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歴史の鉄則
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政治・社会
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解説

『歴史の鉄則』
[著]渡部昇一 [解説]竹内靖雄 [発行]PHP研究所


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脱重税国家・脱社会主義のすすめ

竹内靖雄


 渡部昇一氏の『歴史の鉄則』は、税金の問題を軸にして自由社会の経済と倫理の根本を明らかにし、「小さな政府」が国家繁栄の基本であることをあますところなく説いた名著である。

 この本の中で著者は、経済学者や財政学者があまりふれようとしない、もっとも重要な税金の原則を正面から取り上げている。

 まず、役人がどんなに緻密で立派そうな議論を持ち出そうと、税金をたくさん取ろうとするのは悪いことである。税金は安いほどよい。この簡単明瞭な原則はあまりにも当たり前すぎてしばしば忘れられてしまうことが多い。税制改革をめぐる議論はこの一番肝心のことから離れて、不公平の是正にばかり関心が集まり、うまくごまかしている人々から厳しく税金を取り立てるようにすることが改革の眼目であるかのように思われがちである。たしかに公平ということも大事ではあるが、それは筋の通らない重税や増税という悪にくらべれば、二の次にしてもよい問題であろう。

 さらに、累進課税の正当性などは誰にも説明できない、と著者は断言する。その通りである。高所得者から高率の税金を取る制度が多くの国で行われ、それが「垂直的公平」の原則にかなっているかのようにいわれているのは、「金持ちには重税を」という思想が人々の嫉妬心に訴えるものがあるのと、取れるところ、取りやすそうなところから重点的に取った方がよいという「取る側の都合」とがうまく結びつくからである。

 困ったことに、世の中では、累進課税によって金持ちに思いきり重税を課してその稼ぎの大部分を取り上げ、またその財産にも重税をかけ、さらにそれが子孫の手に渡らないように、相続の際にその大半を没収してしまうような税制こそ公平だという観念が通用している。これは著者も指摘しているように(第三章)、他人が自分よりも金持ちであることが許せないという社会主義、共産主義の考え方であり、それを支える感情は嫉妬にほかならない。他人を不幸にすることによって満足し、それを正義であるとするような「劣情」は自由社会の倫理とはなりえない。自由社会の倫理は、個人が自由に競争し、自助努力を基本にして生きるということにある。この倫理を鋼鉄のごときバックボーンとし、「小さい政府」への改革を断行した「アイアン・ウーマン」ことサッチャー夫人の生い立ちと思想と行動を、著者は共感をもって紹介している(第三章)

 もう一つ、自由社会の思想と倫理を確立するのに不可欠なのは、「親社会主義症候群」から解放されることである。

 この本で渡部氏は日本人の社会主義好きを指摘して警告を発している。日本では、軍部=右翼=ファシズム=反社会主義、左翼=社会主義=進歩派、という図式が通用しているが、渡部氏は、軍部=右翼とは実は「国体の衣をつけた共産主義者なり」という近衛文磨の言葉を引用しながら、右翼軍人の考え方こそ日本の社会主義化を図って戦争を起こした張本人であったことを指摘している。右翼社会主義者は天皇を利用しようとし、マルクス=レーニン主義の左翼社会主義者は天皇制打倒を唱えた。しかし両者ともに自由市場経済には反対なのであり、ナチスや日本の軍部などの右翼社会主義が敗退した第二次大戦後は、ソ連・東欧や中国などの左翼社会主義勢力が自由主義世界に敵対して東西冷戦が続いていたのである。その左翼社会主義もやがて自壊し、敗退して姿を消そうとしている。

 しかし社会主義に傾く思想と心情は形を変えて今も残っている。それはたとえば次のような考え方である。
◇金持ちからは重税を取ればよい。その結果平等になるのはよいことだ。
◇自由な競争よりも官の規制と保護で手厚く守ってもらう方がよい。
◇税金は出したくないが、政府にはできるだけ多くのサービスを提供してもらいたい。
◇十分な福祉を国家の手で配給してもらいたい。
◇競争を制限して仲間の共存共栄を図る談合や「共生」、政・官・財の利益交換構造などの日本的なやり方こそ、日本の強さ、よさの源泉である。

