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日本語の「語感」練習帖
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ことばには意味と語感がある――語感とは何か

『日本語の「語感」練習帖』
[著]中村明 [発行]PHP研究所


読了目安時間:4分
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 親しい友人や知人との対話、仕事での上司や先輩、同僚、取引先とのやりとり、世話になっている人や近隣の住人への心づかいを示す場面でもいい。人とコミュニケーションするときに痛切に感じるのは、「他人は自分ではない」という当たり前の事実だ。ことばを伝える側とそれを受けとる側とが別の人間だということをうっかり忘れるところから、思わぬ誤解が生じ、円滑なコミュニケーションがさまたげられる。

 コミュニケーションの手段として、言語表現はけっして万全ではない。ことばを正しく伝えるためには、その時どきの場面に応じた相手の気持ちや状況を察し、受け手が解釈できる範囲内で意味を調整する必要がある。

 つまり、ことばが通じるのは、受けとる側の人間がそれを手がかりにして、相手の表現しようとしている意図をくみとろうとするからだ。相手が理解しようとしてくれて、表現ははじめて通じる。その意味でコミュニケーションは送り手と受け手との共同作業なのである。

 コミュニケーションでは、さまざまなシーンで相手が何を表現しようとしているのかをとらえ、それに的確に対応することが必要だ。そのためには、日本語の使い方に関する基礎知識を思い返し、それを有効に働かせることである。

 人はものごとを伝えようとするとき、二つの方向から最適のことばを選び出す。一つは「何を伝えるか」という意味内容で、もう一つは「それをどんな感じで相手に届けるか」という表現方法である。これは芸術における素材と手法の関係に似ている。

 たとえば「寄付」「寄贈」「寄進」「喜捨」「献金」「醵金(きよきん)」「義援金」「寄付金」ということばは、金品を贈ったり集めたりする点では共通する。だが、それぞれの語の示す対象や範囲には、ずれがある。「時間」と「時刻」、「触れる」と「さわる」、「疲れる」と「くたびれる」、「美しい」と「きれい」のような似た意味のことばでも、ニュアンスは微妙に異なり、用法にも違いがある。

 一方、「ふたご」と「双生児」、「あした」と「あす」と「明日(みようにち)」などには、はっきりとした意味の差はほとんどない。だが、場面や状況によって、それぞれに適不適があり、感じの違いもある。

 日本人は意味の微妙な差だけでなく、微細な感覚の違いによることばの使い分けにも細かく神経をつかってきた。この二つのうち前者を「意味」、後者を「語感」と呼ぶ。
「意味」は、「その語が何をさし示すか」という論理的な情報を伝えるハードの面で働き、「語感」は「その語が相手にどういう感触、印象、雰囲気を与えるか」という心理的な情報にかかわるソフトの面で働く。ハード面を中心的な意味、ソフト面を周辺的な意味と呼ぶこともある。

 伝えたい内容を相手に送り届けるため、人は誰しも無意識のうちに、このハードとソフトの両面からことばを選んで話したり書いたりしている。

 言語感覚の鋭い人は、このハードとソフトの両面から、早く適切な語を選び出す。「何をさすか」という点で微妙な差のあることばから、この場合に妥当なものをいくつか取り出しつつ、それらのニュアンスの微妙な違いを読み取り、相手や場面、その他の条件に合ったもっともふさわしい一語を選んで、ぴたりと当てはめるのである。

 話をしていて相手に真っ先に伝わるのは、ことばの意味よりも、むしろ、ことばの奥にある調子であるという。人は何よりもまず、相手が語ることばのリズムやテンポ、音の強弱といった、ある種の調子を感じとる。相手の心に強く響くのは、ことばの背後に流れるそういう音楽であり、その音楽の底を流れる情熱であり、情熱の奥に息づく人間そのものなのだと、かのニーチェは考えたようだ。

 この“ことばのある種の調子”には、「語感」という言語の感性的側面も含まれる。話している相手には、ことばの意味だけでなく、ことばのリズムや微妙なニュアンスを伝えようとする自分自身も、同時に伝わる。どのようなことばを選んで表現するか、そこにセンスや教養、趣味、性格、態度、考え方といった、その人のすべてが反映する。
「語感」という表現の感性的な面を意識し、その微妙なニュアンスを感じとるセンスを()ぎ澄ますことは、自分自身をよりよく表現することにつながるのである。
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