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歴史の鉄則
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政治・社会
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第五章 税率は「一律一割」が鉄則

『歴史の鉄則』
[著]渡部昇一 [解説]竹内靖雄 [発行]PHP研究所


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──国民に富があってこそ真の文化が創造できる──

(一) 一律一割税率で、日本はこんなにいい国になる
──大蔵省もお墨付きの国富創出の方法──

大蔵省は「一律なら七パーセントでよい」と考えている


 約三十年前ハイエク先生の通訳をしていて、「おやっ?」と思ったのは、先生が、
「税率は、一割ぐらいでよい」

 と言われた時である。大きな政府より小さな政府がよいのはよくわかるが、そんなに税金を減らしてもいいのか、聞き間違えたかと思ったが、やはり「一割」と先生はおっしゃった。

 私は、長らくこの一割という数字にこだわっていた。ある時、特に名は秘すが大蔵省主税局のトップにお会いする機会があったので、
「ハイエク先生は、一律に一割、一〇パーセントでいいと言われたのですが、いかがでしょうか」

 と尋ねた。すると、その高官は言下(げんか)に、
「もし、一律に取らせて戴けるならば、一〇パーセントでなく七パーセントで結構です」

 と答えた。日本の税金制度を(つかさど)る人物が、「一律なら七パーセントで充分」と考えていたのである。このことは、大蔵省自体も現在の累進課税が絶対だと思っているわけではない、ということを物語っていると思う。考えに考えたわけでもないし、後で返事をくれたわけでもない。間髪(かんはつ)を入れず即答されたのである。

 かくて、ハイエク先生の一割税率説は、日本の大蔵省のお墨付(すみつ)きをいただいたわけである。だが、累進課税に()れ、累進課税を正しいと思われている方には、どこか()に落ちないのではないだろうか。

全然他人事でないイギリスの失敗


 しかし、もう一度、ここまで述べてきた内容を、よく突き詰めて考えていただきたい。累進課税は本当に正しいのだろうか。国民の活力を引き出すために役立っているのだろうか。

 第二章で述べたように、近代の税金革命は一九〇九年、イギリスのロイド・ジョージが「貧困に対する宣戦布告」を行い、累進課税導入を発案したことに始まる。累進課税の当初の目的は「貧困をなくす」ことであった筈である。

 だが、実際に行ってみると、国の背骨であった中流階級を直撃して、「中流の貧困化」という事態が生じた。生真面目に税金を払おうとする人たちの背骨を抜いてしまった。なおかつ、高い税金を払うのが嫌な人たちは、海外へ逃亡した。国際的な逃散(ちようさん)が起こった。企業も、高率の法人税を逃れて、海外へ出たり、無理矢理赤字にして課税を逃れた。相続税は、先人が積み重ねて来た文化の伝統を殺してしまった。

 かくて高率課税は、イギリスそのものの貧困化を招いたのである。「貧困に対する宣戦布告」は、実は「国民の富に対する宣戦布告」であったわけである。それでも、国民の生活水準が上昇したのは、自由経済市場が何とか機能していたために他ならない。自由経済市場がなかった旧ソ連・東欧では、増大する人口を養えないから、大量虐殺したり、極端な貧困層が生まれたりした。しかし、それもレーガン、サッチャー夫人の登場をきっかけにして、内部から崩壊してしまった。

 私がイギリスの歴史を長々と紹介したのは、全く他人事とは思えないからである。

 累進課税を疑わない人は、「平等な所得の再配分」と「輝ける福祉社会」を信じている。高い収入の人から沢山取って、貧しい人たちに回そうという善意溢れる社会主義思想である。しかし現実には、パーキンソンの言う「最小の努力で最大の国庫補助を引き出す能力」を持った人たちのところへ、金は回っている。

悪代官と佐倉惣五郎(さくらそうごろう)、どちらが正しいのか


 しかも累進課税容認論の人は、高い収入の人は高い税金を払っている筈だという「美しき誤解」をしている。

 鉄道やホテル、スキー場、リゾート開発から球団まで経営して、大変な土地を持っているグループの各社が、実は税金をほとんど納めていなかったり、そのオーナーが信じられないほど低額納税者だったりするのは、一体どういうわけか(もっともこの話は税制調査会などでも話題になったぐらい有名であり、今では少し変えられたかも知れない)。また世界的な大企業が、軒並みずらりと税金を払っていないのはなぜか。