 こうした考え方は、自由と自助を基本とする自由社会の倫理とは正反対のものである。この考え方で進んでいけば、最後はある種の社会主義に到達するほかないであろう。

 著者はこうした日本的社会主義、あるいは「もたれあい」や「お上依存」願望を払拭するために、ヒュームやアダム・スミスの自由主義を二十世紀に復興させた巨人・ハイエクの思想を詳しく紹介している(第四章)。何事も国家、政府、「お上」の管理に委ね、必要なものを平等に配給してもらうのが安心、という考え方は、一方では虫のよい「お上依存」の姿勢から来るが、他方では、政府が人間理性の権化として合理的な計画・管理をすることができるはずだという根拠のない思いこみから来ている。ハイエクはこうした理性や科学主義への妄信をしりぞけ、人間の自由な行動が自然に秩序を形成していくことに信頼を寄せた。この自由主義の基本的な考え方は、「お上依存」に慣れてきた人々にはなかなか理解されない。

 しかし本書の第一章で説明されているように、富(豊かさ)は自由な市場から生まれるのである。官僚統制や中央集権的計画などは、与えられた富を分配し、配給することはできても、富を増やすことはできない。ソ連型社会主義の失敗はそのことを実地に示してくれたのである。
『史記』を書いた司馬遷は、なんと二千年以上も前にこのことを見抜いていた。司馬遷によれば、経済を運営する最善の方法は自由放任、次善のやり方は利益をもって誘導すること、次が統制をもって導くこと、最悪のやり方は官が民と利益を争うことだという。当時問題になっていた塩や鉄の政府専売は、この最後の最悪のやり方であり、官が民から商売を取り上げて、国家独占とすることである。国家が塩や鉄のビジネスを独占して財政収入を図る方法が、税金を取り立てるよりもましだと考えてはならない。この専売は、高い公定価格で官が民を収奪することになるから、やがて密売組織が生まれ、それが武装して政府軍と内戦を始めることになり、多くの王朝はこの内戦の末に崩壊した。

 ところで、塩や鉄の専売を全商品に及ぼし、全企業、全産業を国営化して国家独占の商売をするやり方、それがほかでもないソ連型の社会主義なのである。したがって、社会主義では民間の自由なビジネスは一切禁止される。国家は全国民を国家直属の労働者とし、一定の賃金を払う。こういう体制の下では国民一人一人から所得税を取ることはない。国家は賃金とすべてのものの価格を好きなように決めることによって、好きなだけ国家の収入を確保することができる。これは税金を取る代わりに国家が市場を支配して国民を収奪する仕組みである。マルクスは、資本主義では資本家が労働者を搾取するといって非難したが、社会主義とは共産党の牛耳る国家が国民を搾取する体制以外の何物でもない。

 これは全体主義国家であって、重税国家よりも百倍悪い国家である。自由な市場経済の上に立つ正常な国家も、多くの仕事や福祉の配給を抱え込み、「大きな政府」という名の重税国家になるようでは、国民の富を生む市場は次第に衰退・縮小する。そして最後は、「貧しさを平等に分かち合う」ためにすべてを国家に委ね、個人は富も自由も失うほかなくなる。これが社会主義への道である。

 この本で繰り返し説かれているように、税金は安いほどよい。これは自由主義、民主主義の基本である。国が税金をたくさん取ることに歯止めをかけることができないような政治は、それだけで民主主義失格である。ところが多くの先進国、民主主義の国で、政府は一貫して膨張し、税金の負担は増える一方で、ほとんど例外なく重税国家が出現し、かつ赤字財政国家に陥っている。渡部氏のいう「歴史の鉄則」によれば、このような国家は衰退の道を歩んでいるということになる。

 この道を回避するためにはまず、自由主義と両立し、繁栄をもたらすような税金の原則を確立することが不可欠である。その原則が本書の末尾に「税法十の鉄則」として掲げられている。「税金は一律一〇パーセント」、このことは将来憲法に明記すべきだ、と著者は主張する。できるだけ多くの読者に、固定観念を捨ててこの「税法十の鉄則」を読んでいただきたい。そして背後にある自由と自助の哲学を理解していただきたいものである。

 最後に、本書の読者が、社会主義、共産主義から本当に「解放」されているかどうかを自分でテストする方法について述べておきたい。「まえがき」にも出てくる相続税の問題をどう考えるか。これこそ、家族を大事にする個人主義者・自由主義者と、「隠れ共産主義者」とを判別する試金石なのである。金持ちから思いきり相続税を取ることは、貧富の差を解消し、平等化を進めるのによいことだと思う人は「隠れ共産主義者」である。こういう人は、渡部氏の他の著作を読み、さらにサッチャー夫人の自伝を読み、ハイエク、ヒューム、アダム・スミスに学んで、ぜひとも「脱社会主義」を果たしていただきたい。そうでないと、経済大国として繁栄を誇った日本も、まもなくやってくる高齢化社会を迎えた時、重税と福祉国家(それは間違いなく破綻する)の重負担に押しつぶされて、本当に衰亡への道を歩むことになるであろう。
(成蹊大学経済学部 教授)
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