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【新版】 雨の日のネコはとことん眠い
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はじめに

『【新版】 雨の日のネコはとことん眠い』
[著]加藤由子 [発行]PHP研究所


読了目安時間:3分
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 猫の耳を綿棒で掃除するとき、右耳をかくと猫はまるで自分で耳をかいているかのように、右足で空をかく。左耳をかくと左足が空をかく。自分の体の中で起こる状況は、自分の動作と連結してセットで存在するようである。猫にとって、右耳が気持ちよいときには右足が動いていなければいけないのだ。背中をかいてもらっているときは、首をねじり、舌を出し入れしていなくてはならないのだ。単純な神経回路をしていると言えなくもない。

 その一方で、猫はノブ付きのドアを開けたり、水洗トイレで器用に用を足したりする。そういうときの神経回路がどう処理されているのかは知らないが、とにかく意外な適応性をもっている。現代の飼い猫は、どうしようもない条件反射的かつ恒常的不変的な原始性と、妙に変幻自在な適応性が脈絡なく入り交じった不思議な生きかたをしているようだ。

 もちろん犬も同じ状況にあるのだが、猫は家の中で縦横無尽に空間を利用して暮らすせいで、それがやけに目立つのだ。調子よく適応しているかと思えば、ふと原始性が顔を出し、原則的に反応しているかと思えば、突然適応性が顔を出す。そして、そのアンバランスな所業が大ボケに見える。だが、人がどんなに笑おうと何の困惑も示さない。てらいもなく、ひたすら瓢々(ひようひよう)と口を尖らせて我が道を行く。そこに何とも言えない愉快さがあり、アホにも見える図太さに頼もしささえ感じる。猫の魅力の原点は、まさにこの点にあると言える。

 猫のもつどうしようもない原始性はどの部分なのか、それは何に根ざしているのか、そして、なぜそれが現れるのかを考えてみると、愉快さと頼もしさの質が変わってくる。猫の体の中には、生きていくための確実な方法として先祖代々しみついたものがあり、それをどこかで何がなんでもクリアしなければ、現代の生活の中でも納得がいかないのだろう。それが見えてくると、猫の大ボケ行動が大真面目であることに気がつくのである。

 真面目な大ボケ、これこそユーモアの真骨頂だ。最近の人間が忘れかけている真のユーモアを、猫は無意識にばらまいているのだ。それが毎日目の前で展開される猫との暮らしは、相当にハイセンスなものと言えるだろう。

 さらに、猫の行動の中にある先祖代々の教えを見るとき、我われが忘れてしまった野性を垣間見ることもできる。生きて何かをする前に、まず存在すること自体の大切さがあり、ただ存在することの素晴らしさがあることに気づかされる。昨日と今日の区別もなく、将来の計画やいずれ訪れる死への不安もなく、今存在することこそが生物としての本来の姿ではなかったかと、感じさせる。

 もちろん、猫には将来のことを考える能力がないと言ってしまえばそれまでだが、そんな能力がないからこそ、猫は大ボケもどこ吹く風で頼もしげに見えるのだ。そこに魅力を感じるのは、人間たちが心の隅でそれを(うらや)ましく思っているということではないだろうか。

 たかが猫、されど猫。猫のいる空間には、いろいろな哲学が存在する。本書では、そんな猫への思いと猫という動物の不思議さを、堅苦しくならずに書いたつもりである。

加藤由子 
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