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正しく悩むための哲学
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生き方・教養
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文庫化にあたって

『正しく悩むための哲学』
[著]小浜逸郎 [発行]PHP研究所


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 本書のオリジナル版は、一九九五年の四月に発行された。九五年四月といえば、地下鉄サリン事件の一カ月後、オウム真理教(当時)の麻原教祖が逮捕され、日本社会が騒然としていた時期である。この事件が呼び起こした波紋はさまざまなものがあるが、とりわけ私にとって関心があったのは、俗世を捨て「より高い」生き方を求めたはずの頭脳優秀な若者の一部が、いかがわしいカリスマの力に緊縛されて反社会的な組織行動に突っ走ったという事実だった。理念にとりつかれた頭脳が閉鎖的な形で共同化すると、どんなとんでもない殺傷行為でも引き起こし得るという見本を見せつけられて、私は他人事とは思えない苦い気持ちを味わったのを思い出す。自分が青春時代に多少ともかかわった全共闘運動があり、そのなれの果てとして「連合赤軍事件」という陰惨な殺戮劇があったからだ。

 もちろん、本書を執筆したのは、オウム真理教の事件が世間を騒がせる以前のことで、この教団のことなど私はほとんど何も知らなかった。だが本書では、若者の生き方や悩みを主題としているので、自然、青年期特有の宗教的な志向、純粋理念を目指す傾向などにも不十分ながら触れることになり、それが期せずして時代状況的な問題意識と重なり合う部分をもつことになった。

 私の青春時代の「連合赤軍事件」と、五年前の「オウム真理教事件」とは、その主役となった青年たちの心的な傾向において大きな共通点をもつと同時に、七〇年代以前の若者を巡る状況とそれ以降の若者を巡る状況との間の大きな違いを象徴してもいる。何よりも、社会問題としての貧困が解消し、個人生活の自由の幅が拡大したために、それまでのように、社会からの疎外感や欠如感を、マルクス主義のような統一的な社会変革の理想によって乗り越えようとする道がリアリティをなくしたことが大きいだろう。また、かつてのように個人を縛る強い共同体の規範がなくなり、人々は、都市社会の海の中に互いに孤立した無縁な個人どうしとして投げ出されることになった。若者たちは、自由と豊かさを楽しむことができるようになった反面、自我形成のための「反抗」の契機を失った。彼らの多くは、何を生の目的としてよいかわからない永遠の「自分さがし」に追われるような浮遊した意識に支配されるようになった。オウム真理教事件は、そうした自分さがしの意識が迷い込んだ、最悪の、しかし時代状況を最もよく表す事件だったといってよいだろう。

 オウム事件のようなことはそうめったに起きるものではないものの、若者を巡る状況は、五年を経た現在でも基本的には変わっていないと思う。それどころか、学校崩壊現象や、パラサイト・シングル現象、自立できない若者が引き起こす最近の諸事件などをみていると、前記のような現代固有の「青年期問題」はより深化しつつあるといえるのかもしれない。その意味で、今装いを新たにして本書を再度送り出すことに、いささかの意義があるのではないかと考えている。

 本書は、語り下ろしの形を取っているせいもあって、話題があちこちに飛び、文脈も緊密な整合性が保たれているとは言えない。ただ、現代の若者のだれもが直面するにちがいない心の問題を内面と外面の両側に目を配りながら追いかけているので、これからこの文庫版で初めて読む人にとっても、必ずどこかで自分が悩んでいた問題に触れてくるところがあるだろうと思う。

 文庫化に当たって、執筆時との社会情勢のずれを感じさせる部分数カ所を、趣旨を乱さない限りで訂正した。また細かいところで、くどい表現、わかりにくいと思えた表現をいくつか改めたが、大幅に変更したところはない。オウム以降の状況を考えると、宗教的な志向に対する視点がやや甘いと思える反省点もないではないが、その時点における著者自身の感度の限界を今の時点で拭うことも潔しとしないので、原状のままにとどめることにした。

 編集に当たられたPHP研究所の山田雅庸、平賀哲史の両氏に、この場を借りて深く感謝したい。


 二〇〇〇年三月十日
小浜 逸郎 
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