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夫への詫び状
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ルポ・エッセイ
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エピローグ

『夫への詫び状』
[著]金美齢 [発行]PHP研究所


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 夫の肉体は私のもとから消えてしまったけれど、夫の魂は私の心の中に生き続けているのだから、私は悲しくないのだ、と自分にいい聞かせてきた。涙もこらえて、これまでのように仕事をし、旅をしてきた。今までと変わらない忙しさで日が流れていく。

 そんな私だが、ふとしたときに涙が流れて、自分でもとまどってしまうことがある。私は普段はほとんど泣かない人間なのに、日常のふとしたときに、周を思い出しては泣いてしまう。冒頭に書いたように、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で、オルフェウスの物語を見たときがそうだった。

 それから、夏になって、八田與一の生涯を描いた芝居を見たときも、そうだった。八田與一は戦前の台湾で農業近代化に向けたダム建設と水利事業に生涯を尽くした日本人だ。台湾では今も小学校の教科書でたたえられる人物だ。その彼の生涯が、『水のフォルモーサ・台湾』という劇になっている。

 評論家の石垣綾子、画家の栄太郎夫妻をモデルにした地人会の舞台『朝焼けのマンハッタン』を見たときも、私の目から涙があふれて止まらなくなった。

 オルフェとエウリディーチェ、八田夫妻、石垣夫妻、この人たちに自分と周が重なってしまう。台湾、マンハッタン、異国で生きた夫婦に自分たちが重なる。二人で交わした言葉がよみがえってくる。

 いい争った言葉も、励ましてくれた言葉も。

 そして、他の誰も泣いていないようなシーンでもひとりとめどなく涙を流し、こんな姿を誰かに見られたら恥ずかしいと思って、柄にもなくうつむいている。

 私は自立して生きてきた女だ。自由に生きてきた女だ。ずっとそう自負し、誇りにしてきた。だがそれは、周英明という夫に支えられて、夫の愛の中で生きていたのだと、今、しみじみ思う。

 それなのに、夫は死の床で、
「ママ、悪いね」
「ママ、迷惑をかけるね」

 と、私に詫び続けた。

 その声が、よみがえってきて、男ってほんとに悲しいなと、私はいたたまれずに泣くのだ。

 外で働き、一家を支える男が、どれだけ大変な思いをしているか。それなのに家でも妻や家族に気をつかう。自分が病床にいれば、迷惑をかけていると、後ろめたく感じて気にかける。男って哀れだと思わないではいられない。このことを、私も含めて世の中の主婦はもっと謙虚に心得るべきだと思った。

 夫を見送り、あれをしてあげればよかった、これもしてあげればよかったという後悔。夫の惜しみない愛をいっぱいに受けて、私は生きてきた。しかし、彼に惜しみない愛を与えたかと自問自答すると、NOと正直にいわざるを得ない。純愛の二文字にふさわしいのは夫であって私ではない。私は常に自分が最優先であった。それでも私たちは幸せな家庭を築いてきたといえる。それはすべて彼の純愛がもたらしてくれたものである。
「ありがとう。あなたと出会ったから、私たち家族の幸せがあります」
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