勤勉なるが故に
勤勉なる日本人──と言われている。ほんとうにその通りだと思う。日本人の勤勉さは、世界でも有名である。
もっとも、「勤勉」ということばは、二通りの意味があるようだ。いい意味と、悪い意味と。
いい意味というのは、勤勉は美徳である。勤勉であって悪かろうはずがない。だから、ごく普通に、勤勉はいい意味のことばである。
にもかかわらず、日本人の勤勉はときに悪い意味に受け取られている。例の「エコノミック・アニマル」がそうだ。このことばは一九六九年ごろから言われだしたもので、ほかに「イエロー・ヤンキー」だとか「エコノミック・インベーダー」という呼び方もある。ひどいのになると、「エコノミック・パラサイト」という呼び方までなされてきた。パラサイトといえば「寄生虫」であり、アニマル(動物・畜生)ですらなくなったわけだ。経済大国にのしあがった日本と日本人に対して、しかもその日本人に自国の経済市場を荒らされた諸国からの、怨み声であり、ののしりのことばである。
勤勉な日本人が汗水たらして働き、安くて上質な製品をつくって売り込みをかける。わたしが子どものころは、日本製といえば「安かろう、悪かろう」の代名詞であったが、現在はなかなかどうして、「安かろう、良かろう」の日本商品である。だから、日本商品はよく売れる。その結果、利益をごっそりと日本に吸い上げられてしまうのだ。東南アジアの諸国ばかりでなしに、EC諸国もアメリカだって、最近は日本に対抗できなくなったらしい。そこで、彼らは日本人の「勤勉」を諸悪の根源と見はじめたのだ。汗水たらして働くその姿を、「エコノミック・アニマル」「エコノミック・パラサイト」と呼びだしたのであった。
このような日本人の勤勉は、歴史的なものである。つまり、日本人が農耕民族であるところに由来していると思われる。
日本の農業は、ある意味で雑草との闘いである。太陽エネルギーに恵まれた日本では、雑草が繁茂しやすい。