 むろん、巧みに、つまり合法的に税金逃れをしているために決まっている。高率課税は高額税収をもたらさないのである。あんまり税金を取ろうとすると、税率は税収と関係なくなってしまう。

 累進課税に慣れてしまうと、これらの税金逃れをする人たちを非難することになる。「節税」なんて言っているが、要は「脱税」じゃないか、厳しく取締るべきである、当局は何をしているのか、という声は耳にタコができるくらい聞かされる。大新聞も税務署や国税庁の発表をそのまま記事にして、「脱税者」を叩く。

 しかし、この意見は根本から間違っている。「強盗が定期券で襲って来る」ような税金を取るシステムの方が悪いのである。

 講談などの伝えるところによれば、年貢(ねんぐ)を払えと言って、払いの悪い百姓を「水攻(みずぜ)め」にしたり、無慈悲に年貢取立てを行った代官に一揆(いつき)で立向かったのは義民(ぎみん)佐倉惣五郎(さくらそうごろう)である。その英雄を妻子とともに討ち首にした悪代官に味方する人はいないだろう。『万葉集(まんようしゆう)』の山上憶良(やまのうえのおくら)の「貧窮問答歌(ひんきゆうもんどうか)」に出てくる税吏の肩を持つ人もいないだろう。それでいて、現代の税務署の肩を持つのはどうしてなのだろうか。

 しかし、大蔵省主税局のトップですら、一律七パーセントなら充分だと考えているのである。ましてや一律一〇パーセントなら、一挙に約四三パーセントの税率引上げだから、もしも貧富の格差拡大を御心配されるならば、余った分を本当に困っている人の補助金にすればいい。その際に、「最小の努力で最大の国庫補助を引き出す能力」を発揮するグループに出さないようにすればいいのである。

元々人間は不平等。だから平等に扱うべし


 もしも一律一割税制を採用したら、どんなによいことがあるだろうか。

 一番目に、国民を一人ひとり「平等」に扱うことになる。「代表なければ課税なし」という原則は、ここでも当てはまる。代表を選ぶ権利としての「清き一票」を持っているならば、税金も同様に扱う義務が生じるだろう。逆に収入に対して一割の税金を払うことで、誰もが何ら世間に恥じることなく権利の主張ができるのである。収入が多いか少ないかは、もちろん能力によるところもあるだろうが、運による場合も多いのではないか。天変地異で財産を失う人もいるだろうし、偶然事故に遭って働けなくなる人もいる。運命の最たるものは、生まれた家だろうが、人生の途中でどんな人に出逢うかということも運命である。

 人間はその中でそれぞれ自助努力すればよいのであるが、努力と収入が結びつくとは限らない。努力に報いて収入を増やすとすれば、民間の私企業ならいざ知らず、これを国が行うとすると社会主義になってしまう。自由主義社会では、制度が収入の多寡(たか)で国民を差別してはならない。

 今のように収入の高い人から高率で(高額でない)取るのは、収入による差別であって、沢山取られる人が少ししか取られない人より偉いわけではない。ハイエク先生は、人間は元々不平等なのだから、平等に扱うべきだと言っている。平等だと決めつけるから、不平等が入り込むのである。選挙権が一律一票なのだから、税金も一律一割でよいのだ。それでこそ、個人は自由を主張できることになるのである。

土地だけは制限すべし


 繰り返しになるが、高い税率あるいは潜在的にその能力のある人がそのまま高い税金を払っているわけではない。ペーパー・カンパニーを作ったり、タックス・ヘイブンに利益を分散したり、わざと会社を赤字にしたりして、本来なら税金となるべきものが取れない。上手に税金逃れをしている人とそうでない人との間には、やはり貧富の差はあるのである。

 問題は、税金制度によって貧富の差がつくことである。もし本当に「平等」の理念を実現したいのであれば、一律一割税制を導入するしかない。その結果、一〇〇億円収入のある人は一〇億円払って、あとはその人の手許に九〇億円残るとすれば、それはよいことだと考えるべきである。嫉妬という劣情で判断してはいけない。九〇億円でどんなに贅沢をしても、実は誰も困らない。総金箔(きんぱく)塗りの部屋を作っても、天井をガラス張りにして金魚を泳がせても、誰一人として困らない。庭に小石の代りにダイヤモンドやエメラルドを敷く人がいても誰も困らない。
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