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(2021/11/26 追記)

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お母さんの目からウロコが落ちる本
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くらし
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第3章 赤ちゃんから幼児さんへ

『お母さんの目からウロコが落ちる本』
[著]頼藤和寛 [発行]PHP研究所


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胎教の嘘ほんと


 妊娠というのは待望されたものもあれば、たまたまのものもあり、望まれぬものだってある、というのはご存じの通り。“ようやくできた授かりもの”から“できちゃったものはしかたがない”まで。しかし、どの場合であっても、いざ生むとなれば、できるだけ上物に育てたいというのが、古今東西を通じて共通した親の思いでしょう。とくに、平成年間ともなれば、数少ない子どもを是が非でも立派に仕上げたいはず。

 そこで最初にやることが、いわゆる“胎教”というやつです。

 いやもう、いろんなことがいわれています。「優しく語りかけましょう」だの、「聞かせる音楽はモーツァルトにかぎる」だの。そこで、よいとされているものならなんでもやろうってわけで、(いぬ)の日にもらった腹帯をして、そこにCDやMDプレーヤーかなんかを押しつけてアイネ・クライネ・ナハトムジークを鳴らし、まだ男の子か女の子かもわからないうちから「坊や、坊や」と独り言をつぶやき、育児書を読みながら、最近はあまり見かけませんが、産着やオムツを縫ったりする。もちろん、子どもに聞かせられないというので夫婦げんかを休戦し、リラックスして楽しいことばかりを考えるように努力します。もう、こうなると執念というか狂気の沙汰(さた)というか。

 では、実際にどれほど効くのかというと、これが案外科学的には確かめられていないのです。

 百人ほどの妊娠中の母親を、胎教に熱心な人と胎教などには無関心な人に二分するとします。そして、生まれた子どもを十五年とか二十年追跡調査すれば、胎教の効果がわかりそうなものです。たぶん、胎教熱心派から生まれた子どものほうがうまく育って、よい高校や大学にすすんでいる確率が高いという結果が出るでしょう。「ああ、やっぱり胎教って効くんだなあ」と思われるかもしれませんが、おあいにくさま。それは胎教が効いているんじゃなくって、胎教に熱心になるほど育児意識の高い母親や、そうした彼女たちに選ばれるほどの父親からの遺伝が効いているだけなのかもしれません。それに、胎教に熱心な親なら、子どもが生まれてからも十年、二十年とさまざまな育児・教育上の配慮を重ねていくでしょうから、それが効いているのかもしれないでしょ。

 胎教に類したことで科学的に確認されていることといえば、妊娠初期はとくにウイルス感染を避けること、それに大きいストレスを受けないことぐらいです。ウイルスといえば風疹(ふうしん)がその代表格ですが、それ以外のウイルスなら安全という保証はありません。妊娠初期のウイルス感染によって、神経障害や奇形の発生頻度は高くなります。

 これ以外にも、こうしたら秀才になるとか、美人になるとかの決め手はないのです。

 胎教だけで立派な子どもができるわけではありませんが、少なくともしないよりはしたほうがマシということはあるかもしれません。ともあれ、あまり大きな期待を抱かず、よいとされていることは一応してあげて、誕生という審判の日を待ちましょう。もし、あなたのくじ運が強ければ、上玉を授かることになるでしょう。

最初が肝心?


 ある本によると、母親は普通の生活を続け、産気づいたときにその場で()つん()いになって産み落とし、すぐにへその緒をひねって、そのあとは赤ん坊を抱いたまま後産もすませ、しかるのちも密着して育てればよいといったふうに書かれています。アフリカの奥地ではそうしている部族があり、そうした母親は子どもの空腹や排泄(はいせつ)の気配や気持ちが手に取るようにわかるといいます。また、子どもの情緒も安定して育つらしい。

 つまり、「自然に戻れ」とか「原点に帰れ」という発想であって、人間ってのは本来そうしたものなんだ、それが正しいんだというわけです。しかし、それならどうして密林の奥地からつぎつぎと天才や偉人や聖人が輩出されないのか、乳幼児死亡率が世界最低にならないのかが、ふにおちません。

