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ゆったりと生きよう
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生き方・教養
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出家と独身主義

『ゆったりと生きよう』
[著]ひろさちや [発行]PHP研究所


読了目安時間:11分
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捨てる者、捨てられる者


 あの人は行ってしまった……。妻のわたしを捨て去って、たった一人で……。真理を求めての修行の旅に……。でも、妻を捨てて、自分ひとりの真理を楽しもうとするあの人に、真理なんて得られるものか……。

 あの人は知らなかったのかしら……。インドには、昔から、夫婦そろって真理の修行の旅に出る慣習のあることを……。夫婦のつながりは、来世までもつづいていることを、あの人は忘れてしまったのかしら……。

 わたしは、あの人が自分一人で天国の快楽を得ようとしている、そのことに嫉妬しているのではない。ううん、天国の快楽なんて、わたしにだって得られるのだわ。わたしが許せないのは、あの人がわたしを捨てたというそのことだけ……。

 わたしだけなら、まだあきらめもつく……。でも、このかわいい赤ん坊が、父親の膝の上で、嬉々と戯れられるその日が来ないなんて、どうしても許せないわ……。

 あどけないこの子を捨てて、まわらぬ舌で片言を喋るわが子を捨てて出て行くとは、あの人のこころは、なんてまあ残忍で冷酷なんでしょう……。


 以上は、仏伝文学の白眉とされるアシュヴァゴーシャ(漢訳名・馬鳴(めみよう))の『ブッダチャリタ』(漢訳名『仏所行讃』)の一節である。釈尊の出家を、その妃のヤショーダラーが、涙に(むせ)びつつ嘆く場面である。だいたいの雰囲気さえわかってもらえばよいと思って、翻訳ではなしにわたしの勝手な文章にしてしまった。しかし、内容については、それほど歪めていないつもりである。

 わたしは、これまで何度も『ブッダチャリタ』を読んだ。釈迦伝を執筆する上で、この書は必読文献なので、そのたびに繙いたのである。そしてわたしは、いつも釈迦の出家のところでわからなくなる。

 わからなくなる──という言い方は変だ。むしろ、わかりすぎるほどわかるのである。ことに、女の情念をむきだしに表白したヤショーダラー妃のことばには、何度読んでも胸をうたれる。
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