『仕事が変わる!「アゲる」質問(きずな出版)』
[著]板越正彦
[発行]PHP研究所
最高の手法は
「アゲる質問×コーチング」である
私はいままで、「うちの部下は、どうも自分から積極的に動いてくれない」と嘆いている大勢の上司の方々にお会いしてきました。
そんな話を聞いていて、いつも思うのは、「動いてくれない」のではなく、「部下が動かないようにしている(部下が動きたくても動けない)」のではないかな、ということです。
どの上司も、何とか部下に仕事を進めてほしくてアドバイスしたり、進捗状況を尋ねたり、褒めたくないのに褒めたり、モチベーションを上げたり……あらゆる努力をされているでしょう。部下の指導法の本を一生懸命探して読んだり、セミナーに通っている方も多数いると思います。
それでも、部下はなかなか思うように動いてくれない。
そこで必要なのが「コーチング」です。
コーチングとは“相手に問いかけることで、答えを自分で気づいてもらう”育成方法です。ただし、その質問の仕方は簡単ではありません。相手にまったく響かないこともあれば、かえって相手を追い詰めることもあります。
私は長年のコーチング経験を通して、なぜこのようなことになるのか考えてきました。
そのなかで“質問の仕方”こそが最大の問題なのだと思い至ったのです。
そこで、誰でもどんな場面でも使えるような方法として考えたのが、
「アゲる質問×コーチング」
です。
「アゲる質問」とは、仕事の生産性を上げ、スピードを上げ、やる気やモチベーションを上げる、画期的な質問法です。
詳細は4章でご紹介しますが、5つの質問の仕方さえ身につければ、これまで動かなかった部下を動かせるようになるでしょう。
5つの質問を身につける前に知っていただきたいのは、質問には「アゲる質問」と「サゲる質問」があるということです。
たとえば部下が、明日必要な会議の資料ができていないのに、急ぐ必要がない出張の報告書をつくっていたとします。あなたは部下にどう伝えますか?
①「報告書なんて後でいいから先に会議の資料つくれよ。そんなこともわからないの?」
②「なんで報告書を先にやるのかな? 会議の資料を先につくったほうが、いいんじゃないの?」
③「いま一番チームに貢献できる作業はどれだと思う?」
①は問題外です。部下にパワハラ認定されるかもしれません。さすがに最近は、こういうタイプは少なくなっているのではないでしょうか。
②は一見問題はなさそうですが、典型的な「サゲる質問」です。「サゲる質問」は、相手の生産性を下げ、モチベーションを下げ、仕事のクオリティも下げる……マイナスにばかり作用する質問を意味します。
最近は、部下を頭ごなしに怒ってはいけないと言われるようになり、相手に問いかけてコミュニケーションを取るというコーチングの手法が浸透してきました。
しかし、多くの人はこのようなサゲる質問を使って問いかけています。質問形式になっているけれども、否定と批判が透けて見えますよね。しかも上司が答えを与えてしまっている。「なんちゃってコーチング」でありがちなケースです。
③が「アゲる質問」です。
上司から答えを示さずに部下に考えさせる。これが重要なのです。自分で考えて自分で行動を起こそうと思わない限り、生産性は上げられません。
さらに、「貢献できる」というポジティブな表現を使うことで、否定的なニュアンスを排することができます。
これを、「いま、一番チームが必要としている作業はどれ?」という表現にすると、押しつけがましい感じがしてしまいます。
ちょっとした表現を変えるだけで、部下を動かす力のある質問にできるのです。
これからの上司の役割は、仕事の生産性を高めるため、部下に意図的に効果的な質問を投げかけること。それさえすれば、最速で成果を得られます。
POINT
質問には「アゲる質問」と「サゲる質問」がある
私たちは、気づかないうちに
「サゲる質問」を使っている
「質問なら、自分も部下に対していつも投げかけている」
そう思う方も多いでしょう。けれども、それはたいてい「サゲる質問」になっています。
「なんで失敗したの?」
「そんなこともわからないの?」
このように、自分でも気づかないうちに「サゲる質問」を投げかけて、部下のやる気をザクザクと削ってしまうのです。
「サゲる質問」には特徴があります。
相手を責めているつもりはなくても、相手に「怒られている」「批判されている」「見下されている」と感じさせてしまうということです。
いまの若手リーダーは、私たちの世代とは違って、優しくて相手の気持ちを考えられる人が大半です。
相手の気持ちを知ろうとするあまり、やってしまっているのが「サゲる質問」です。
詳しく事情を聞こうと、
「どうして、そんなことをしたの?」
「それでいいと思っているの?」
と、次々質問を投げかけていると、相手は悪いことをして尋問を受けているような気分になります。そうなったら部下は萎縮して、自主的に行動しなくなるでしょう。
本当は、ここで質問の仕方をちょっと変えるだけで、やる気もモチベーションもアゲることができるのです。
それだけで部下が自発的に動くようになるなんて、信じられないでしょう。
しかし、インテル時代に誰よりも部下に「サゲる質問」ばかりしていた私が、チームの生産性を劇的に上げられるようになったのは「アゲる質問」のおかげです。
生産性を上げるために最新式のシステムを導入したり、会議の時間を減らしたり、さまざまな改革を試みている企業は多くあります。
それらの改革も大事ですが、それ以前に「アゲる質問」によるコーチングをするだけで生産性が上がるのだと、知っていただきたいと思います。
私は、これからの時代は「母親型リーダー」が求められると思っています。
私がインテル時代にやっていたのは「父親型リーダー」です。常に部下を引っ張って、自分の背中を見せればついてくるものだと思っていました。