『あの偉人たちを育てた子供時代の習慣』
[著]木原武一
[発行]PHP研究所
「省百まで踊り忘れず」という諺がある。雀が飛び跳ねるような格好で地上を歩行する有様を踊りに見立て、死ぬまでその癖が抜けないように、人間の場合も、幼いころに身につけた習慣はいくつになっても変わらない、という趣旨である。年をとっても道楽の癖がなおらないという意味で使われることが多いが、「家庭は習慣の学校」にふさわしい言葉でもある。
おそらく誰でも、幼いころ耳にした親の言葉をひとつやふたつは覚えているであろう。親というものは、いつまでも子供の心に残るような言葉や経験を与えたいと思うものである。もちろん、善い思い出と結びついた言葉や経験である。ひとりの息子を育てた私自身の経験から、私はこう言いたい。親として子に残すことができるもっとも大切なもの、それは、子供にとって一生の心の糧となるような幼年期の記憶、それを思い出すたびに幸福感が湧いてくるような記憶の宝庫である、と。