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(2021/11/26 追記)

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ホームレス・ワールドカップ日本代表の あきらめない力
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ルポ・エッセイ
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第2章 人生を変えるサッカーボール

『ホームレス・ワールドカップ日本代表の あきらめない力』
[著]蛭間芳樹 [発行]PHP研究所


読了目安時間:33分
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ホームレスの人たちとのハイタッチ


 2009年11月7日、新宿四谷にある四谷ひろばのグランドに着いた。当時、地元埼玉で少年サッカーのコーチをしていたが、この日は休みをもらった。
「蛭間さん、おはようございます」
「はせさん、今日はよろしくお願いします」

 ビッグイシューでホームレスサッカーの担当をする長谷川知広さん(はせさん)が元気よく挨拶をしてくれた。後ろにはホームレスと思われる方々が5人、あとは若いスタッフが3人ほどいた。そこには、南部さんの姿もあった。
「おう、来たのか。お前彼女いないから暇人なんだろ(笑)」
「南部さんに誘われたら、来るしかないでしょ。みなさんは友達ですか?」
「友達?……違うと思う」


 そういえば日本代表を目指しているって言っていたな。ホームレスらしき人たちを眺めるに、年齢は30代もいれば私の父親世代5060代もいる。体格は普通だが決してスポーツ体型ではない。スポーツマンとしてはあるまじきタバコを片手に持っている。

 ボロボロになったフランス・ワールドカップの時の日本代表ユニフォームを着ている人、腕をまくりタオルでハチマキをしている人……。

 拒絶反応とまではいかないものの、私は自分の中でこの集団と距離を置こうとする無意識の抵抗が確かにあった。


 簡単な準備体操、パス交換などの基礎的な練習を行い、メインは試合形式のゲームだった。サッカーのレベルはというと、正直下手。むしろサッカーというスポーツの体をなしていなかった。基礎中の基礎であるボールを止める・蹴るができないし、そもそも走る体力もない人たちばかり。攻守の切り替えやポジショニングなども意識していない。個人の攻守技術の低さは明らかで、そしてチームとしての戦略と攻守戦術はみあたらなかった。

 サッカーチームとしては、足りないことだらけ、いや正直にいえば足りているものが何一つとしてないと感じた。そんなチームが日本代表を目指しているというのだから、サッカーを愛するものとして、少しむかついた。


 振り返ると、私の人生はサッカーとともにあった。人生の原点である笠原小学校(埼玉県宮代町立)での学びは本当によかった。「花と語り、鳥と歌い、風と走る、明るく豊かな子ども」を育てるという教育理念のもと、お受験教育とは別次元の学びの環境があった。

 自然と向き合い生きる知恵を学び、地域の大人たちから社会の一員としての役割を学び、自由な発想を育む情操の教育がなされた。小学校4年生の時、Jリーグ創成期の衝撃を受け、カズにあこがれてサッカーを始めた。中学・高校での選抜チーム、クラブユース時代には、本気でプロのサッカー選手を目指した時期もあったが、大きな怪我をきっかけに戻る場所を失った。プロの世界では、お前の代わりなんていくらでもいるということを常に意識させられた。

 サッカーは私に夢と挫折を与えてくれた。「サッカーは子供を大人にし、大人を紳士にする」という格言があるが、お陰で、自分の人生には、いろいろな学びとスパイスが効いたことも事実だった。

 サッカーだけに限った話ではないが、昔の友人とは損得勘定が一切存在しない付き合いで、またお互いが純粋だったのか、特定の目標や目的に対してそれぞれが切磋琢磨し、喜怒哀楽と自分自身と仲間やチームの成長過程を共有する数多くの経験をさせてもらった。

 それがいま社会人になり、空気を読むこと、組織人としての振る舞い、ビジネスという名の勝ち負けゲームの戦い方を目の当たりにし、過去の経験とはかけ離れた世界に順応するために生きていた。しかしながら、なかなか素直に順応できないもどかしさをいつもどこかで感じていた。

 ある意味、私は社会不適合者なのかもしれないと思っていた。


 そんな中でのホームレスの人たちとのサッカー。

 初めこそ、「こんなのサッカーではない」と思っていたが、私自身が参加し、ホームレスの人たちとサッカーをしていると、いつのまにか時間を忘れていた。昔もいまも、サッカーとの時間は過ぎるのが早い。

 下手ながらもみんな一生懸命だった。

 ミスをすればサポートし合い、ナイスプレーをすれば褒め(たた)え、暑くて体力的にもキツい中、なぜか全員が笑顔で、見学者も含め腹を抱えるくらいに笑った。
「南部さん、ナイスシュート!」

 彼と強くハイタッチをした瞬間、私は涙が出そうになった。社会人ギャップをいろいろな意味で感じていたのが、一気に解放されたのだろう。


 恐る恐る参加したホームレスの人たちとのサッカー練習。俗にいうサッカー評論家が好むサッカーの質という点では全く面白くなかっただろう。

 しかし、あの空間には異次元の価値があり、何よりサッカーというスポーツを純粋に楽しむ人たちが集まっていた。久しぶりに、過去に何度も味わったチームとしての一体感を味わうことができた。

破壊されたチッポケなプライドと安っぽい価値観


 練習の始まりと終わりに必ず行うことがある。チェックイン時の自己紹介とチェックアウト時の感想発表だ。

 極めてシンプルであるが、実はとても重要だった。練習にはいろいろな参加者が集まる。雑誌ビッグイシューの愛読者、ボランティア、サポーター、大学生、社会人、マスコミ、そしてビッグイシューのスタッフなどなど。50人集まる時もあれば5人くらいの時もある。

 練習の日時や場所の情報は、コアメンバーにはメーリングリストで情報が流れてくるほか、一般向けにはHP、ブログ、Facebookで公開されている。


 不安そうに参加する人も最後には必ず笑顔で「楽しかったです」と言って帰る。

 何がそうさせているのかは実際に参加してみないとわからないだろうが、初回の練習を経て、私には何ともいえない喜びや満足感が確かにあった。

 帰り道、独身寮がある中野駅に降りると販売者が雑誌を売っていた。それまで全く気にしていなかったが、駅周辺では必ず販売者を探す癖がついていた。

 そして、1冊購入した。


 帰宅途中の夕方16時過ぎ、研修の課題が山ほどあるのはわかっていたが、元気塾へのエントリーから今日の出来事までを少し整理しようと思い、私は独身寮の近くにある中野区平和の森公園に寄った。
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