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新渡戸稲造の人間道
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生き方・教養
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終章 幸福とはなにをいうのか

『新渡戸稲造の人間道』
[著]岬龍一郎 [発行]PHP研究所


読了目安時間:23分
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人生の目的は幸福になること


 前章までの原稿を書き終えたあと、若い人に講演する機会があったので、本文の「修養論」を述べた。すると、三十代前半のサラリーマン男性から、こんな質問が出た。
「わたしはいつも幸福になろうと、真面目に一生懸命働いていますが、実感としてそれを感じたことはありません。そもそも先生がおっしゃるような修養を積んで、ほんとうに幸福などくるのでしょうか。日本は世界有数の経済大国となり、外国にもカネをばらまいていますが、わたし自身はいつもカネに追われ、仕事に追われ、幸福だと思ったことがありません」

 最近は格差社会とかいわれ、たしかに貧富の差が生じている。だから儲かっている人もいるのであろうが、豊かな生活をしているのはいまだ少数派であろう。その証拠に、普通のサラリーマンに「あなたは豊かさの実感がありますか」と聞けば、多くの人は「ノー」と答えるだろう。

 それは高い税金を払い、住宅ローンに追われ、子どもの教育費に四苦八苦し、世界一の物価高のなかで“消費生活”に追われているからである。もし家族が一人でも病気がちになると、福祉行政もままならない世の中とあっては、一挙に生活が困窮してしまう、というのが現実だからである。

 そのために多くの人は、すこしでも金持ちになりたい、すこしでも豊かな生活をしたいとの一心で、あの通勤地獄にもガマンし、家族との団欒(だんらん)を味わうヒマもなく、ただ馬車馬のように働いて、必死に“生活”を守っているというのがほんとうのところである。

 それゆえに、「オレの人生はなんだったのか。生活苦と闘うために生まれてきたのではないか」と、先の質問者のように悲観的に思ってしまうのも当然かもしれない。そうした現状のなかでも、「修養を積んだことで幸福になれるのか」と問うのである。

 賢明な読者なら、すでにこの答えは本文で述べているのでおわかりだろうが、「なれる」のである。

 いま一度思い出してもらいたいが、新渡戸博士は修養の目的をこう語ったはずだ。
功名富貴(こうみようふうき)は修養の目的とすべきものでない。みずから省みていさぎよしとし、いかに貧乏しても、心のうちには満足し、いかに誹謗(ひぼう)を受けても、みずから楽しみ、いかに逆境に(おちい)っても、そのうちに幸福を感じ、感謝の念をもって世を渡ろうとする。それが、僕のここに説かんとする修養法の目的である」

 博士がはっきりといっているように、修養の目的は金持ちになるとか出世することにあるのではない。修養を積んだ結果として、金持ちになったり出世したりすることがあったとしても、それは結果であり、本来の修養の目的は「幸福になること」なのである。

 人がこの世で生きるということは、決して金持ちになったり立身出世をしたりすることではない。お金や立身出世が幸福をもたらすことも事実であるが、それは幸福になる手段であって目的ではない。人生の目的は幸福に生きることにあるのだ。

 したがって、先の質問者のような問いかけをしている人は、一生、幸福など味わうことはできないのである。なぜなら、その人は根本的なところで、幸福の本質というものをはき違えているからである。

 では、幸福とはなにをいうのか。

覧と石川


 具体的に話を進めるために、二人の歌人の例をあげる。その一人は幕末の歌人、(たちばなあけみ)という人である。それほど有名ではないが、知る人ぞ知る人物で、“清貧の歌人”といわれた人である。私はこの人が好きで、神一行(じんいつこう)著として『「たのしみ」な生き方 歌人・橘覧の生活法』(角川文庫)を出したことがある。その彼の『独楽吟(どくらくぎん)』という歌集のなかに、こんな歌が残されている。

たのしみはまれに魚煮て児等(こら)みなが うましうましといひて食ふ時

たのしみは朝起きいでて昨日まで 無かりし花の咲ける見る時

たのしみは心おかぬ友どちと 笑ひかたりて腹をよるとき

たのしみは珍しき書人にかり 始め一ひらひらげたる時


 どれもみな貧しい生活のなかで、生きる喜びの一瞬を詠んだものである。この晴れやかな心持ちはどうだろう。読めば読むほどその情景が目に浮かび、ほのぼのとした幸せが心に染み込んでくるではないか。
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