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河合隼雄の幸福論
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生き方・教養
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はじめに

『河合隼雄の幸福論』
[著]河合隼雄 [発行]PHP研究所


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 人間の幸福ということについて、考えさせられることが多い。心理療法家という職業の私のところに訪ねて来られる方は、何らかの意味で不幸な状態になっておられる。その不幸を逃れて何とか幸福になりたいという願いをもって来られる。あるいは、あまりに絶望の状態にあるので、幸福など考えられないのだが、だれかに無理に引っ張られて来られる。

 そんな方とお会いして、そもそも「幸福」とはなんだろうと考えさせられる。病気の人は健康な人が幸福と思っている。お金のない人はお金をたくさん持っている人が幸福と思っている。あるいは社会的な地位が高ければ高いほど幸福の度合いも増えると思っている。しかし、果たしてそうだろうか。私のようにたくさんの人びとにお会いして、その本音を聞く機会を持つと、そんなに単純に考えられなくなってくる。たくさんのお金や、高い地位などのおかげで(丶丶丶丶)不幸になっている、と言いたい人もある。

 考え、考えしながら、いろいろな人にお会いしていると、「幸福というのが、そんなに大切なのだろうか」とさえ思えてくる。ともかく、それは大切であるにしても、幸福を第一と考えて努力するのは、あまりよくないようである。結果的に幸福になるのは、いいとしても、はじめから幸福を狙うと、かえって的がはずれるようなところがある。「幸福」というのは、何だかイジの悪い人物のようで、こちらから熱心に接近していくと、上手に逃げられるようなところがある。

 要は、かけがえのない自分の人生を、いかに精一杯生きたかが問題で、それが幸福かどうかは二の次ではないか。あるいは一般に幸福と言われていることは、たいしたことではなく、自分自身にとって(丶丶丶丶丶丶丶丶)「幸福」と感じられるかどうかが問題なのだ。地位も名誉も金も何もなくても、心がけ次第で人間は幸福になれる。

 確かにそのとおりである。時に自分は「地位も名誉も金もいらない」と公言される人があり、立派なことだと思う。立派なのはいいが、あまり大声で主張されると近所迷惑に感じられることもある。立派な上にもう少し静かだったらいいがと思ったりする。こんなあたりが、幸福ということの面白さである。地位も名誉も金も、あるのも悪くはないのである。

 というわけで、正面切って「幸福論」などはじめると、とうてい論じ切ることなど不可能と思っている。ところが、中日新聞記者の林寛子さんより「しあわせ眼鏡」という題で気楽な連載を、と言われたときは、多忙なことも忘れて引き受けてしまった。

 既に述べたように、自分の職業上、「幸福」に関心はある。ただ正面切って論じるのは難しいが、来談される人たちと話し合っていると、みすみす不幸を選んでいくような生き方をする人、「もうちょっと上手にやれませんか」と言いたくなるような人が実に多いのである。深く考えはじめると難しくなるが、そんなのではなく、ちょっと眼鏡をかけ変えることによって、異なるものが見えるように、少し見方を変えることによって、幸福が身近になる、ということがありそうである。

 このような考えで連載をはじめた。自分が見聞きしたことや、書物を読んで感じたことなどを、気楽に、それでも幸福ということに直接、間接に関連づけることを念頭において、毎月の連載をした。文中多くの書物から引用させていただいた。無断引用をお詫びすると共に、心からお礼申し上げたい。前述の林記者は読者の反応や、自分自身の感想などを伝えてくださって、励ましてくださった。それで、そんなに長く続けた気持ちもないのに、一冊の本になる程度になったので、この辺で一応連載を終わることにして、ここにまとめることにした。

 全体的な構成のある本ではないので、読者はどこでも自分の好きなところを読んでくださるとよい。そのなかのどれかが読者の幸福という点で少しでもお役に立つことがあれば、真に幸いである。


 最後に私事になるが、本書の成立のいきさつについて一言。実は前述した記者の林寛子さん、それに本書の編集をしてくださった海鳴社の和子さんは、共に私が京都大学教育学部に奉職中の教え子である。その縁で本書ができることになったが、優秀な教え子が成長し、共に幸福に関する本をつくることができたのは、私にとって幸福なことである。ありがたいことである。


 平成十年五月四日
河合隼雄 


※初出 中日新聞一九九三年一月〜一九九七年十二月

    東京新聞一九九三年一月〜一九九六年九月
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