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帝国の終焉
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政治・社会
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第六章 キッシンジャー博士との対話から

『帝国の終焉』
[著]日高義樹 [発行]PHP研究所


読了目安時間:38分
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第一部 アメリカ人はいつまで楽観的でいられるか


 二〇一一年十二月十四日、私はワシントンのI通りにあるモービルビデオのスタジオで、下院共和党院内総務のケビン・マッカーシー議員が現れるのを待っていた。マッカーシー議員は、アメリカの予算を決める下院の実力者である。私のテレビ番組のためにインタビューを受けることになっていたのだが、約束時間の午後五時前、「議会がもめているので、あと一、二時間かかる」と連絡してきた。

 アメリカ議会はクリスマス前の最終日程に入り、所得に対する特別減税措置を延期するかどうかで与野党の意見が分かれて、審議が長引いていたのである。約束より三時間半ほど遅れ、午後八時半になってようやく議場から解放されたマッカーシー議員が秘書と一緒にスタジオに走り込んできた。

 連日議会に缶詰め状態で、夜遅くまで予算審議を続けてきたのだから、さぞかし疲れているかと思いきや、いつものように元気いっぱいで若々しく、顔色も良かった。すぐインタビューを始めて、アメリカの財政赤字や国防費の削減、海外駐留問題などについて聞いたが、アメリカ人にとって気の滅入るような話題にもかかわらず、マッカーシー議員の態度は驚くほど楽観的だった。

 あとになって、マッカーシー議員はなぜあれほど明るいのだろうかと考えてみた。彼はカリフォルニア南部のカーン郡の出身である。十九歳の時、デリカテッセンのチェーン店をつくり、選挙資金を手にすると政界に入った。つまり自分の努力でやりたいことをやってきている。アメリカン・ドリームを実現したわけだが、彼が明るいのは、彼の家族が可能性の土地と呼ばれたカリフォルニアに四世代にわたって住んでいることと無関係ではないだろう。

 カリフォルニアには変化に富む広大な土地がある。石油や天然ガスなど資源に恵まれている。そのうえ天候が良いので豊かな農業がある。メキシコだけでなくアジアからも大勢の移民が入り込んできている。こうしたカリフォルニアとマッカーシー議員が象徴している楽観的で開放的な考え方が、これまでアメリカのバックボーンになってきた。だがマイナスの現実が広がっているなかで、アメリカ人はこの楽観性をいつまで持ちこたえることができるだろうか。

 すでに述べたように、アメリカではいま中産階級が消滅しつつあるといわれている。アメリカの雑誌『アトランティック』が二〇一一年九月号に「アメリカの中産階級は生き残れるか」という特集を掲載したが、それによるとオバマ政権の三年間、二〇〇九年の十一月から二〇一一年五月までに、年間所得が九万ドル以上のアメリカの人々の消費は一六パーセント拡大しており、二〇〇八年のバブル崩壊以降、三年で経済状態を回復した。一方、中流階級と見なされる、所得が五万ドルから八万ドルの家族は、同じ期間に資産の二三パーセントを失った。
『アトランティック』が引用した様々なアメリカの世論調査の結果を総合すると、アメリカの豊かな人々、とくに経営者クラスや高度な技術を持った人々の収入はほとんど減っていない。所得が二、三万ドル程度の単純労働者の生活も変わっていない。バブル崩壊と経済の低迷で最も大きな影響を受けているのは、その中間の階級の人々で、ホワイトカラーの人々や、専門技術を持つブルーカラーの人々である。そういった人々の生活が悪化してしまった。

 この三十年間、アメリカの産業は製造業だけでなく、サービス業も打撃を受けて、賃金も下がっている。こうしたデータから見るかぎり、アメリカでは急速に中流階級が減少している。
『アトランティック』は特集のなかで、「アメリカ国民はいま何を考えているか」という記事を載せたが、そのなかで六四パーセントのアメリカ人が、「親が同じ年齢だった時代と比べると、生活が苦しくなっている」と答えている。また、「将来について自信があるか」という質問に対しては、あらゆる職種を通じてほぼ三分の一が「自信がない」と答え、ほぼ五分の一が「自信がある」と答えている。また半分近くの人々が、消費を差し控え、仕事を変えずに同じ会社に留まりたいと考えている。この数字はアメリカ人が保守的になりつつあることを示している。

 自分の家を持つことは、いわゆるアメリカン・ドリームの一つだが、七三パーセントの人が依然として、「家を持つことがアメリカ人の夢である」と考えている。また六一パーセントの人が仕事を増やすために、政府がさらに大きな役割を果たすことを望み、四〇パーセントが、将来のことを考えて教育に力を入れたいと考えている。なかでも注目されるのは、アメリカ人の三分の二、六九パーセントの人が、アメリカのモノづくり産業は世界のトップであり続ける、と楽観的な予測をしていることである。この数字は、日本人などと比べて、アメリカ人が基本的に楽観的であることを示している。

 数字は社会を浮き彫りにするが、ここで様々な経済のデータを見てみたい。二〇〇〇年と〇八年を比較した数字である。

 アメリカの農作物の中心になるトウモロコシの値段は、二〇〇〇年、一ブッシェルあたり一ドル八九セントだったが、〇八年には四ドル八一セントまで値上がりした。

 アメリカ人のクレジットカードの借金は、二〇〇〇年の六八三七億ドルから九六五六億ドルと、三〇パーセント近く増えている。

 国民総生産における連邦赤字の比率は、二〇〇〇年の五八パーセントから、その後八年間で六七・五パーセントと一〇パーセント近く高くなった。

 製造業で働く労働者の伸びは、二〇〇〇年にはプラス二・九パーセントであったのが、八年後の〇八年にはマイナス二二・二パーセントになっている。

 貯蓄は二〇〇〇年、実質的な収入の二・三パーセントあったのが、〇・六パーセントに減っている。貧困と呼ばれる人々は、二〇〇〇年、三一〇〇万人だったのが、三七〇〇万人に増えた。

 住宅を持っている人の比率は、二〇〇〇年第2四半期に六七・二パーセントであったのが、〇八年第2四半期には六八・一パーセントと一パーセント増えただけである。

 不法移民の数は、二〇〇〇年、八四〇万人であったのが、一一九〇万人に増えた。

 石油の消費はほとんど変わっておらず、アメリカ国内での消費量は一日、一九七〇万バレルであったのが、一九五〇万バレルになっただけである。

 犯罪の数は、一〇万人あたり、二〇〇〇年、五〇六・五であったのが、四六六・九に減っている。

 以上のようなデータを見ると、アメリカの人々は保守的になりつつあり、消費を含めて大きな動きをしていない。現状維持である。

 アメリカで中産階級が急激に減っている理由は、歴代のアメリカ政権が将来を見据えた産業政策を立ててこなかったことと、ウォール街を中心として「お金でお金を儲ける」産業が度を超して拡大したことである。オバマ大統領がホワイトハウスに入るやいなや、莫大な公的資金を投じてウォール街を援助したのは、ウォール街がアメリカの基幹産業になっているからである。
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