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若者の「心の病」がわかる本
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文庫版のためのまえがき

『若者の「心の病」がわかる本』
[著]町沢静夫 [発行]PHP研究所


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 本書は青少年の「心の病」の問題を扱ったものです。すでに私はこの種の本をたくさん出しています。時々自分の本をみて「あまり変わりばえがないなあ」という反省をしていますが、その一方で青少年の「心の病」から生じる問題は続々と生まれており、そこから引き起こされる、少しずつ変化しつつある彼らの犯罪形態から、青少年の心の叫びを感じとり、その解決の糸口を探っていかねばなりません。

 今から十年くらい前までは非行型の青少年犯罪が多かったものです。たくさんの青少年たちが群れて集まり、そして凶悪性をエスカレートさせていくうちに、やがて殺人に至るというケースが多く、この場合は家庭の混乱や勉学意欲の低下、グループに入らないと不安である、などといった動機が特徴としてありました。

 しかし昨今増えている十七歳前後を中心とした単独凶悪犯罪は、たった一人孤立し、対人関係も不器用で、そのためいじめられやすいという青少年によって引き起こされているのが特徴です。しかも勉強だけはよくできるということで、どうにか自分の自尊心を保っているというような共通点があります。

 基本的に、もともと自尊心がきわめて高いということが彼らの特徴ですが、この自尊心も母親の過保護によってつくられたためにどこか脆弱(ぜいじゃく)で、外へ出るとその自尊心もたちまち(しぼ)んでしまうことのほうが多いようです。過保護で、いわゆる中流家庭で育った青少年が多いのですが、自尊心が高いがゆえに、挫折するといとも簡単に通常の世界で自分の力を発揮することを放棄し、犯罪という暗い陰の世界で自分の自尊心を満足させようとします。つまりこれはブラックヒーローと呼ばれるものです。

 自分は普通の世界では偉くもなれない、そして臆病にも見えるだろう、だからこの裏世界、つまり犯罪の世界で自分の存在を目立つだけ目立たせ、自分はそんなに弱虫ではない、勇気のある人間なんだ、ということを強調するのです。すなわち、自分は単なる石ころではない、大変な存在価値を持った人間なんだということを自己主張しているのです。

 このように自分の存在価値を求めるということが、今の青少年たちの基本的な考え方となっているのではないでしょうか。というのも、彼らは受験戦争の中で否応なしに偏差値によって輪切りにされます。そうした中で偏差値の高い、希望通りの進学ができた子供たちの一割か二割だけが成功感を持ち、それ以外の子供たちはすべて「自分の人生は失敗した」と思ってしまうのです。単独凶悪犯罪を起こした青少年たちは、はじめは成功組に入っていると自覚していた人が多いのですが、いじめ、あるいは何らかの挫折によって真っ当な進路から外れてしまったと考えてしまい、その結果、裏の世界でその屈辱感を晴らそうとしているかのようです。

 こうした自己の存在価値を求める、あるいは自分の存在が注目され、光り輝くことを求める、といった単独凶悪犯罪を起こした人たちの動機は、実は今の青少年たちに一般的な傾向でもあります。単独凶悪犯罪を起こす青少年たちが、自尊心が高い、過保護である、普通の家庭である、成績は普通より高いということも一般の多くの青少年家庭と全く同じです。したがって今現在、置かれている青少年の実態は、増えつつある単独凶悪犯罪を起こした青少年の実態ときわめてよく似ているのです。

 しかしながら、単独凶悪犯罪を起こす青少年は人と直接に関わることを避け、その多くはインターネットなどに好奇心を示し、きわめてオタク的に他人に接近します。彼らは孤立しているだけに空想、幻想、妄想といったものに取り憑かれた状態で、犯罪を犯すことが多いのです。妄想的な犯罪計画というものが、彼らの一つの特徴でもあり、彼らのおよそ半分にみられる傾向です。このように孤立しているがゆえに空想、幻想、妄想が心の中に広がっているということは、今の青少年たち全般に共通する意識──「現実と非現実の区別がつかない」「自分の心はバラバラである」「自分は気が狂いそうだ」──とまさに一致します。つまり、今現在みられる単独凶悪犯罪というものは、今の青少年の奥底にある心の叫びを代弁していると言ってよいでしょう。

 したがって神戸の少年Aの犯罪も多くの青少年たちの共感を得ているところがあるのです。このようなことを聞けば、多くの中高年の親たちは驚いてしまうでしょうが、それほどまでに現代の青少年たちはものの豊かさに囲まれ、何不自由なく生きてこられたことによって、かえって自分の本当の目標を見失い、言いしれぬ虚無感に悩まされているのです。

 しかしながら、この虚無感を救うのは、やはり彼ら青少年自身でなくてはなりません。彼らはこの虚無感というトンネルをくぐり抜け出なければならないのです。今の大人たちが持つ価値観や考えのものさしでは、このトンネルをくぐり抜けることは、もはやできません。

 彼らが、最終的には誰の助けも借りず、独自の創造力と勇気によって、自分の人生を設計していかなければならないのです。

 あくまでも自分たちを支配する母親、父親という存在を振りきって、自分独自の力で生きるんだという強い意志と、自分の言動に責任を持ち、そして自分の創造性を自由に発揮し、表現するんだという強い決意のもと、生きる道を探し求めることが彼ら自身を救うと同時に、今の時代そのものを救うことにもつながると、私は考えるのです。


 二〇〇〇年十一月
町沢静夫 
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