メールを盗み読みする夫
みどりさんは30歳。結婚一年目です。夫とは友人の紹介で知り合い、6カ月の交際期間を経て結婚しました。
夫は仕事の忙しい人で、結婚前、デートはあまりできませんでしたが、メールはひんぱんに交換し、何となくお互いをよく知っている気がしていました。知り合ってすぐに意気投合し、3カ月目には婚約しました。
結婚してはじめて、本当は彼のことをよく知らなかったのだとわかりましたと、みどりさんは静かに話します。彼女は穏やかな、しっかりした人のようです。
「結婚して2カ月がたったころ、彼が『仕事を辞めたら?』と言うので、どうしてかと聞くと、『僕はいい夫になろうと思っているんだ。だから、みどりにもいい奥さんになってもらいたいんだ』と言うのです」
と彼女はこれまでのいきさつを語りはじめました。
「いい奥さんは仕事を辞めなきゃいけないの?」
と聞くと、
「彼は、『僕は仕事が忙しいし、生活が不規則だから、僕が帰ったときに妻にはいつでも家にいてもらいたいんだ』と言うのです。
勝手だなとは思ったのですが、男の人はみんな、そんなものなのかなと思って、半年して仕事を辞めました。
すると今度は、『真理さんと付き合うのはどうかな』と言うのです。ビックリしました。真理さんは昔からの親友で、何でも話し合える、私にとってはなくてはならない人なのです」
とみどりさんは話をつづけました。
真理さんの夫は、大学は出たもののミュージシャンになり、いわゆる定職には就いていません。でも、真理さんの語る夫の話はおもしろくて、真理さん自身魅力的な人なので、みどりさんととても気が合います。
一方、みどりさんの夫は大学の教員です。釣り合いがとれないとでも思ったのでしょうか。みどりさんはこれには抵抗しましたが、
「ぼくと友だちと、どっちが大事なの?」
という彼の言葉で、みどりさんは、
「真理さんとは会わない」
と、約束してしまいました。夫を不機嫌にするのが怖かったのです。でも、メールだけは交換しあっていました。
ところが、ある日突然、夫が、
「真理さんとは会わないと約束していたのに裏切った」
と怒りだしたのです。
「会ってなんかいないわよ」
「会ってなくてもメールを交換していれば同じことだろう」
「どうしてメールのことを知ってるの?」
「そんなことはどうでもいいことだろう」
夫は妻のメールをチェックしているようです。
みどりさんはだんだん家のなかが息苦しく感じられるようになりました。外の世界から徐々に隔絶されて、夫だけを見つめて生きる生活は自分らしくないな、とも思いました。
「もうこの人とはやっていけない!」
きわめつけが、翌日の夫の言葉でした。
「その本だけどさ。本当におもしろいの? 誰かにすすめられたの? いまごろウーマンリブなんて、ちょっとおかしいんじゃない?」