 確かに、現代の衛生的な産科病院などで出産すると、砕石位という、もともと膀胱(ぼうこう)結石の手術のための姿勢なんですが、あおむけになって両足を広げた不自然な格好を取らされます。これがきばりにくいので、介助者がひきずり出すようにして赤ちゃんが生まれる。で、生まれてすぐにチラッと顔を見せてくれたと思ったら、すぐどこかへ連れていって産湯につけたり体重を計ったりしたのちに、新生児室へ運ばれていってしまうことがほとんどです。そして、時間になると看護婦さんが抱いてきて、母親はようやくわが手で授乳させることができます。それでも飲ませおわったら、再び赤ちゃんは別室に。人生最初の母子関係からして、すでにスケジュール管理されているのです。これは非常に不自然なんだけど、産褥熱(さんじよくねつ)は絶滅に近いし、乳児死亡率も激減しました。それになにより、母親がラクチンです。

 これではならじと、一部の産科医や助産婦さんが、できるだけ自然な姿勢で生ませ、そのあともずっと母子密着を許し、授乳も自由にさせようという運動を始めています。水中に産み落とすのが理想的とか、握り棒をつかんでしゃがむといきみやすいとか、まあいろいろ工夫されている。しかし、そうした自然分娩法で産んだ子どもがぞくぞくと優秀健康に育つかというと、そんなデータはないといっても過言ではありません。同様に、人為のかぎりをつくした帝王切開の子どもがみんなダメかというと、そんなこともない。

 母乳についても、もうその優位は確立されたも同然ですが、人工乳で育つと失敗するのでしょうか。

 小児心身科の生野照子先生に聞いたお話なのですが、先生は三人のお子さんを、たまたま、一人は母乳オンリー、一人は混合、一人は粉ミルクのみで育てられたそうです。やはり、母乳の子はほとんど病気らしい病気もせず、人工乳の子は病気の問屋みたいになったらしい。「ああ、やっぱりねえ」と納得するのはまだ早い。思春期ぐらいになると、三人とも発達具合も健康状態もあまり変わらなくなったのです。

 それどころか、小児期に病気ばかりしていた子どものほうが“病抜(やまいぬ)け”したのか、一番の元気者になってしまったそうです。こういうことは、さして珍しいことではありません。発達期のあいだは育て方や栄養面のちがいが子どもを左右することはあっても、成長の到達点ではその子の持って生まれた設計図通りに仕上がることが多いのです。一卵性双生児の片方だけ五歳ぐらいから自転車の練習をさせると、明らかにもう片方より自転車の乗り方が上達します。でも十五歳になった時点で比べれば、両者に上手下手はなくなっている。ま、そうしたもんです。

 知能や性格の一部も、子ども時代より青年期のほうが親に似てくるという追跡研究もちらほら見受けます。途中経過がどうであれ、行き着く先は“本来の姿”かもしれません。

 これまで、「最初の扱いかたで一生が決まる」といわれすぎたのです。長い一生、なにもかもが三歳までに決まってたまるもんですか。

それぞれのあたりまえの世界


 子どもは、この世のことをなにも知らずに生まれてきます。ですから、人生の最初に見聞した世界を当然のように受け入れます。つまり、生まれ落ちた家庭や環境をあたりまえのものと受け取るのです。

 仲良し夫婦のもとに生まれた子どもは、世界中の両親がけんかするところなど想像もつかないし、夫婦げんかが毎日続く家庭に生まれた子どもはヨソの家で「今日はまだ、おじちゃんとおばちゃんはつかみあいを始めないの?」なんて尋ねたりする。これはある意味で非常におそろしいことなんだけど、場合によっては救いでもあるんですね。

 たとえば、親から虐待を受けている子どもがいるとしましょう。その子の毎日は地獄みたいなもので、殴られる蹴られる投げられる叩きつけられる、熱い風呂につけられる、タバコの火を押しつけられるなど、まるで拷問室みたいな家庭で暮らしているのです。しかし、その子に「昨日はどんなことがあったの」と尋ねると、「お母さんと買い物に行って、キャンデーを買ってもらった」なんていう。それは無理もないことで、その子にすれば叩かれたり蹴られたりは日常茶飯事、わざわざ報告したり記憶したりする必要がない。ちょうど普通の家庭の子どもに「昨日どんなことがあったの」と聞いても、「朝ごはんを食べました」とは答えないのと一緒です。そんなの当然のことだから印象が薄いわけ。かえって、(ちよう)よ花よと育てられている子どものほうが、「昨日は、ボクが呼んでもママはすぐ飛んできてくれなかった」なんて、不人情な出来事を印象に残すわけです。
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