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京都学派と日本海軍 新史料「大島メモ」をめぐって
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歴史
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序 「大島メモ」が語るもの

『京都学派と日本海軍 新史料「大島メモ」をめぐって』
[著]大橋良介 [発行]PHP研究所


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京都学派の戦時下の活動を記した一次史料


 本書は、「大島メモ」と名づける数十点のメモ群の(ほん)(こく)と、このメモの精神史的背景についての若干の考察である。このドキュメントは昨年(平成十二年)ふとしたことから、六十年あまりを経て発見された。メモの筆記者は複数にのぼり、また何人かのレクチャーや報告の記録も含まれる。しかし主にメモを記し、()つこれを保存したのは、大島康正だった。これを「大島メモ」と名づける所以(ゆえん)でもある。

大島メモ」は次のような歴史を語る。すなわち、昭和十七年(一九四二年)二月から二十年七月にかけて、つまりは太平洋戦争のほぼ全期間を通じて、「京都学派」の哲学者たちを中心とする京都大学の学者グループが、海軍の一部の要請と協力を受けて月に一、二度、時局を論ずるひそかな会合を重ねていた。

京都学派」という名称のもとで理解される人脈の範囲は一定しないが、ここでは「西田()()(ろう)と田辺(はじめ)、およびこの二人のもとで何らかのかたちで〈無〉の思想を継承・展開した哲学者のネットワーク」としておこう。立ち入った吟味は本文にゆずりたい。


 会合の常連メンバーは(こう)(やま)岩男、(こう)(さか)(まさ)(あき)、西谷啓治、木村(もと)(もり)、鈴木(しげ)(たか)、宮崎(いち)(さだ)、日高第四郎。京都学派の内部で西田幾多郎に次ぐ位置にあった田辺元、海軍調査課の高木惣吉大佐なども、時おり出席している。グループのゲストとしては、後年ノーベル賞を受賞した物理学の湯川秀樹や、戦後は唯物論に転向したが当時は西田哲学に接近していた柳田謙十郎、東京からのゲストとして谷川哲三や大熊信行が出席することもあった。ここから分かるように、会合の出席者は狭義の京都学派の学者たちには限定されなかった。


 会合は極秘に開かれていた。このことは、会合の性格を理解する上で決定的に重要だ。結論を先取りするなら、それは海軍と連携しつつ陸軍の戦争方針を是正しようとする、体制内反体制ともいうべき(きわ)どい会合だったのだ。


 日時と場所をそのつど設定して、メンバーに連絡する役目は、京都大学文学部の副手・大島康正がおこなっていた。彼は会合の内容をメモにとり、清書して海軍の調査課に送る役目もしていた。会合では海軍経由の資料が配付され、時には出席者の誰かがレクチャーをおこない、討議の結果は海軍調査課に送られた。


 論議の主要テーマは、国内・国外の思想的な状況や歴史的背景の分析、時代の展望、戦争の理念の模索と国策是正の助言、のちには東条英機内閣の打倒を含めた戦争終結の展望、そして戦争末期には敗戦を見越しての国民意識の問題、等々だった。


 大島はこの会合が存在したということを、あちこちで記している。しかし彼自身が若干の理由から哲学の世界で忘れられた存在だったためだろうか、彼の言及は戦後の議論のなかで引用されたり関心を抱かれたりすることはなかった。彼のメモの実物が発見されたいま、大島の回想や言及も初めて(しん)(ぴよう)性を有するものとなった。彼のメモは、京都学派の戦時中の言行に関する一次史料だからだ。


海軍の要請による秘密会合


 このドキュメントは、海面下に巨大な部分をもつ氷山の一角に似て、それだけを見ても意味と背景は分からないだろう。たとえば海軍の協力のもとに成立した会組織が、なぜ会合を秘密裏に行わなければならなかったのだろうか。


 少し当時に眼を向けるなら、まず状況の異様さが浮かび上がる。「国策ニ反スル和平工作等ヲ行フモノハ閣僚ト雖モソノ生命ノ保証ヲ為スコトヲ得ズ(1)」と内務大臣が放言するような状況が、背景にあった。

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