日本社会の盲点
野武士ジャパンの選手自身が勝ち取った自立への道。
それを支えたのは、一つのサッカーボールだった。ホームレス・ワールドカップから垣間見えた世界の労働・雇用・人権問題と日本の状況も私なりに理解した。
できれば読者の方に、左記の問いについて考えてほしい。時間が許せば、これらの問いを踏まえながら本書を再読してほしい。一人ひとりが、自分の問題として捉えることによって、間違いなく日本社会が変わっていくと思うからだ。
【ホームレス・ワールドカップについて】

なぜ、日本チームは最下位なのか?

なぜ、ベトナムチームの平均年齢は
17歳なのか?

なぜ、女性チームが急増しているのか?

なぜ、欧州企業らはホームレス・ワールドカップを全面支援するのか?

なぜ、日本でのホームレス・ワールドカップ開催が難しいのか?
【ホームレス問題について】

ホームレスは個人の怠惰や自助努力の不足による自業自得の問題、自己責任か?

ホームレスをなくすのは国や地方自治体など公的セクターの仕事か?
私は、練習などを通じて、選手たちの日常生活や直面している困難に対する声を聞いている。また、ビッグイシューのスタッフをはじめ斯分野のエキスパートらが有する専門情報をうかがうことで、いままさに日本社会の末端で起きているホームレス問題に代表される労働、雇用、社会保障や福祉に関する様々な盲点を素人なりにも認識することができた。ここで幾つかホームレス問題の所在を私なりに整理したい。
【ホームレスの定義について】

本書中でも紹介したが、ホームレス・ワールドカップで驚いたことは、日本における公式な
ホームレス概念の狭さである。2002年に制定されたホームレス自立支援法では、路上・公園・河川敷などの屋外に居住している者のみをホームレスと定義してしまったため、現在に至るまで、ネットカフェ、脱法ハウスなど不安定ながらも屋根の下にいる人々への対策は後回しにされている。これら不安定居住者の実態調査は実施されていないのが現状である。そして、彼らの多くは次第に路上に出る。
【包括的な支援体制について】

行政対応は基本的に
申請主義が原則である。どんなに生活に困っていても、申請しなければ福祉、社会保障制度につながらない。しかし、その申請に関する情報(窓口、手続きなど)が、そもそもホームレスの人たちに周知されていない、ないしは周知の仕組みが標準的な対象者を前提としているため、支援が真に必要な人に届いていない。

日本の福祉制度や社会保障制度もたて割りシステムであり、子供、高齢者、障がい者などといった従来の枠組みに当てはまらない人や複合的な問題を抱える人はたらい回しにされ、問題をワンストップで相談できる窓口がほとんどない。

若者施策の検討においては、
「若者は親の保護を受けている」という暗黙の前提がおかれ、政策議論が展開されているため、親の十分な保護を受けることができない若者のニーズに応える施策は穴だらけである。先の定義も相まって、とくに
若者ホームレス問題は不可視化させられており、年々深刻化している。
困難な諸状況に置かれたホームレスの人たちや若者の障害を取り除き、教育や訓練の機会を提供し、求職活動を支援する社会としての総合的な環境整備が必ずしも用意されているわけではないことが、私のようなボランティアの立場でも現場にいるとよくわかる。現状は、これらの課題解決に関連する法制度基盤は極めて脆弱であり、問題ばかりが大きくなる状況にある。社会制度自体の欠陥、政策立案をする際の現状の誤った認識、現場まで踏み込んだ現状認識ができていないことが、この問題を増幅させている面もある。
社会課題の解決によってもたらされる便益や社会共通価値を創造することができれば、関係者の積極的な参入(例えば民間のビジネス参入)が期待でき、支援を必要とする人や社会全体が効率的、効果的に問題解決に向かうのではないだろうか。スポーツによる社会変革、私たち野武士ジャパンはそれをスポーツという社会技術を活用して挑戦している。
以降、本章では、ホームレス・ワールドカップ後の野武士ジャパンの活動や周辺の新しい動きについて簡単に述べたいと思う。