想されており、最大で死者約三三万人、経済被害は東日本大震災の一〇倍以上の約二二〇兆円に及ぶと見られている。

 こうしたなか、二〇一四年五月六日付『日本経済新聞電子版』では、東京海上日動火災保険と三井住友海上火災保険が、七月から企業向けの地震保険料を値上げすると報じた。

 現在、国土強靱化基本法の下で「強さとしなやかさを持った安全な国土・地域・経済社会の構築」に向けた取り組みが行われており、四月には内閣官房のナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会による脆弱性評価が発表された。同評価では、津波対策が必要な地域の堤防整備率および水門開閉の自動化対応率が三割程度にとどまっているなどの、インフラ整備や耐震化などの防災対策における課題が指摘された。政府は五月下旬に国土強靱化基本計画を閣議決定し、二〇一五年度の予算に反映させる方針である。

 また東日本大震災以降、インフラ整備も大きな問題になっている。

 たとえば電力については、電力会社が発表している「でんき予報」などの電力使用状況ばかりに注目が集まり、「原発なしでも電力は足りる」という話がよく聞こえてくる。だが、福島第一原発事故以前は三兆円台だったLNG(液化天然ガス)輸入額が、二〇一二年は六兆円を超え、二〇一三年は七兆円を超えるまでに膨らみ、日本経済にとってあまりにも大きな負担になっているという現実が軽視されている。
「一物一価」の原則において、エネルギー価格は、企業の国内生産および存続に大きな影響を与えることは言うまでもない。さらに言えば、電力の量や価格だけでなく、電圧や周波数の変動が少ないなどの安定した電力品質を維持できなければ、産業自体が成り立たなくなるということを、多くの人が認識していない。

 一例を挙げれば、半導体製造装置と材料メーカの国際団体SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)が推奨する規格では、半導体製造設備のエッチング装置、成膜装置などに供給される電源について、一〇〇%の電圧低下が二〇ミリ秒(〇・〇二秒)以内などと、瞬低(瞬時電圧低下)耐量が定められている。

 二〇一〇年十二月には、中部電力管内の三重県北部から愛知県西部、岐阜県西部で約〇・〇七秒間にわたり、電圧が最大で五〇%程度低下するという事故が起きた。〇・〇七秒といえば些細に見えるかもしれないが、その結果、フラッシュメモリなどを製造していた東芝四日市工場で生産ラインの一部が停止し、コスモ石油の四日市製油所では操業停止、本田技研工業鈴鹿製作所でも部品加工ラインの一部が一時停止するなど、被害が広範囲に及んだ。

 その意味で、こうした産業界のニーズに応える高い電力品質の維持を無視して、海外との単純な電力コスト比較を行うことに、どれだけの価値があるのか疑問である。

 コスト削減を優先し電力自由化を推し進めた結果、大停電が相次いで起きたアメリカやイタリアの事例を見ても、「自由化」や「規制改革」という言葉がすべて正しいわけではないことを、日本人はあらためて認識すべきだ。こと電力の場合、本当に必要とされているのは、安定供給のための改善であり、むしろ必要な規制をどんどん強めるべきだと私は思う。

 最近、日本でも電力の小売自由化により、全国で約五〇社のPPS(特定規模電気事業者)が電力販売事業に参入しているが、あたかも「民間がやればすべて正義」であるというような風潮があることも、大いに疑問である。民間には民間の役割があり、官には官の役割があるのではないか。この役割分担が曖昧にされてきたのが、ここ数年、いや、ここ十数年来の流れなのだろう。

 基本的に民間企業は、儲かるビジネスをやるのであって、儲からないビジネスは長続きしない。だから、儲からないことを官がやらないと、インフラそのものが脆弱化していく。その意味で、官と民の役割を考え直し、再構築すべき時期に来ていると思われるのだ。

