一般の人たちが日々生活していく中で関心を抱いているのは、政治、経済、文化、スポーツの世界における動きである。文化は人間の精神面に焦点を当てた活動であり、スポーツは運動であり、それぞれの好みによって、関心の度合いも異なっている。また、政治は国を治める活動であるが、自分が直接に参加したり即座に影響を被ったりすることの、あまりない分野である。
それらに対して、経済は生活に必要な物やサービスにかかわる活動であるから、自分の生活や人生に切実に関係してくる。いきおい、人々にとって優先順位のトップを占める問題となっている。それは極めて自然な成り行きである。
経済の指標であり単位となり、さらには手段となるのは、「金」である。そこで、皆が金に対して大いなる関心を示し、強い執着を持つようになる。金があれば自分の生活の程度を上げていくことができるので、まず金を手に入れようと懸命になる。一所懸命に努力をするのが続くと、何のために金が必要であったのかという本来の目的を忘れがちになるので、注意を要する。
金は少ないよりも多いほうがよいし、多ければ多いほどよい。しかし、さらに多くを手に入れようとするために、さまざまなものやことを犠牲にしている。健康を害したり人間関係にひびが入ったりと、目指していた豊かな人生にとってマイナスの結果となる危険性もある。
また、金が多くあることを知ると、人々が寄ってきて機嫌を取ったり祭り上げたりもする。すると、つい驕慢に振る舞って、謙虚さを忘れるようになる。「金と塵は積もるほど汚い」といわれている。金が多ければ多いほど人格も汚れてくる危険度が高くなるのである。
欲の最たるものである、金に対する欲を抑えてみる。そうすると、身も心も解放されて軽くなり、フレキシブルに考え行動することができる。周囲の情況や人々の考えていることも、正しく観察し判断するようになる。そうなると、人生にとって大切なものは何か、という点を中心に考える余裕もでてくる。
精神的な豊かさを目指した生き方は、潤いのある人格の醸成へとつながっていく。品格が確立されてくるのである。金に必要以上の執着がないようにと、身を律してみる。金のにおいが薄くなればなるほど、品格あるいき方になっていくはずだ。
本書の企画については、PHP研究所の大久保龍也さんから多大な助力をいただいた。ここに深甚なる感謝の意を表する。
二〇〇六年五月
山

武也