科学が怖くなったのは、いつからでしょうか。
小学生の頃、子供部屋のふとんの中で、天井の木目を見ながら、「宇宙には地球と同じ惑星があって、そこには自分と同じ人間がいるのかな?」と想像をふくらませていて、急に怖くなった覚えがあります。
中学生の頃、チャップリンの『モダンタイムス』を見ていたら、機械化された世界で、人間がベルトコンベヤーに追いつかなくて大騒ぎになったり、無理矢理、歯磨きをさせられたりして、大笑いしつつも「なんだか人間が科学技術に負けてて怖いなぁ」と感じた覚えがあります。
そんな怖さのルーツは、科学史をひもとくとわかってくるかもしれません。ガリレオと同じ時代を生きたジョルダーノ・ブルーノは、「宇宙には地球みたいな天体が無数にある」と主張して、異端審問にかけられ、火あぶりの刑に処せられました。
産業革命の直後、工場での過酷な労働条件に抗議し、機械を打ち壊す「ラダイト運動」が起きました。この運動の背景は複雑ですが、そこに科学技術に対する「素朴な怖さ」もしくは「嫌悪感」があったことはたしかでしょう。
私は常日頃、科学や技術の便利さやワクワクドキドキ感を伝える仕事をしていますが、もちろん、科学技術が「諸刃の剣」であることも自覚しています。飛行機は便利ですが墜落したら大惨事になります。情報化社会にパソコンやスマートフォンは必須ですが、気がつくと高い料金を払わされたり、目が疲れ、夜もよく眠れなくなったりします。原子力発電で安い電力を使い続けてきた日本は、福島第一原子力発電所の事故を機に、原子力の見直しを始めています。
この本では、そんな科学の「裏の顔」に焦点をあて、何が怖いのか、どうして怖いのかを、様々なトピックスを通じて考えます。もちろん、怖さには個人差がありますから、「こんなの怖くないや」あるいは「他にもっと怖いことがあるゾ」という読者もいるかもしれません。あくまでも私の感じ方の基準で怖い科学を集めてきたものですので、興味がもてないトピックスは、読み飛ばしてくださって結構です。
科学の裏の顔を知ったうえで、いま一度、科学について深く考えてもらいたい。そんな思いでこの本を書きました。
おっと、ちょいと小難しい話になりすぎましたね。反省、反省。まずは、しちめんどくさい理屈は抜きにして、お化け屋敷に行ったり、ホラー小説を読むような感覚で、科学の怖さに触れてみてください。
それではいざ、こわーい科学の世界へ突入!
二〇一二年 雛祭りに
竹内薫