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帝国の終焉
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政治・社会
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第三章 なぜアメリカの戦略的立場が急転回したのか

『帝国の終焉』
[著]日高義樹 [発行]PHP研究所


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第一部 十年前には中国と戦う戦略も存在した


 アメリカの国防費が急速に削減されることになり、国防政策の総責任者であるパネッタ国防長官が、このままでは訓練の費用にも事欠き、アメリカ軍が空洞化してしまうと心配し始めている。なぜこのような状態になったのか、ここ十年のアメリカの国防戦略を振り返ってみる必要がある。

 パネッタ国防長官の前任者で、冷戦時代の生き残りといわれてきたゲイツ前国防長官が二〇一一年夏、日本を訪問したあと、記者団にこう語った。
「いまや海兵隊が上陸用舟艇で敵前上陸を行う時代は終わった」

 つまり、これまでの戦争のやり方を変えなければならないと述べたのだが、実際は「冷戦時代とは違い、世界中にはアメリカ軍が強大な兵力をもって敵前上陸を行い戦争する相手はいない」と言ったのである。

 もちろんこの頃すでに財政赤字は政治問題化し、いつ爆発するか危険な状態になっていた。だがゲイツ前国防長官がアメリカの軍事専門誌などに述べていることなどから推察すれば、彼は国防に長く携わった経験豊かな国防専門家として、世界と戦争の変化を指摘していることは明らかである。

 戦争では、勝った側が戦争のやり方や思考様式を捨てることができず、そのまま持ち続けるといわれるが、冷戦に勝ったレーガン大統領のあと、二人のブッシュ大統領とクリントン大統領は、基本的に冷戦思考を持ち続けていた。

 その最も典型的だったのが、第四三代のブッシュ大統領である。「9・11」でアルカイダの攻撃を受けたあと、アフガニスタン、続いてイラクに攻め込み、全面的な戦争態勢に入った。長距離爆撃機やミサイルを使い、機動艦隊や大規模な戦車部隊がイラクに進撃した。

 この頃私は、ホワイトハウスに多くの友人がいたので、しばしば大統領のオフィスやエグゼクティブ・ビルディングに出入りしていたが、ホワイトハウスの雰囲気は戦争一色だった。

 実際に戦争を取り仕切っていたのはチェイニー副大統領で、その補佐役はカール・ローブ特別顧問だが、軍事を取り仕切ったのは、いまハドソン研究所で付き合いが続いているリビー補佐官だった。国防総省からはフェイス国防次官がやってきていた。戦略体制全体を見ていたのが、のちにディフェンス・カウンシルと呼ばれる、アメリカ議会およびホワイトハウスの政策グループの責任者、ジェームズ・シュレジンジャー元国防長官だった。

 この人々の話として私の耳に入ってきたのは、アフガニスタンとイラクでアルカイダと戦ったあとはイランを占領するという計画だった。この動きについてはキッシンジャー博士らが反対していたが、チェイニー副大統領に近かったリチャード・パール国防次官補は、「イラクの次は北朝鮮だ」と、はっきりと私に述べた。
「チェイニー副大統領をはじめ強硬派は、最後は中国との対決にならざるを得ないと考えている」

 ワシントンの保守的なジャーナリストや学者たちはこう言っていた。このように二〇〇三年、アメリカ軍がイラクに攻め込んだ時には、アメリカの世界戦略ははっきりと確立していた。

 この情勢が変わったのは、二〇〇八年の大統領選挙の時である。民主党候補のオバマ大統領は、イラク戦争をやめることを選挙公約に掲げ、共和党のマケイン大統領候補も、イラク戦争になるべく早く勝ち、中東の戦争を拡大するべきではないという立場を表明していた。

 二〇〇八年の大統領選挙では、ウォール街の混乱をいかに治めるかという問題が両党の党大会のあと急速に浮かびあがってきたが、ブッシュの始めた戦争をどう始末するかということがもう一つの大きな問題だったのである。

 オバマ大統領が選挙に勝つと、アメリカのマスコミは「ブッシュ大統領は戦争ばかりした」と非難し始め、テロリストに対する戦いの英雄だったブッシュ大統領は、いつの間にか悪者になってしまった。後世、アメリカの歴史を見る人は、二〇〇八年の大統領選挙によって、冷戦体制の勝者だったアメリカが大きく変わったと考えるに違いない。詳しく立ち入る余裕がないが、アメリカの人々は、冷戦に勝ったからといって、アメリカだけがいつまでも世界の警察官として責任を持つことはない、アメリカだけで戦う必要はないと思い始めていたのである。

