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エンタメ
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北島三郎さん江

『昭和裏芸能史』
[著]なべおさみ [発行]イースト・プレス


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 人生の幸せは「人との(かい)(こう)にある」と、私達夫婦は常に語り合って来ました。


 どんな人に出逢え、どのように心が触れ合えるかです。


 人生は気儘ですから(うん)()(てん)()でしょうが、やはり自分自身が身を清めていなくては、人は認めてくれません。


 戦後の歌謡界の第二期黄金時代の頂点を極めた北島三郎さんでも、師と仰ぐ船村徹先生と巡り合えた御縁が最大のラッキーだったのです。同時に北島さん自身が、歌手を目指して必死に生きていた時に、奥様に出逢えた事も人生の幸運だったのではないでしょうか。事実、北島さんがそう仰るのを聞いて、私は北島三郎さんが大好きになりました。


 この方が世に出て行く時代が、私が(つき)(びと)をしていた水原弘と同時期、昭和三十年代のはじめでした。私は著しく北島三郎を敵愾心を持って見つめていた若き日がありました。


 その頃の事です。


 ある日、一ヶ月に亘る九州巡業を終えて、水原弘一行が東京に戻って来た、そのある日です。私は、渡辺プロのある日比谷に行く為に、有楽町駅から歩きだしました。芸能人にとって憧れだったショウ劇場の日本劇場の横を通るのですが、そこに見た事もない歌手の大看板が劇場を取り囲んで林立していたのです。

「ん?」


 誰なのか名も知らぬ人でした。坊主頭の様な短髪にギターを抱えた兄さんです。

「ふーん!」


 こちらは第一回日本レコード大賞に輝く水原弘の子分です。したがって、世に出てくる新人歌手がやたらに気になる訳です。


 なにせ「日劇」でワンマンショウとなれば、それ相応の実力者か人気者です。


 ところが、こっちは芸能界にいて、しかも歌の世界にいて知らない歌手ですから、

「こいつ何者?」


 と、矢も楯もたまらず日劇に飛び込みました。三階の一番安い席に陣取りました。最後列しか空いていませんでした。それだけ客が入っていると言う事です。この席からは、北島三郎さんが出てきても豆粒にしか見えませんでした。


 ステージが終わると誰もが昂奮していて、夢中で話し合っています。私の虫が動き始めました。

「この人の何処が好きですか?」

「何処が魅力的ですか?」


 と聞いて回りました。


 そうして得た結論はざっとこんな按配でした。皆、一様にこう答えたのです。

「サブちゃんは、一曲の間に必ず一度は私を見て歌ってくれるんです!」


 涙をためて言う女性がいました。

「私の為に歌ってくれるんです!」


 だから、もう一度観に来ますと語る人には満足感がいっぱいでした。


 私はその夜、レポートを書きました。

「北島三郎に学ぶステージ論」です。


 今迄の劇場での歌手は、どうあれこうあれ、「どうだ参ったか!」と、聴かせてみせる歌手が主流でした。


 ステージ上で、自分ぐらい上手な歌手はいないだろうぐらいの自負で歌っていました。


 はっきり言って自己陶酔に浸っている如きでありましたか。


 ところが北島さんは違っていたのです。



 音楽の前奏が高なりました。

〽涙のォ~


 は簡単ではありません。

〽のォ~


 が長いのです。


 このフレーズを延ばしている間に、上手一階の客席前方から、後方まで、北島さんの視線が動線と為って客一人一人に送り届けられていたのです。

〽終りの ひと滴ぅくぅ〜


 で、中央前方の客に対しています。

〽ゴムのかっぱに しみとおる


 で、センター後方まで目線は届けました。

〽どうせおいらは ヤン衆かもめ


 泣くな怨むな 北海の


 で下手の客を労らって、

〽海に芽をふく 恋の花

「なみだ船」


 星野哲郎・作詞 船村徹・作曲


 でありました。


 私は二回ステージを観て、お客さんの応えをつぶさに感じとりました。三コーラスの間には、三階どん詰まりの私の席へも、北島さんの片手が差しのべられたのです。


 曲ごとに、歌い手と聴衆が必ずどこかでドッキングするのです。

「……おやじさんも、お客さんに、“あなたの為に歌ってるんだよ!”と、語り掛けて歌ってやる優しさを取り入れるべきです」とレポートし、水原弘に手渡しました。



 これは、何んと社長に手渡されました。社長の呼び出しで事務所に行くと、ここから一つの物語が始まるのですが、この話はそのうちに致しましょう。


 ただ、このレポートは自分の主人には受けなかったものの大主人たる渡辺プロ社長に認められる切っ掛けになったのです。


 さて、この頃の北島さんを支えていたのが、奥様だったのです。後年、北島さんが言ってました。

「部屋代を只にする為に、そこの娘と一緒になったのよ!」


〽あの娘いい娘だ 離れもせずに


 俺を信じて ついてくる


 みてろ待ってろ このまますまぬ


 歩には歩なりの 意地がある


 いつかと金で 大あばれ

「歩」


 関沢新一・作詞 安藤実親・作曲



 私も、この歌の心境で妻に対していました。


 妻の言葉が残っています。

「北島さんは、奥様を変えようとしないから立派なのよ!」


 じゃ、私だって立派だろ? とは言えませんが、私達は北島三郎という人が好きでした。


「息子」


 星野哲郎・作詞 船村徹・作曲

〽出てゆくおまえの その(せな)


 遠い昔の俺をみた


 ……で泣けた。

……石でも 球でも 木でもいい


 命の通よう 仕事をしろよ


 何もせずに わがまま言うな



 ああ! 聴く度に泣かせやがって、北島三郎さんめ!

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