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靖國の精神史 日本人の国家意識と守護神思想
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生き方・教養
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終章 歴史の記憶――その蓄積と再生

『靖國の精神史 日本人の国家意識と守護神思想』
[著]小堀桂一郎 [発行]PHP研究所


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一 「背私向公」と「捨命」の倫理・聖徳太子への追想


「公儀」の担い手交替


 前章の七節にわたる考察を通じて、徳川時代の約二百五十年をかけて次第に熟成して来た我が国の国家意識の在り方の諸相について、通史的に述べてみた。国家意識の熟成の結果、幕末維新期の国民が獲得したのは、その内実を問えば国体論であり、言い換えれば天皇を国民統一の象徴として戴く国体の尊厳への認識なのだが、その外形から定義してみれば、国民が各自の「私」を超えたところに在る「公」を再発見したことだともいえる。


 発見というのは、徳川時代にも、もちろん「私」を超える「公」は存在していたのであって、それは他ならぬ幕府を頂点とする各藩の公権力である。その公権力に対し、当然ながら、それに支配される私人の世界がある。その「公」と「私」の関係について、幸田露伴が面白い注釈を付けてくれているので、ちょっと紹介してみよう。

〈徳川氏強盛の時代は、公儀といふ語が一大(へう)()()であつて、「公儀を畏れざる(いたし)(かた)」といふ一語の前には、如何なる理義も頭を(もた)げ得ることは無かつた。此に対して人民の味方たる標幟語は渡世といふ語で、「渡世の(さまたげ)」などといふ語には、町奉行も深厚の注意を払はぬ訳には行か無かつたので、渡世といふのは猶今日の人権といふが如き威光ある標幟語であつた〉(『修省論』大正三年)


 大政奉還の上奏・勅許と王政復古(付け加えていえば、版籍奉還と廃藩置県の計四段階で復古が完了するのだが)の宣言は、この「公儀」の担い手が幕府から朝廷に移ったことを意味した。幕府の将軍とは、要するに武士階級の総元締というまでであったのに対し、天皇は神武肇国の昔に立ち戻って全国民の代表者であり、国民の統一の象徴であるとの理解が成立したのであるから、明治の民にとっての「公」の意味は徳川時代に比べて飛躍的に高大なものとなった。


 露伴の図式を借りていえば、維新によって新たに成立した「公儀」は、人民の統治者であると同時に、実は人民の「渡世」の庇護者でもあることを誓文を以て宣言されたからである。


 あえて引いておけば御誓文の第三条、〈官武一途庶民に至る迄各其志を遂げ人心をして()まざらしめん事を要す〉との、万民保全の国是宣言である。


 維新の大業とは、こうした一面の捉え方によれば、国家における「公」の性格の復古的変革であった。そう見るのはとにかく是認できるとして、ではその面目を一新した「公」なるものをどのように定義すればよいであろうか。


聖徳太子の「公」の啓示


 日本人に固有の「公」の哲理を言葉を以て最初に説き明している文献は、聖徳太子の「十七条憲法」である。


 日本で初めて国家学の諸原理というべき綱領を、十七条という素数にまとめたゆえに、太子の御著作はこの数をある意味での「聖数」にまで高めることになった。この「いつくしきのり」の全体像については、第三章の第一節に「仏法の渡来と聖徳太子」「憲法十七条制定と法典編纂の推進」の項で説いた。また無数ともいうべき先行の研究文献群の中に本書の著者の何点かもあるので、なおさら一切の言及を省くことにする。ただ本稿の現在の文脈に応じてこの憲法の二つの条文のみにふれておきたい。


 それは第三条と第十五条である。この二条の他にも、第八、第十二、第十三の各条に「公」にふれている文言はあるが、国家学の原理的教条として重要なのはこの二条である。


 初めに第三条を、通行の書き下し文体を以て引いておこう(「日本思想大系」『日本書紀・下』および黒上正一郎著『聖徳太子の信仰思想と日本文化創業』より)

〈三に曰く、詔を(うけたまは)りては必ず謹め。君をば則ち(あめ)とし、(やつこらま)をば則ち(つち)とす。天は覆ひ地は載せて四時(よつのとき)順行し、萬氣(よろづのしるし)通ふこと得。地、天を覆はむと欲するときは、則ち(やぶ)るることを致さむのみ。是を以て、君()たまふことをば(やつこらま)承る。

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