 このことを察知し、政治の基本にしたのがオバマ大統領である。戦いはテロリストとの戦争だけに絞り込み、アメリカ国民、とくに貧しい人々の面倒を政府が見るという、社会主義的な福祉政策に力を入れるようになった。これがその後、全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長をはじめ、財界人や保守派の人々が強く非難する、オバマ大統領の大きな政府づくりになっていった。

 こうしたオバマ大統領の動きは、旧来の指導者層からも次第に支持されるようになった。二〇一一年十二月に行ったインタビューの中で、アメリカ一の戦略家といわれるキッシンジャー博士がこう言っている。
「アメリカが世界のGDPの大半をつくりだしていた時代には、アメリカが世界の警察官として世界の悪者と戦わねばならなかった。しかし、いまやドイツや日本も経済的に豊かになった。アメリカだけが軍事的責任を負う時代ではなくなった」

 オバマ大統領は、こうしたキッシンジャー博士の考え方を政治に取り入れて、強力に推し進めた。
「アメリカはもはや世界に対して軍事的責任を持つ必要はない。アメリカの人々をまず助けるべきだ」

 この考えに基づいてオバマ大統領は、冷戦時代にはなかった社会主義的な政治を進めている。

 あとの章で詳しく述べるが、アメリカはもともと移民の国である。様々な国から様々な考え方をする人々がやってきた。国家形態も合衆国、ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカという名にも表れているように、州の力がきわめて強い。そうしたばらばらな国民が一致団結するのは、アメリカが自由、平等という理想のもとに、外の敵と戦う時であった。

 アメリカの人々は、一致団結して第二次大戦を戦い、その後はソビエトを相手に再び一致団結して冷戦を戦った。その戦いにも勝ち、ブッシュ大統領のもとでイラクとの戦争に突入したが、すでに述べたように、やがて「なぜアメリカだけが戦っているのか」と思うようになっていった。

 オバマ大統領が「戦争よりも貧しい人々を助けるほうが大切だ」という政治を主張するようになると、大勢の国民がその考えを支持するようになり、アメリカを一つにまとめていたタガが外れてしまった。人々の国防に対する関心が低くなり、軍事力がなおざりにされるようになって、パネッタ国防長官が指摘するように、アメリカ軍の空洞化が懸念されるような事態になっているのである。

 オバマ大統領のもとで、アメリカの国防戦略は混乱したままである。財政赤字で軍事予算が大幅に削減されれば、アメリカ軍が太平洋、さらには中東から追い出される危険が現実になる。

 二〇一一年十二月末、アメリカ軍がイラクから撤退した。オバマ大統領はアメリカ陸軍のフォートブラッグ基地で、「私は公約を守った」と胸を張って述べたが、アメリカの人々の多くは釈然としない思いを抱いたままである。

 アメリカはいま軍事的に見ると、きわめて危険な状況に陥っている。これまでアメリカの力に頼ってきた国々の安全が脅かされそうになっている。さらに危険なのは、アメリカ人の多くがオバマ大統領と同じように「アメリカの役割は終わった」と考えていることである。

 再度の引用になるが、戦略問題の大家といわれてきたキッシンジャー博士がこう言っている。
「アメリカの国防費が削減されて、軍事力が縮小されたとしても、同盟国が協力してくれれば安全は守られる」

 キッシンジャー博士のような専門家までがこう言うようになっているのは、冷戦が終わり、アメリカがひとり勝ちという世界情勢のなかでは、安全保障上、危険な問題は起きないと考えているからである。

 こうした考えの延長線上として捉えれば、アメリカが北朝鮮の核装備や、中国の領土的野心に危機意識を持たず、アメリカの力で解決しようとは考えていないことも理解できる。キッシンジャー博士の指摘は現在の世界の現実であり、アメリカの基本的な考え方になっている。
「世界のことよりもアメリカの貧しい人々の問題のほうが重要だ」というオバマ大統領の政治が続くかぎり、アメリカはますます内向きになり、世界の安全保障も日本も忘れ去られていく。
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