本書のゲラを読んでくれた妻が「怖いのもあるけど、怖くないのもある」と感想を洩らしました。たしかに、「怖さ」は個人的なものです。妻が出してきた例では、「中国で、半身麻痺の女性の脳から体長二三センチメートルの寄生虫が発見される」というニュースが怖いそうです。寄生虫(線虫)は、自分が居心地よくなるために、周囲を肉腫にしてしまうのだとか(要するに「寝床」をつくっていたんですね)。
また、ツイッターで怖い科学の例を募ったところ、「自分のクローンに人体実験」「iPS細胞の研究」「遺伝子組み換え」「この宇宙が誰かの創作物である可能性」「(科学者が)神になれると思うこと」「脳をいじくる研究」「意識の視覚化」「中性子爆弾」「遠隔操作無人戦闘機」……といったつぶやきをいただきました。やはり、怖さにもいろいろあるようです(フォロワーのみなさん、ありがとうございました)。
私は学校の生物の時間の解剖が怖かったのですが、ある生物学者によれば、あれほど「美しい」ものはないのだそうです。人間の遺体をプラスチック化して展示する、なんていうのも、美術なのか、医学なのか……考えようによっては、怖いともいえます。
私の友人の生物学者は、動物の脳のどこが反応しているかを知るために、その動物を殺して、脳を薄くスライスして、顕微鏡で覗いています。私はその行為が怖くて仕方ないのです。彼と酒を呑んでいて、気がついたら拘束されて、頭蓋骨を切られて、「君の脳を美しくスライスしてあげるよ……」。いや、妄想が過ぎました。
本書を書き上げて、なんとなく、科学の怖い側面がわかってきた気がしています。同時に、「もっと怖い科学があるのではないか?」と、今回のセレクションに飽き足りない自分がいるのも事実です。
最後になりますが、本書の企画から出版まで面倒をみてくれたPHPエディターズ・グループの田畑博文さんに感謝いたします。読者のみなさま、最後までお読みいただき、ありがとうございました!
竹内薫