 ちなみに、太陽光発電や風力発電をはじめとする再生可能エネルギーは、既存の火力などに比べて発電電力量が少なく、非常に不安定で、産業用もしくは一定量の電気を安定的に供給するベース電源としては、じつに心許ない。

 相応の能力がある蓄電設備が開発できれば、太陽光発電や風力発電もある程度、意味を持ってくるのだが、現状ではリチウムイオン電池などの二次電池は、小電力の機器や施設での利用にほぼ限られており、発電所で起こした電力を貯めるという大規模用途には基本的に適さない。いまのところ、原始的なやり方ではあるが、夜間の余剰電力などを利用して水を高所に汲み上げ、昼間の発電に利用する揚水発電が最も効率の良い方法なのだが、多くの日本国民はこうした認識すら持っていない。

 もう一つ、老朽化インフラの整備も差し迫った問題である。

 たとえば全国に約一五万七〇〇〇橋ある橋梁(一五メートル以上)のうち、二〇一三年四月現在、通行止めのものが二三二橋、通行規制があるものが一一四九橋ある(図表4―1―1)。またインフラの「高齢化」も深刻で、二〇一一年度に耐用年数の五十年を超過した橋梁は約九%に達し、それが二〇二一年度には約二八%、二〇三一年度には約五三%に増えていくと見込まれている(図表4―1―2)。


「公益及び公の秩序」条項を導入することの意義


 日本の多くのインフラは、かつて田中角栄元首相が進めた日本列島改造論に基づいてつくられた設計図を焼き直し、さらに色をつけ直しながら、ズルズルといままで使われてきたものだと言って差し支えない。そこでもう一度、日本のインフラの設計図をつくり直していくのが国土強靭化の持つ意味合いなのだが、二〇二一年までに約二八%の橋が寿命を迎えるからといって、すべての橋を建て直すことになったら、とても国がもたない。

 これは原発も含めての話なのだが、何を残し、何を残さないのかという線引きをすることが非常に重要なポイントになっており、これが今後の政治的な課題になってくると思われる。したがって、日本の今後を見据えて、どのインフラを更新し、どのインフラを残さないのかという政治的コンセンサスを形成していくことが大切であり、その前提として、第三章で述べたように自由と公共の福祉、もしくは個人の権利と義務とのリバランスが不可欠になってくるのだ。

 日本国憲法の第三章では、「国民の権利及び義務」についてこう定められている。

第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


 これに対し、自由民主党の憲法改正草案ではいわゆる「公益及び公の秩序」条項を導入し、個人が自由や権利を無際限に主張することに歯止めをかける内容になっている。

(国民の責務)
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。

(人としての尊重等)
第十三条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。


 仮に、この改正案に沿った内容で憲法が改正され、自由と公共の福祉、個人の権利と義務とのリバランスが図られ、公共の福祉がより重視されるようになると、司法における判決も大きく変わり、国土強靱化に関係する各種の個別法を改正できるようになる。

 これにより、いままで大規模インフラの整備にともなう用地取得にかかっていた時間が大きく短縮でき、公共事業における資本効率を高めることが可能になる。そこに一定のルールに基づくADR(裁判外紛争解決手続)の枠組みを利用した地域的な調停システムもしくは和解システムをつくれば、訴訟で何十年も揉めずに、より短い期間でインフラ整備を進めることができるようになるわけだ。

 この「公益及び公の秩序」条項には、日弁連などが「基本的人権を有名無実化させる」として反対しているが、今後の日本が、来るべき巨大地震を含む自然災害に強い国づくりを進めていくうえで、いままでのように用地取得ができないために、二、三十年かけてもインフラが完成しないようでは将来はない。

 それで一番苦しむことになるのは、自然災害で大きな被害を受ける被災者なのである。震災などで壊滅的な被害を受けた地域の復興が一向に進まなくなることはもちろん、新たな震災の被害を防ぐためのインフラ強化や更新にも対応できない。その意味において憲法改正が必要になると、私は主張しているのである。

キーパーツ・キー素材――武力によらない日本の安全保障
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